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円卓会議(仮) 

 奇しくも同じ日同じ時、二つの場所で同じ言葉が放たれた。


「「円卓会議です!(だ)」」


 なんて。



 ===========



 特に必要性はないのだけれどカーテンを閉め部屋の灯りを消し、円卓の上に置かれた一本の蝋燭だけが小さく周囲を照らす状況を作ってみた。

 理由はなんかニンジャっぽいかなって。

 闇に潜むは我らの得手なり、とか言ってみたかった。

 でも正直みんなの表情が良く見えなくて不便なので次からはやらない。


「これより会議を始めます。日直、号令を」

「きりーつ。きをつけー。れーい」

『お願いしまーす!!!』

「はいじゃー今日も元気に行ってみよー!」

『いえーい!』


 なんて。

 部屋には総勢二十八名の屋敷猫が揃っています。フルメンバーですよ、壮観ですね。

 でも新たに名前付きのキャラクターを増やしても活かせる気がしないのでしません。

 登場させたとしても精々がXフォースるだけですもの、彼女たちのことは私の心が知っている、それで良いのです。


「本日の議題はこちら『あんの舐め腐った真似をしてくれているグレイゴーストのクソ野郎共をどうぶち殺すか』なのですが──」

「お嬢様」


 大きくはないがはっきりとした声でリーから注意が入った。

 いけないいけない、訂正です。


「えーっと『あの意地悪なグレイゴーストさんたちをどうぶちころころするか』なのですが──」

「………」


 これで良いらしい。


「まずは現状の共有ですね。リー」

「御意。……では、本日野良鼠から戻ったばかりの者もいますので前提条件の確認から。今回の標的は帝国に拠を構える暗殺組織グレイゴースト。雇い主は目下のところ不明。主なメンバーは頭であるエンタープライズと二人の幹部、ペンサコーラとネイティブダンサー。その他、下級構成員が多く動員されています。被害状況としては窃盗や放火等の報告が各地から上っており、特別大きな影響は無いものの領民からは不安の声が上がっています。また幹部と戦闘になったトーマスくんが重傷を負い、エンタープライズとの戦いでウィリアム様が負傷なされました。トーマスくんの証言によると、彼らの行動はとにかくアブソルート侯爵領を荒らすこと、混乱させることに終始しています。また理由は不明ですが彼らは雇い主から殺人を原則禁止されているようです。……現在騎士団が中心となって捜索していますが囮を上手く使われていてまだ尻尾を掴むに至っていません。今後私たちも出撃しますが二人組は絶対に崩さないこと。相手は技量だけなら幹部で私やヘイリーと同等。エンタープライズはウィリアム様に匹敵するでしょう。その上で姑息な手段を躊躇なく使ってきますので、絶対に油断だけはしないように。人相や武装などの情報はこの手配書に……っと、暗くて見えませんね。後で各自確認を。以上で何か質問は?」


 なんか思い出すだけ腹立ってきますね。

 あと暗い場所で会議って馬鹿みたいですね。ほんと次は無いです。

 というかもう灯り点けましょう、はいカーテンばーん。

 …………眩しい。


「はい!」

「はいカレンちゃん」

「雇い主って普通に帝国ではないのですか!」

「十中八九、しかし証拠がありません。一切です。憶測で物事を決め付けるのは危険です」


 そうなんですよね。グレイゴーストの奴ら全然足が付かないんです。

 下級構成員に至っては自分が何のために何をしているのかもわかっていませんでしたし。


「はいでござる」

「はいハジメちゃん、いきなり出てきて語尾でキャラ付けとは良い度胸ですね、私は評価します」

「最初からいたでござるよ!?」

「確かにいましたね、私たちの心の中には」

「肉体もあったでござる!」


 前言撤回、本邦初登場ハジメちゃんでござる。

 なんかこう、自然とか動物とかを味方につける系少女。チーちゃんが一番懐いています。

 語尾がニンジャっぽくて好きです。

 断じてテコ入れではありません。


「で、何でしたっけ?」

「ええと……実際、敵の目的はなんなのでござろうか? 盗みに放火で殺しはしない、嫌がらせの範疇を超えておりませぬ。少しばかり腕の立つ小悪党と言っても良い。放ってはおけませぬが、警備体制を十分に整えればそれほど優先順位は高くないのでは?」

「それは違います、ハジメ」

「お、お嬢様……」


 甘い、甘いです。考え得ること全てが甘い。……嘘、言い過ぎました。


「一度どっかの暗愚絡みでまあ面倒なことが起きましたがイレギュラーの範囲、確かに現状被害は軽微です。しかしそれは、私たちが書類上の数字だけを見ての感想です。それは、家を失くした家族の憤りを、宝物を奪われた子供の悲しみを、大切な思い出の品を失った者の痛みを度外視しています。御屋形様や兄上の立場ならそれが正しいのでしょうが、なれば私たちが愛すべき民に寄り添わずしてなんとしますか! 一刻も早く彼奴を捕まえて被害者の前で土下座させてやるのです! というか! 私は! あいつが! 大っ嫌いです!!!!」

「「「よっしゃぶっ殺しましょう!!!」」」

「みんな」

「「「ぶっころころしましょう!!!」」」


 これいります?


「柿食わせた後に河原に晒し首です!」

「お嬢様」

「さらしくびです!」

「可愛く言ってもダメです」

「ダメかー」


 なんだか王都から帰ったあたりから言葉遣いに制限入り始めたんですよね。

 クソ野郎とかは怒られました。

 なんで?


「ともかく、私たちのアブソルートでの立場は+αなのでああいうのを叩き潰してこそです! 私の謹慎も解けたことですし、全力で行きます! 生まれて来たことを後悔させたうえで、骨のひとかけらもこの世に残しません!」

「…………」


 語彙を多少工夫すれば文句言われないんですよね。

 どういう基準なんでしょう。


「つきましてはこれから何をするべきかなんですが、屋敷猫を三つに分けます。捜索班、防衛班、特務班です。捜索班は私が、防衛班はリーが指揮します。任務は文字通りです、メンバー分けはこの後に。……最後に特務班ですがこれは別件で、少し気になる話があるのでその調査ですね」


 具体的にはグレイゴーストの雇い主について。

 帝国に関わる誰かだとは思いますが、内に敵がいる可能性もあるのでそれを洗います。


「この中で間諜の経験がある人は手を上げてください、潜入じゃなくて」

「「「…………」」」


 一人しかいなかった。

 ニンジャってなんだろう。どっちかって言うと武力制圧よりも情報収集・工作の方が本職なんじゃないでしょうか。

 ……私も人のこと言えませんが。

 しかしながらその唯一の一人がしているどや顔が気に入りませんね。


「あれぇ? もしかしてぇ私だk──ひゃん!?」


 おっと苦無が滑った。活きが良いですね。

 当てなかったのは慈悲です。


「序列二十八番、あなたの発言は私が許可しません」

「そ、そんなぁ!? せっかく帰って来れたのにぃ!」

「黙りなさいメーテル、シベリアに送りますよ」

「ひぇぇ……」


 元帝国諜報機関のエース部隊に所属していたメーテル。

 優秀だけど気持ち悪い、この前の件で序列は最下位に、野良鼠へ転属させましたが全員に招集をかけたので当然帰ってくる訳で……。


「そもそも、帝国の新しい情報は無いのですか?」

「いやぁ……さすがにもう裏切ったのはバレちゃってますからねぇ……完全に手切れ状態ですぅ……」

「そうですか、使えませんねあなた」

「辛辣!?」


 そんなことないですよ。


「まあ特務班はメーテルで。それと、一人だけだと不安なのでフーちゃんも呼びましょう、元グレイゴーストですし経験値も高い。手が足らなければ適宜支援しますので連絡は密に」

「はぁい!」

「返事は『はい』です」

「はい……」


 よし。


「じゃあメンバー分けしますね、グッとーパーで分かれま──」

「お嬢様」

「え、ダメ?」

「さすがに適当過ぎでござろう……」

「むぅ……」


 でもみんなSTRじゃなくてAGIに全振りした脳筋じゃないですか。

 リーやヘイリーにメーテルのベテラン勢以外はみんな若いですから基礎も途中で正直適材適所とか言えるほどの差はありませんし。

 辛うじて野良鼠経験者の方が腕は上でしょうか。


「んー……じゃあ、とりあえずヘイリーは捜索班。クロエは防衛班ですね」

「…………(`・ω・´)ゞ」

「は、はい……」


 警備員が有事に喋れないのは大きなマイナスですのでヘイリーは捜索班。

 いつぞやの山芋風呂のようにやり方が陰湿なクロエには防衛班で性格の悪い罠でも拵えてもらうとしましょう。


「あとは……これといった希望が無い場合はグッとパーで分かれましょ、で。多い方が防衛班です」


 そう言うとカレンやレオーネのような元気タイプが高らかに手を上げて捜索班を希望、クロエに近しい大人しいタイプは静かに防衛班を希望したのでそちらに。

 そのあとグッとパーで分かれて、捜索班九名+私、防衛班十八名、特務班一名+αという形になる。


「防衛班はリーに全権委任しますのでよく従うように」

「「「はーい」」」

「承りました」


 ということで班ごとに分かれて一度作戦会議。

 メーテルがぼっちになるので暇つぶしに笛でも吹かせると異常に上手かった。

 手品や変装もできるし多芸すぎて腹立つ。


「捜索班ですが本格的な行動は明日から、聞き込みなどの基本的なことは既に騎士団の方が請け負ってくれていますので、私たちは怪しい場所をしらみつぶしに捜索します。標的を見つけても無茶はしないように、まずはありとあらゆる手段を使って私や騎士団に連絡を、これは厳命です。いいですね?」

「「「御意」」」


 ヘイリーだけはサムズアップしてた。


「場所の目星は今日中につけておきますので担当は明日の朝には割り振ります。……それと、一応念のために聞いておきますがカレンとレオーネの怪我は大丈夫なのですよね?」


 ちらりと二人を見ながら言う。

 トーマスほどひどくはないとはいえ、二人も一度グレイゴーストに敗北した。

 そのダメージが完全に抜けているとは思えない。


「大丈夫です!」

「心配しないでよお嬢様! 絶好調なんだぜ!」

「本当に? 嘘ついてたら屋敷猫クビにして普通の侍女になってもらいますよ?」

「「…………」」

「…………」


 じーっ。


「「頭痛発熱吐き気諸々(ベスト)によって意識朦朧(コンディション)!」」

「はいベッド行きましょうねー、ヘイリー」

「…………(^^ゞ」

「「あ“あ”あ”」」


 ばいばーい。


「人数減ったのでガルちゃんシュナくんコンビも招集しましょうか」


 見習いコックとして生き生きとしている元グレイゴーストのシュナちゃんと、茫然自失としているけど逆にそれがわびさびを生んでいる庭師のガルちゃん。

 まあなんだかんだ屋敷猫の平均よりは強いですし使えるもんは使いましょう。


「お嬢様、ガルちゃんシュナくんとは誰でござる?」

「あれ、ハジメは知りませんでしたっけ?」

「はい、ここ半年は野良鼠で出ずっぱりでありましたゆえ」


 あー……そうでした。割と最近立て続けに捕まえましたもんねあの三人は。

 とりあえずかいつまんで説明すると絶句された。

 まあさすがに暗殺者ですもんね、みんなから止められもしましたし。


「あ、あんなに美味しいお味噌汁を作るシュナイダー殿が元暗殺者だったとは……」

「そっちですか」


 うん、まあ美味しいですよねシュナイダーくんの作る料理。

 なんで暗殺者やっていたんでしょう……。


「んー……あとで呼ぼうと思ってましたがこの際ですしあの三人も呼びましょうか。ハジメ、フーとガルブレイスとシュナイダーを呼んできてください」

「はいでござる」


 はやくねー。


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