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兄より優れた妹など存在しねぇ

・炎のシュナイダー編突入です

・お兄ちゃん登場回

・恋愛要素は曹操に降ったあとの徐庶の存在感ぐらい。

・改稿するかも

・ハードルは地中に埋めて十年後に掘り返してください。

・六時の予定が予約投稿ミスっちゃいました。


 おはようございます、アレクサンダー・アブソルートです。

 今朝いきなり執務室の扉が開いたかと思うと、簀巻きにされた状態で気絶している赤い髪の男が放り込まれました。

 意味わかんない。もとい、意味わかりたくない。


「お館様、今日のネズミです!」


 たまにノック忘れるよね。

 満面の笑みでそう言うのはワシの愛娘、サクラ・アブソルート。

 娘よ、暗殺者は牛乳じゃないんだから毎朝持ってこなくてもいいんだよ?


「今回は中々面白い趣向のネズミでした! 火気もないのに体が自然と発火したんです! バーンって! 不思議でした! 今度やってみようと思います!」


 いつになくテンションの高いサクラ、こういうとこ見ると十三歳だなぁと思うのだけれど言ってることが物騒なんだよね。

 なに? 燃えるの?


「うん、やっちゃダメよ?」

「大丈夫です! ちゃんとバケツに水を入れて用意しておきます!」

「そういう話じゃないの、花火やるのとは違うからね」

「? ……はい!」


 いまいちわかってなさそう。

 それにしても最近めちゃくちゃ刺客が送り込まれてくるね、ワシなんかした?

 こんな飲みにケーションぐらいしか能のないおっさん殺したってなんも出ないよ、だってワシいなくても領地回るようにしてあるし。

 むしろワシ必要? ってレベルだし、最近執事長のルドルフからオブラートを百枚ぐらい包んだ「余計なことすんな」をいただきました。悲しい。

 ワシだって領民のために何かできないかって頑張っただけなのに……


 だから狙うのやめて。お願い。お饅頭あげるから。


「それで、ここからが本題なのですが……」


 暗殺者の捕縛も十分本題でいいと思う。


「兄上が帰ってきます!」


 サクラは、嬉しそうにそう言った。





 =========





 ジョー・アブソルート、アレクサンダー・アブソルートの嫡男で二十一歳。

 王立騎士団の特務師団、いわゆる情報部に所属し、最近では対帝国の任務に就いている。

 文武両道を地で行く新進気鋭の若手騎士でありながら次期侯爵、容姿は端麗で人格も同僚から聖人君子とまで言われるほど慕われている。

 美人でおしとやかな十八歳の伯爵令嬢の許嫁がおり、仲睦まじいリア充。

 きっと神様が「ぼくのかんがえたさいきょうのにんげん」とか言いながらノリで作ったに違いない。人の世って不平等!

 特殊性癖でも持ってないと割に合わない高スペックだが欠点がちょっとツンデレなところぐらいしかなく欠点になってない。

 一回死んでほしいところだがそれはそれで悲しいのが非常に腹立つ。

 国はイケメン税の導入を真剣に検討するべき。

 でも最近、部隊で飼っている犬から格下に見られているのが分かったので同期男子一同ちょっと満足している。よく機嫌を取ろうとしているが逆効果なのをわかっていない。


 以上、友人Dさんのジョー・アブソルート評


 そんなジョーにも弱点がある。


「あにうえーひさしぶりー」

「ええい! ひっつくな! 抱きつくな! なんでちょっと焦げ臭いんだお前!」

「おんりーまいぶらざー!」

「あと二人いるだろうが馬鹿!」


 弟妹(きょうだい)である。特にサクラ。


「それにしても連絡もなく急に帰ってくるなんてどうしたの?」

「あにうえおみやげー」

「はい、火急の報せがありまして──」

「おみやげぷりーずみー」

「王都で何かあったのか?」

「おみゃーげー」

「……いえ王都ではありません。危険なのは、アブソルート侯爵領です」

「ねーあにうえー!」

「じゃかぁしぃっ! ルドルフに渡してっから自分で取って来い! そんで勝手に食え! そんで太れ! 豚になれ!」

「いーーーやっふぅーーーーー!」


 一陣の風となりて屋敷を駆けるサクラを見送りながら、ジョーはうんざりしたような顔でため息をついた。

 その光景を見てワシは思う。羨ましいと……!


「ワシ、あんな風に甘えられたことないよ……?」

「……影を演じるにも主がいないと意味がないわけですから、仕方がありません。それに、別にサクラも父上を慕ってないわけじゃない。根底には大好きな家族ってのがあるから偶には今みたいに父上の前でも仮面が剥がれるでしょう?」

「はっ! ……主役を他の人に代わってもらえばワシにも甘えてくれる……?」


 名案! ワシってば天才!


「やめさせるって考えはないんですか……?」

「サクラを甘く見ちゃだめだよ、もうすでにハンスとルドルフからのお墨付きもらってるからね……」

「俺だってもらえてないのに……!」


 頭を抱えながら愕然とするジョー、気持ちはよくわかる。

 ちなみにハンスは前々回の通りだけど、ルドルフはハンスと同時期に武術大会で十五年連続準優勝の記録を持ち、嵐のハンス、柳のルドルフと呼ばれ畏怖されたスーパー執事だよ。

 今は荒事には積極的には関わらないけど、サクラがまだ小さい頃は侯爵屋敷の番人を兼任していた過去があったり。


「でも主が替わるって嫁に行くってことでは……?」

「やだーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「うるさっ……」


 今のガチトーンだったよね、傷つくよ。親に向かってなんだいその目は。

 いいかい冷静に考えてみてほしい。何故サクラを嫁にやらねばならない?

 何をどうしたらワシの可愛いオンリーマイエンジェルを嫁に出すという発想が出てくる? 頭おかしいんじゃないか?

 五千兆歩譲ったって入婿だろう。だよね?


「うわぁ……めんど……」

「私も嫌ですっ!」

「えっ、誰? いたの?」

「だよねメーテル!」

「はいっ! お嬢様が欲しければ私を倒してからにしてもらわないと!」

「そう! ハンスとルドルフを同時に相手取って勝てるぐらいじゃないとね!」

「いやそれ人間じゃないのでは……?」

「お父さん許しませんからねーーーーー!」

「もし」


 その時、執務室の扉を少し開けてそこから顔を出したルドルフが声をかけてきた。

 声音は優しく紳士的な笑顔、ではあるが──


「旦那様──」


 その眼鏡がキラリと光るとき。

 それは、激おこのサイン──


「すいませんでしたぁっ!」

「父上ぇ……?」


 怒られる前に謝る。息子に情けなく思われようが構わない。

 王国の武の最高峰に睨まれるってのがどれだけ恐ろしいか、インドア派のワシには堪えられるものではない。

 上司と部下の関係なんて圧倒的武力の前にはあってないようなもの。

 知ってる? 上司って殴ると死ぬんだよ?

 従業員満足度の高低は命に係わる。

 ちなみにメーテルは気配を消してどっか行ったみたい。ずるいね。


「……まぁ良いでしょう。まだ朝も早い、くれぐれもお静かにお願いします」


 ルドルフはふっと息を吐くとそれだけ言って帰っていく。

 生き残った……まだ心臓がバクバクドキンとしている。気づくと滝のように汗が流れていたのでハンカチで拭く。背中がびっしょりと濡れている気もするのであとでシャワー行こうと決意がみなぎった。


「父上、それで報告なのですが」

「あ、うん」


 ジョーが先ほどまでのやり取りをなかったことにし始めたのでそれに乗っかっておく。

 ちょっと頭落ち着いたら恥ずかしくなってくるよね。

 あーサクラに見られなくてよか──


「………」


 そう、サクラは部屋のソファに座っていた。

 美味しそうなお菓子をホットミルクと一緒に楽しんでいるようで顔が輝いている。

 そうだよねルドルフがこっちに来たならサクラも戻ってるよね。


 これだから気配遮断スキルは!!!

 お菓子に夢中だから話は聞いてなかったみたいだけど。


「あにうえ! これ! 私が食べたいって言ってたジャン・ジャック・ジョルジュのお菓子じゃないですか!? 覚えててくれたんですか!?」

「たまたまだ」

「でもこれって開店六時間前から並ばないと買えないって噂のパウンドケーキですよね!?」

「勘違いするなよ、ちっと空き時間ができて暇だっただけだ」

「ディアマイブラザー!」

「いいから座って静かに食え!」

「はい!」


 家族の微笑ましい光景に頬が緩むよね。ジョーは基本的に王都の方で暮らしているから、サクラはあまり会えないことを寂しがっていたから、嬉しそうで大変結構。

 いやでも、それにしても美味しそうなケーキ……


「父上の分もありますよ、ラムレーズンのが……」


 何かを察したようにジョーが苦笑しながら言う。

 こーいうところがね。

 慕われるんだろうね。羨ましい。


「それで報告なんですが……」

「うんうん」


 テイク3


「帝国が暗殺者を雇ったとの情報が。名はグレイゴースト。太祖と同じくして歴史から姿を消したと言われていましたが、現在は直系が名を相続し帝国を拠点に傭兵集団として存続しているようです。今回動き出したのはその中でも四天王! 風のガルブレイスと呼ばれる危険人物です。即刻ハンスを呼び戻し、屋敷の警備を固めるべきかと!」

「それ今日サクラが捕ってきたやつ?」

「いいえ父上、今日捕ったのは『俺は炎のシュナイダーだ!』と名乗っていましたから違います。おそらくは先日のかと」

「そっかー、ジョー。大丈夫だって」

「…………」


 ジョーの顔から表情が消えていた。

 王都で自分の仕事をしながら、侯爵領のことについても意識を回すのは大変だったことだろう。

 グレイゴーストについて調べる労力は簡単には推し量れない。

 満を持して情報を持ち帰れば自分の情報が一回り遅れていたことを突き付けられる。

 我が子ながらどんまいとしか言いようがあるまい。


「……まだあります、侯爵領にポーションの材料になる麻薬が流入していることは?」

「もう潰したよあにうえー」

「エトピリカ商会の黒い噂について──」

「調べたよあにうえー、ルドルフが資料持ってるよー」

「リットン子爵の屋敷に不審な人物が出入りしている件──」

「帝国の人間ってとこまではわかってるよあにうえー」

「最近領海付近に出没している海賊──」

「あれも帝国の人間だったよあにうえー」

「関所付近で頻発している失踪事件については──」

「あれ犯人は熊だったよあにうえー、強かったよー」

「ふんぬぅ!!!!」


 いきなり手に持っていた書類を全力で地面に叩きつけるジョー。

 そして何度もそれを踏みつけにする。書類さんかわいそう。

 サクラはいまいちわかってない表情で首を傾げた後にパウンドケーキへと向き直った。一口食べるごとに腕を振り回して喜びを表現している。

 幸せそう。

 熊倒したって本当? お父さん聞いてないよ?


「まあジョーは王都にいるわけだし……」

「王都にいたら十三歳の妹に負けてもいいんですか!?」


 いや勝ち負けとかないから。

 同じ土俵で同じ仕事やっているわけじゃないし。ジョーはどんどん手柄を立てて出世していると聞く。


「今でもジョーは十分以上に働いてるじゃない。これ以上どうしたいの?」

「そんなの……そんなの!」

「そんなの?」

「あなたの誇れる息子で、弟妹たちの強くてかっこいい頼れる兄貴でいたいからに決まってるじゃないですか!」


 うわっ眩しっ! 良い子過ぎる。


「あにうえかっこいいー!」

「うるせぇ!」


 自分で言っておきながら怒鳴るジョー。その顔は赤く染まっている。

 うん、まあ、弱点は弟妹だね。










 特に関係ないけどこの日を境に「イリムコ ボーガイ ホーホー」という謎の呪文を呟きながら領内を歩き回る奇妙な人間が現れたらしいよ。怖いね。


・炎のシュナイダー編遂に完結です。

・風のガルブレイス編はたぶん第一話だったんだと思います。

・続きは未定です、早くも全六話をブラッシュアップしたいのでもししたら活動報告に書きます。

・Twitterでアンケート調査してるので暇すぎて死にそうな方はマイページから飛んで投票だけして行ってくれたらなと。

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[気になる点] 「華族」ではなく「家族」かなと。
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