会者皆敵 1
・一人称*三人称です。ややこしゅうてすいません。
・特に関係ないんですけどドリフターズ最新刊めっちゃ面白いですよね。人生のかっこいいすべてのことが詰まっている。理想です。程遠いけど。
・丹波一つに十年かかる雑魚が良い感じに嫌い。
潜入任務です。潜入任務なのです。横文字で言えばスニーキングミッションなのです。
こちらブロッサム、王城に侵入した。大佐、指示をくれ。とか言ってしまうのです。
段ボールに隠れて敵をやり過ごした後に、CQCで全員フルボッコにしたりするのです。
なんとニンジャっぽいミッション。もう「これニンジャじゃなくてただの超人じゃね?」とか言わせませんよ。言われたことないけど。
「さて、反逆者諸君。此度の私は全力で行かせてもらうゆえ……幸運を祈る」
……なんちゃって。
ええ、大丈夫。「殺しはしません、だから死なないでくださいね」ってだけです。
それに御屋形様が到着するまでは城内の把握に努めますので気配を消してコソコソしてますよ、はい。
ちなみに御屋形様の護衛はヘイリーと復帰したばかりのトーマスを中心に構成しています。若者中心で多少心もとないかもしれませんが、まあ何かあれば信号弾他あの手この手でで連絡するように言っていますし、たとえハンスが相手でも彼らが全滅するより私が到着する方が早いのでノープロブレム。ぶい。
それよりも問題は兄上の方なんですよね。軍の方に聞いたところ行方不明とのこと。
最後の目撃証言は王城方面に向かって一人で歩いている姿。
まーでも死んどらんでしょ。というかもし義姉上を残して死んやがったら私が殺します。
でも捕まってそう。あの兄基本的に不幸体質なので。もし本人が優秀じゃなかったら十二回ぐらい死んでると思う。ヘラクレスもびっくり。
「人質は~どこにいますかね~?」
という訳で早速潜入してみた訳ですが。
王城内はたいへん静かで、すごい簡単には入れました。
人手不足は本当らしく、要所要所の警戒は高めですが広い城内全てをカバーするには手が足りない。たまの巡回にさえ気を付ければメイドでも潜入できそう。
ダンボールの出番はなさげ。
しかしながら国王陛下が人質である以上は軽率には動けません。
愚王と呼ばれた先代の後を継いで、傾きかけていた王国を立て直した現王。
賢王と呼ばれる──今現在裏切られてはいるのですけど──彼の人を失えば正直国が終わります。だって後継があれだし。
鷹が鳶生んじゃったよねあれ。
あれ、生きてるんでしょうか。……死んでるということにしましょう。
「……あ、あった」
抜き足差し足忍び足で城内を回っているとやけに人気の多いエリアが一つ。
地図によれば大広間の一つ。その部屋の扉の前には四人の見張り、室内からはなにやら話し声が聞こえます。
見張りは覆面で顔を隠していて表情は窺えませんが、油断している様子はなし。
少数とはいえ精鋭、でしょうか。四人程度なら一息に倒せそうですが一人でも打ち漏らして大事になればいろいろなものが台無しになります。
それしか道が無いならともかく、独断専行できる場面でないですね。
ここにチーちゃんがいればにゃんこストリームアタックができるのですが、さすがに連れてきてはいませんし……。
大人しく屋根裏にでも行きますかね。
良い場所あったかな……。
***
一方その頃。サクラ潜入ちょっと前。
隠し部屋の扉を蹴破って飛び出した三人は、予期せぬ場所からの強襲に混乱する敵中を蹴散らしながら勢いのまま駆け抜けた。
当然ながら城内の地理は完璧。最短経路を突きって城外を目指す。
「王子だ! 追え! 逃がすな!」
「立ち直り早ぇなおい!?」
「止まるな! 走れ走れ走れ! 追いつかれたら終わりだぞ!」
「どうしてっ……こんなことにっ……!」
混乱からの立ち直りの早い統率の取れた敵に悪態をつきながら三人は城を駆け抜ける。
最悪の想定より敵は多くなかったが、騒ぎを聞きつけてか方々から慌ただしい足音が響いている。
「リキッド! こうっ、煙玉的なサムシングは!?」
「もう一個しか残っとらんが投げてええんか!?」
「とっておきだ、まだ投げるなよ!」
「つーかこんまま最短経路行くと敵とエンカすんぞ! どないすんや!?」
「知らん! 吹っ飛ばせ!」
「前から順にチビ・ガキ・もやしなのにんな突破力ある訳ねぇじゃろがい!」
「俺はもやしじゃねぇ!」
「ちょっち盛っただけじゃ阿保!」
「いいから解決策!」
結局三人は迂回を選択し城外を目指す。
時折振り返っては集団から抜け出した足の速い敵の勢いを利用して殴り倒してはまた逃げるを繰り返す。
だが少しずつ、外へ脱出するどころか内へと追い込まれていた。
数の不利と突破力不足、そして王太子の体力不足も重なって強引に動くことができない。
そのうえ──
(くそっ、完全に城内を把握してやがるな……)
王城は万が一にでも攻め込まれた際に地理的優位を得るために、故意に複雑な構造をしている。
素人が迂闊に迷い込めば迷宮と変わらないほど。地図を持っていても最初の内は混乱する人間が後を絶たない。
なのに、まるで我が家のように敵は自分たちを追いかけ、追い詰めている。
(あいつら……誰だ……?)
最初に情報部から抜け出した時は、暗くて相手の顔が見えなかった。
今は、覆面でその顔は分からない。声もこもって聞き取りづらい。
「………………はっ」
「殿下、大丈夫ですか?」
少しだけスピードを落としながら走り、問う。
口数は減り、呼吸は荒く、顔は俯いている。
最近鍛え始めたとはいえ温室育ちのまだ十二歳だ、大人と追いかけっこをするような体力はない。
「そろそろ……根性じゃ……どうにもならないゾーンに入り……そうだ……」
「……帰ったら妹に便宜図りますんでもうちょい頑張れませんか」
「僕は馬じゃないんだからな!? 目の前に人参垂らせば走ると思うなよ! ちくしょう頑張る!」
顔を上げ前を向いた王太子。
とはいえ、それだけでは寿命が少し伸びただけだ。
(気合だけで走れれば誰も苦労しねぇ……足が壊れりゃそこで終わりだ……どうする……)
思考がまとまらない。
全てが相手に有利過ぎる。せめてジョーもリキッドも装備だけでも万全であればやりようがあったが、場面の動きが唐突にも程がある。
(せめて殿下だけでも逃がさねぇと……)
最悪の場合は、捨て奸。
殿として足止めするしかない。
そんな考えがジョーの頭をよぎった時、声が届いた。
「ジョー! こっちだ!」
「あ!?」
前方には、こちらに向けて手を振っている男が一人。
大部屋の扉を小さく開き、呼びよせている。
その男とは無駄に顔の良い軽薄そうな青年。
「ロイド!? 何でここにいやがる!?」
ロイド・ナイトレイ。情報部所属でジョー・アブソルートの同期でありライバル。
その人だった。
「話は後だ! こっちに来い!」
「うるせぇ! 今てめぇの相手する暇なんざねぇんだよ!」
条件反射。ジョーはロイドが嫌いだった。
「いやいやいや!? そんなこと言ってる場合か!?」
「ジョー! あれお前の友達じゃ──「違います!」
「食い気味!?」
「ええから入るぞ! 味方ならなんでもええ! お前の好き嫌いなんぞ知らんわ!」
「……………わかった!」
三人はなだれ込む様に大部屋へと跳び入り、即座に扉は閉じられた。
ロイドは長椅子などを動かし、扉の前に置いて阻塞にする。
王太子は地に膝をつき、手をつき、呼吸を急いで落ち着かせている。
「悪いが立ってくれ、追いつかれる前にすぐに動く」
「どこにだ……?」
ジョーは汗を拭いながら問うた。
とにかく情報が足りない。
「陛下の所だ、話は後でゆっくりするよ」
・にゃんこストリームアタック:にゃんこの可愛さに敵がメロメロになっているところを背後から襲う猫とニンジャの連携技。相手は死ぬ。
・ちょっと迷ってて、今後の展開によってはお兄ちゃん1号のくだり、前話と合わせて改稿するかもしれません。
・申し訳ございませんがご了承ください。