枷を断つ
・シリアスくんが最後の命燃やそうとしているのでもうちょっと付き合ってくださると嬉しいです。
西の連合からの予期せぬ宣戦布告
暗殺組織グレイゴーストの領内での破壊工作
裏切り者の存在に陽平関の陥落
王都でのクーデターと王城の失陥
なんというかね、世界って残酷だよね。
「もうどうにでもなーれ!」
──なんてことは言わないけれど、さすがに心がしんどいね。
「加えて、クーデターの首謀者から旦那様に出頭命令が出されております」
「え?」
なにそれ。ちょっとよくわかんない。新手の自殺? そんなまさか。
だけどルドルフの表情は真剣そのもの。理解が追い付かないでいると先に怒ったのはハンスだった。そうだよね、怒る場面だよね。……だよね?
「なにが出頭だ! 裁判でもするつもりか? 一体なんの罪で? 反逆者風情になんの権利があると言うのだ!」
「怒るのも理解できますがまずは落ち着きなさい。……旦那様、相手方は旦那様が三日以内に出頭しない場合、国王陛下を殺すと言っております」
「嘘!?」
「本当でございます」
いやいやいやいや。
なんで? どうして? ワシのこと嫌いなん?
「そもそも今は賢王の治世だ、いくら王城を落としたとはいえ民が付いて行くはずがない!」
「そうそれ!」
「確かにその通りではございますがこのタイミング、首謀者が帝国と繋がっているのは確実。目的は政権の奪取ではなく王都の機能を停止させること。クーデターと言うよりはテロリズム、と言った方が正しいやもしれません」
「……そもそも、首謀者は誰なの?」
「不明です。しかし、目星はついております」
ルドルフが言うには王城を占拠している敵はそう多くないらしい。陛下を人質に取ってはいるから手は出せないけれど、王都を管理できるほどではない。
既に王城は軍によって包囲されていて、各地に現状を報せているけれど、それ以上は動けないでいる。
「君たちは完全に包囲されているー」とか
「おふくろさんがないているぞー」とか
「たけしー!」とか
「かぁさんがーよなべーをしてー」とかそんな感じ。
大規模な立て籠もり事件とも言えるかもしれない。
そんな少ない手勢でこの国で最も警備が厳重な王城を陥落せしめたのは、
手際の良さと、情報が筒抜けであったこと、そして首謀者が予想外の人物であったことが挙げられる。
確定ではないが、その人物は──
「ジョエル・シルバ。宰相殿で、間違いないかと」
この国のNo.2であったらしい。
世も末なのかもね。
***
「行くしか……ないよね?」
「反対です」
「私も同意見です」
「むぅ……」
秒で反対された。悲しい。
「でもワシがここにいてもなんもできないよね?」
「「…………」」
そこは否定しないのね。ね?
「宰相殿が何でワシをご指名なのかは知らないけれど、ここで陛下が殺されたりしちゃったらそれこそ王国は終わりだよ。王国貴族としてそれは看過できない」
「ですが今回は俺とルドルフもついて行けない! どう考えても無事で済むわけがないでしょう! 我らに閣下を守る義務があるように、閣下にも生きて我らを導く義務がある! 御身の重要性をお考え下さい!」
「けどねぇ……王都の軍が動かない限りここも無事じゃすまないしねぇ……」
四倍の兵力差がある状況。
いつだって敗北の代償を払わされるのは領民だもの、気合や根性を根拠に動いて良い道理がどこにあろうか。
ベストを目指して成功を勝ち取る、それがやるべきことだ。
「しかし!」
「ハンス、大丈夫だよ」
「そんな根拠がどこにありますか!」
「それは、さっきからいるじゃない」
「────!?」
驚いて後ろを振り向いたハンスとルドルフの視線の先には「ピース! ピース!」をしながらサクラが立っていた。
「駄目ですねハンス。ルドルフも。余裕がないとはいえ背後が疎かです。私が暗殺者なら死んでいましたよ」
二分ほど前から気配を消して後ろに潜んでいたけど、二人は気づいていなかった。
さすがにこれには文句なしじゃない?
「ほっほっほ、長年生きてきましたが……後ろを取られたのは初めてですね」
「……お嬢様ほどの実力の暗殺者は生まれてこの方見たことがありませんな」
「そりゃあまあ、二人の弟子ですし?」
「ね、大丈夫でしょ?」
「「それとこれとは話が違います」」
「あ、はい……」
だめか。
「とはいえ、臣下として思うところはありますが実力を認めない訳にはいきませんね」
「それしか道がないのも、確かだ」
二人は顔を見合わせて諦めたように息を吐いた。
そして言う。
「条件があります」
「……なに?」
「お嬢様の不殺の掟、解除していただきたい」
「……………」
それは、そう、だろう。
それでも、わかったとは、簡単に言えない。
口を噤むワシを見てルドルフはサクラに向き直る。
「お嬢様、人を殺せますか?」
「殺せます」
「敵は悪人だけとは限りません。ただ立っている場所が、生まれた場所が違うだけの善人が相手でも、殺せますか?」
「……殺せます」
「よろしい。何も無闇に殺せという訳ではありませんが、いざという時は迷わぬように。……旦那様もよろしいですね?」
「それは……」
親の無能のツケを、子供が払う。
人の業を、十三の娘が背負う。
一番避けたかったのに、及ばない。
「御屋形様」
「サクラ……」
「御屋形様は、侯爵です。その双肩に掛かる責任は我らの比ではないでしょうが。ですが貴族であるならば、子は家族である前に駒であり道具。時には、その心を無視して使う必要もある。どうか非情であれ。遠慮はいりません、より多くの領民を救うため、私は義務を果たします」
「……………」
咄嗟に言葉が出てこない自分がひどく情けなく──
いやでも逆に、娘の方が強すぎるんじゃないこれ?
ワシのが普通じゃない?
たぶんきっとかもしれない。
「……此処に、サクラに課した全ての制限を解除します」
「御意。我が戦働き、どうかご照覧あれ!」
「まだ戦うって決まったわけじゃないよ!?」
「大丈夫です! 全員ぶちころころしてやりますよ!」
「なんて!?」
殺る気満々じゃないですかやだー。
・マーダーライセンス を ゲットした




