私あのこと知ってますよ?
・センター試験の物理(基礎じゃないよ)で20点取った系男子です。
・よろしくお願いします。
「ワシが言うのもなんやけど国家反逆罪で一族郎党皆殺しコースなのどないするん?」
そんな冷や水のような言葉が浴びせられました。
まあ、そうでしょうね。という感想しか浮かび上がらないような正論。
元々は殿下の暗殺に来た挙句にボコられたへっぽこ暗殺者のお前が言うなという言葉はしまい込んでおきましょう。
空気を読め、とも言いたいところですが大局的に見れば空気を読めていないのは兄上の方なので反論の余地もありません。
『……………』
全員の視線が兄上に集中します。
あれだけの啖呵を切ったのです、名案の一つや二つ……
「ほぇ?」
兄上に両肩を掴まれ引き寄せられました。
「ここにサクラがいるだろ?」
いますね。大絶賛存在中です。
それがなにか?
「つまりそういうことだ。うん」
「嘘でしょ兄上……」
丸投げしやがったこの兄。
「大丈夫、お前ならできる」
「いやいやいや、なに私に投げてるんですか。助けるって言ったの兄上でしょ」
「だって俺できねぇもん……」
「もん……じゃないですよ! あれだけ格好付けといてそれですか!?」
「でもお前の方がこういうの得意だろ? ニンジャだし」
「兄上の所属! 情報部!」
***
「あー……まずはこのロイドさんの部下の人たちはここにいなかったことにしましょう」
隠し通路から外に逃げてもらいます。仮面付けているので顔バレはしていないはず。
被害者面して軍に保護してもらうか、普通に身を隠すかはお任せです。
後になって調べれば不審な点は多々出てくるのでしょうが、まあそこはおいおい適当に工作しますよ。
「問題なのは完全にナイトレイ家が反旗を翻しちゃってるってことですよね?」
「ああ……陽平関では既に帝国軍の旗にナイトレイの物も混じっているはずだ」
「無理ゲーでは?」
兄上を振り返り尋ねてみます。
極刑でしょこんなの。
「なんとかしてやってくれ」
気軽に言ってくれちゃってぇ。
「……現実的なラインとしては『私は関係ありません』『全部くそじじいが一人で暴走したせいです』『心は王国にあります』みたいな無関係アピールをしつつ、功績を立てて許してもらう。……とかじゃないですかね」
正直そのくそじじいの首をナイトレイ家の人が刈り取ってきて土下座で許しを請うぐらいしないと駄目な気がします。
「それか、今から宰相の所に殴り込んで陛下を救出するのに一役買う……みたいな?」
というかもうあまり時間ないので戻りたいんですけれど。
陛下か御屋形様のどちらかを失ってもこの国ゲームオーバーですよ。
「それしかねぇよなぁ……」
「それでも没落まっしぐらな気もしますけどまあ……命だけなら」
ですがこれも、許してくれたらいいね、って程度なので。
陛下が「許さん死ね」と言ったらそこで終わりですし、そうでなくとも他の貴族たちからはブーイングの嵐でしょう。
『こんなことになる前にお前が報告していれば』
なんて言われたら何も言えませんしね。
「「「「………………」」」
室内にどんよりした空気が流れます。
……まったく、仕方ありませんね。
助け舟を出してあげましょう。なんたって優秀な妹ですから。
「これが、私がいなかった場合の話です」
「え」
なにをそんな呆けた顔をしているのですか。
当たり前でしょう、ナイトレイ家の話ということなら義姉上やティシアの命も関係してくるのです。
法律だの国王陛下だのどうでもいい。
頭を下げて許しを請う、なんて不確実なことなんてしませんよ。
「そうですね、許してくれないなら……脅します!」
「え?」
どうせ平身低頭したってネチネチ文句を言われるのですよ、めんどうくさい。
脅し、揺さぶり、頭を垂れさせ、上から目線でこう言ってやるのです。
『許せ』
と。
「「えぇ……」」
リキッドとロイドさんが困惑したような表情を浮かべます。
なんですか、ついでとはいえ一応あなたのためでもあるのに。
「ネタはあるのか?」
「ジョー!?」
脅迫のネタですか。貴族のなら割合沢山あるのですが対陛下となると……。
「ふむ……」
顎に手を当てて、ちらりととある方向を向きます。
「そこに王太子殿下がいますよね?」
「ひっ!?」
「それは……やめてさしあげろ……」
「えー」
駄目ですか、そうですか。
なら。
「兄上」
「なんだ?」
「私って結構すごいですよね?」
「おう」
ですよね。
「どこにでも忍び込めますよね?」
「まあな」
うんうん。
「私、兄上のあの秘密知ってますよ……って言ったら、どうします?」
「なんっ……だと……!?」
おやおや、どうしたのでしょう。
そんな急に滝のような汗をかいて。
ハンカチ要ります?
「い、妹よ……お前は何を言っているんだ?」
「いえ別に、私は何も」
「何もってなんだよ! 言えよ、気になるだろ!?」
「だから本当に何も知りませんよ、言ってみただけです。つまりは、こういうことです」
そこまで言うと兄上も気づいたようで、
表情が焦ったものから真剣なものへと変わります。
「お前、何を知っている?」
「知りません。さすがに不忠ですので、無断で調べたりはしてませんよ」
「証拠も無しにハッタリで脅そうってか? 相手は賢王だぞ」
「そうですね、彼の人は優秀な御方です。それは一度お話した時に理解しています」
だからこそ、叩けば埃のわんさか出てくるお体をしてらっしゃるのです。
「そうですね……強いて言えば今回の件で王城内の隠し通路は全て把握していますので、これはそこそこ良い手札ではないでしょうか?」
これは、
私はいつでもあなたを殺せます。
逃げ道はありませんよ。
という圧力になるでしょう。しませんけど。
王族の人って病的に暗殺を恐れたりするじゃないですか、特に家族を殺した経験のある人は殊更にその傾向が顕著です。
「それに私は今から八面六臂の大活躍で陛下をお助けする予定ですから、お願いの一つぐらい聞いてくださっても良いでしょう?」
私がどういう人間かは、そこでたっぷりお見せします。
フフフ……。
「……妹、怖いなぁ……」
・別作品で「陽炎、稲妻、水の月」という小説もなろうに投稿しているので良ければ一読ください。
・カドアナ




