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制圧と撹乱

・ちょっと人称がごちゃって読み難いかもしれません。

・もうちょっとだけシリアスが続くんじゃ。

・どんまい。

・やりたいから許して。

「ありゃどういう手合いだ?」

「ウィリアム・アブソルート、侯爵家の次男で騎士団の部隊長。武術大会で一度見た社長が言うに、甘く見積もって私たちと互角という話ですが……」

「そりゃ何年前の大会の話だ?」

「……聞いていませんでした」


 今日この瞬間、グレイゴーストの二人は初めて身の危険を覚えた。

 ウィリアム・アブソルート、さてこの名はそれほど有名という訳ではない。

 それは鬼才として知られる長兄ジョー・アブソルート、最強の称号を持つ騎士団長ハンスと、前年度武術大会優勝者副団長ゾズマや完璧執事ルドルフの陰にめっきり隠れてしまっているというのが理由として挙げられる。

 だが──


「どこが互角だ査定が甘ぇんだよ! グラブジャムンかあのクソ野郎!」

「ネイティブダンサー! 食べたくなるからそういうこと言わないように!」

「んな暢気なこと言って場合か阿呆! てかあれ食えるのかお前!?」


 ──彼の実力は、アブソルートにおいて五指に入る。

 確かにハンスやルドルフに比べればはずれくじではあるだろう。

 しかし、その二人の弟子である彼もまた一般的に考えれば彼も十分以上に大当たりだ。


「死ね」


 短い言葉に思いっきりの呪詛を込めてウィリアムの愛剣「倚天」が振り下ろされる。

 それを二人は迎え撃たない。全力回避を選択する。

 まともに食らえば即死。なにせ二人は軽装かつ武器も軽量または素手。

 闇夜こそ本来の彼らの戦場であり、正々堂々の正面戦闘なんてものは最も忌むべきところだ。


 ウィリアム・アブソルートは速度ではペンサコーラを上回り、膂力ではネイティブダンサーと同等。

 幼き頃より最強に鍛えられた技量と経験に加え、持って生まれた才能とセンス。

 暗殺者風情に、負けるはずもなかった。


「遅い」


 飛び退いたペンサコーラに対しウィリアムは着地よりも先に追撃の一撃を振るう。


「くっ!」


 ペンサコーラは必至で体を反らすが「倚天」の刃が上半身を浅く傷つけ、血飛沫が上がる。

 倒れ伏したペンサコーラ。

 ウィリアムはトドメを刺そうと剣を掲げ、しかしながらそこにネイティブダンサーが背後から襲い掛かったところを──


「ほいほいっとぉ」


 リキッドから毒針による精密射撃が放たれる。


「リキッドてめぇ!」

「あ~気分ええわ~」


 にやにやと笑うリキッドの顔はひどくネイティブダンサーを苛立たせる。

 もちろんネイティブダンサーにとって彼の針など避けられぬほどの代物ではない。

 その効果は嫌がらせ以上の意味を持たなかった、先ほどまで。今となっては違う。

 疾走に急ブレーキをかけられ前のめりに体勢を崩したネイティブダンサーの頭上には、足があった。

 足。高く掲げられた、踵。


「墜ちろ」


 いわゆる「かかと落とし」。

 筋力重力鎧の重量に硬度なんぞが合わさった、必殺の一撃。

 ウィリアムはトーマスとは地力が違う。

 鎧の可動域ってそんなに柔軟だったっけ、とそんなこと思いながらネイティブダンサーの意識は刈り取られた。


「誰かは知らんがナイスアシスト」

「どういたしましてや、いや~胸がすっとするわ~」


 お互いサムズアップするウィリアムとリキッド。

 実際のところウィリアムはリキッドの援護がなくとも問題はなかったが作業が手早く終わったことは喜ばしい。


「さて、動くなよ女。言っておくが黙秘権はない、弁護士も呼ばないし雇わせもしない。妹を泣かせたツケはきっちり払ってもらう」


 起き上がろうとしていたペンサコーラに向けて冷たく言い放つ。

 普段は楽天家な性格をしているが、ウィリアムはサクラとは違い有事の際は貴族らしく冷酷な面も持ち合わせている。

 当然だが不殺の縛りもなく、戦場以外で人を殺した経験も多くある。

 次期当主である兄や、純真な妹を汚れから守るために幾らでも手を汚す覚悟をウィリアムは持っていた。


「命だけは助けてくれませんか?」


 ペンサコーラは大人しく膝をつき両手を上げる。

 騎士団こそまだ到達していないが既に現場は屋敷猫たちによって包囲されていた。

 戦闘ではウィリアムの速度について行けず足手まといになるので参加していなかった分、逃げ道は全て塞いである。


「それはこれからの態度次第だ」

「何でも話します!」


 とてもいい返事だったと、後にウィリアムは語る。


「……プライドとかないのか」

「さっき猫が食べていました」

「猫が……」


 こういうときって普通、猫ではなく犬ではないかとなんとなくそんなことを考える。

 ともかく発言に嘘は感じられない。

 この女は間違いなく保身が第一だ。


「まあいい、変な気は起こすなよ。えーっと……クロエだったか、騎士団が近くまで来てると思うから呼んできてくれないか。あと、リリー、だよな? 縄持ってないか? こいつら縛ってくれ」


 サクラの部下ではあるが侍女である以上、屋敷猫の皆も特に思うこともなく素直に従っていく。

 むしろあまり関わり合いがないのに名前を覚えてもらえていたことにちょっと驚いたりするし、そういうとこは兄妹なのだなと思ったり。


「……さて、と」


 気絶したネイティブダンサーと、無抵抗のペンサコーラの二人を縛り上げるのを見届けてから、ウィリアムようやくこの件の原因の元へ足を運ぶ。


 ===========


 殿下は凄い気まずそうな顔をしていた。


「で、殿下は何故ここに?」


 話は多少聞いているので察してはいるのだが。


「誠に申し訳ございませんでした!」


 それはそれは綺麗な土下座だった。

 場所が場所なら不敬でこちらが罰せられそうだが、だがなあなあにするのも年長者としてよくないだろう。

 叱る時は叱る、大事。


「自分が何をしたのかはわかりますね?」

「はい! 僕はたいして優秀でもないくせに向上心の欠片もなく鍛錬をサボった上、護衛も連れずにのこのこ暢気に死地にやって来てはトーマスを始めアブソルート侯爵家の皆様方に多大な迷惑をかけた王族の自覚0のおんぶにだっこな色ボケゴミ野郎であります!」

「え? いやそこまで……」


 言うつもりはなかったけど……。

 そしてどこにも否定する要素がない……。

 なんという冷静で的確な判断力なんだ……。

 とまあ、今回の一件はかなり堪えた様子。

 トーマスのボコられ具合を見ればそれも無理もないだろう、全治二か月は軽く超えるだろうか。

 ちょっと前にハンスと戦った怪我が治ったばかりなのに、なんとも哀れ。

 南無。


「まあまあ兄ちゃん、この王太子(笑)はワシが後からきつく言っておきますんで許したってくれませんか?」

「あ、ああ……まあ、俺の仕事でもないか……」


 笑顔の中に怒気を孕むその顔に圧され引き下がる。


「そういえば自己紹介が遅れたな、俺はウィリアム・アブソルートだ。トーマスを助けてくれたらしいな、礼を言う」

「ええ存じとりますよウィリアム様。ワシはリキッド・オブライエンと言います。……礼を言うのはこっちの方ですわ。そもそんの話、この馬鹿が全部悪いですけぇ気にせんでください。トーマスさんには殿下を守ってくださった礼を後日必ずやらせていただきやす」

「……そうか、わかった。……脱走癖のある子供がいると大変だな、お互い」

「ええまあ、ワシもまだ十五ですけど」

「ほう、若いな」

「いろいろありまして……」


 十五といえばトーマスと同い年か。

 若い身の上で苦労しているらしい。

 どこかで聞いたことのある名前の気もするが多分気のせいだろう。

 頑張ってほしいものだ。

 それはそうと殿下だ。


「殿下、まだ若いんですからせめて三年は鍛錬に集中した方が良いですよ。確かにコミュニケーションは大事ですが、今のままでは会っても逆効果です。サクラの好感度を上げたいなら手っ取り早いのが努力家アピールです。合えない間は手紙でも送ると良いですよ、美味しいお菓子とか一緒に添えると内容はともかく返事は来ます」

「…………そうか、わかった」


 非常に苦渋の決断という顔で、殿下は頷いた。

 応援しているわけでもないが、個人的に次兄としてあの末っ子が誰に嫁ごうか構わないと思っている。

 父や侍女や地味にルドルフとか、やけに理想が高いがまあ最悪平民でも善人で貴族になる覚悟さえあれば十分だろう。

 殿下は……うん、頑張れ。

 王妃なぁ……適性はあるけど、ちょっと宝の持ち腐れ感があるよなぁ……。


 そういえばピーターはどうしているだろう。

 親同士で内々に話し合っていた婚姻、相手のお嬢様を一度見たことがあるがかなり真っ直ぐで元気溌剌な少女だった。

 正反対な性格というか、体質。

 大丈夫だろうか、死んでいるかもしれない。

 南無。


 ……ああそうだ、殿下に助言したなら公平にトーマスに助言しなければ──

 とも思ったが今は喋るのも辛そうだ。

 南無。


「……これさっきもやったわ」


 後で如何にトーマスが頑張ったかサクラに教えといてやろう。

 ピーターにも手紙でも出してみるか。

 そう考えると帰ったらやることが多い。

 サクラが言っていたクソ野郎も捕まっていないし、領内全体で警戒レベルを上げることも必要だ。

 誰が黒幕かは知らんが締め上げてやらねば気が済まな──


「ウィリアム様!」

「っ!? なんだ!」


 突然、屋敷猫の誰かが声を上げ、その刹那、空に乾いた音が響いた。


「信号弾!? 何処だ! 誰が呼んでいる!」

「わかりません! 少なくとも屋敷猫のものではございません!」

「誰か人をやって調べろ! 二人組でだ、何か異変があればすぐに一人は戻って来い!」

「はっ!」


 選抜された二人が素早い動きで発信源へと向かう。


「なんや? 何が起っとるんや?」

「わからんが……規定外の信号弾などそうそう上がるものでもない。単発しか上げられないほど緊急か……」


 くそっ、早く騎士団が到着してくれれば良いもの──


「またっ!?」


 その時、先ほどとは別の方向、離れた場所でまた信号弾が上がった。

 連続二発。だがそこにメッセージは込められていない。

 緊急か、いや違うだろう。もしくは──


「っ!? リキッド、殿下を守れ! 屋敷猫は全員集まれ! 中心にだ! 奇襲警戒! 捕虜を見張れ、逃がすなよ!」


 ああくそ、撹乱か。

 騎士団の注意を逸らすための。

 そう考えた途端に、予想通りまた何処かで信号弾が上がった。三発。

 おそらくこれは偶然だろうが、騎士団において連続三発は「敵発見」の合図だ。

 今ここで自分たちが信号弾を上げても、騎士団を余計に混乱させるだけだ、そもそも伝えられる情報が少なすぎる。



 まず間違いなく、敵の仕業。


「そうか、サクラの言っていたクソ野郎だな……」


 仲間を、助けに来たか。


「来るなら来い、殺してやる」


 捕虜は、二人いれば十分だ


・みんな大好きな彼が出てくるよ。

・注意してね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >僕はたいして優秀でもないくせに 小さな子供以下で路傍の小石以下な埃にすら負ける屑王子では?
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