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サクラ・アブソルートのお仕事 3

・あれは嘘だ

・たぶんって便利な言葉

・短いです

・恋愛要素は東西両軍の小早川秀秋への好感度ぐらい

・改稿するかも

 リッキー・ランバルトゥールは混乱する頭で状況を整理する。

 気づいているのか、バレているのか、嵌められたのか、メーテルは何をやっている、どうして教えてくれなかった、裏切ったか、仲間は捕まったのか、ニンジャってなんだ、ガルブレイスはそれに負けたのか、じゃあ俺はここで──

 死ぬのか──。


「旦那様、トーマスです」

「ああ、入れてあげて」


 その名前は知っていた。トーマス・パットン、アブソルートの麒麟児。

 王国近衛第一騎士団の誘いを蹴り飛ばしてアブソルート侯爵家にやって来たという剣の天才、その実力は王国騎士団総長すらも認める折り紙つき。

 俺ごときが正面切って戦えば二分と掛からず殺されるだろう。

 ああくそ、ただでさえ高い逃走の難易度が跳ね上が──


「ん?」


 しかし入ってきたのは半泣き汗だく疲労困憊の美少年だった。


「あらま、トーマスどうしたの?」

「はぁ…はぁ…はっ……ごっ、ご報告致します! リー・クーロン及びレオーネ・ナックル、カレン・カトラス、クロエ・グロリオーサ四名、屋敷の敷地内に侵入したネズミを四匹捕縛したとのことです!」


 トーマスが息切れしながら一気に話すその報告に、心臓が止まりそうになる。冷や汗が止まらない、手が震える。

 俺に何かがあった時のための部下が全員捕縛されたのだ。適当な数合わせを連れてきたつもりはない、組織の中でもまだ若いが有望株を積極的に選んだ。

 なのにどうしてここまでしてやられるのだ! アブソルートの影としての役割は終わったはずじゃないの! このクソ侯爵テメェの娘何者なんだよ十三歳だろうが! 家で刺繍とかさせとけよ! なんだニンジャって……常識で考えろ!


 いや待て、まだ終わりじゃない。予備の予備がまたいたはずだ。

 正直あれに頼ることになるとは思ってもみなかったというか、あれ、なんか俺思考がもうここで死ぬ方向にシフトしてる気がする、待て早まるなこれはアブソルートの罠だ。

 いや既に罠に嵌ったから死ぬんだわ。なんかもう頭まとまんねぇ。

 とりあえず頑張れ予備の予備、名前も見た目も忘れたけれど頑張れ!


「お館様、一匹追加です」

「にゃー」


 いきなり部屋の扉が開いたかと思うと一人の男が投げ込まれた。

 ああ、これ確か予備の予備だ……完全にのびてる……


 続いて入ってくるのは声の主、翠色の髪に迷彩柄の服を着て少女とその肩に乗っかった赤茶の猫。

 その雰囲気は歩き方や姿勢一つとっても並々ならぬものを感じさせる。

 おそらく彼女が──


「おかえりサクラ、怪我はない?」


 サクラ・アブソルート、頭のおかしいご令嬢……!


「ご心配には及びません、チーちゃんにかかればネズミの一匹や二匹朝飯前です!」

「にゃー!」


 猫を両手で掲げてどや顔する娘となにやらファイティングポーズ的な何かをしていると思われる猫。

 そして俺は泡吹いて倒れている予備予備野郎を見た。


 お前、猫に負けたのか……それでよく暗殺者が務まるな……。


「そうかそうか、よくやったねチーちゃん。来月からはもうワンランク上の良い餌を仕入れてもらおうか?」

「にゃー……」

「『ははっ! お館様、この程度の些事の度に昇給しては早晩侯爵家が破産してしまいますぞ? 餌は今のままで結構! 昇給は大物食いに成功した暁には謹んでお受けしましょう、例えば……そう、そこの侯爵家騎士団長様とか、ね……』と申しております」


 いや言ってねぇだろ、にゃーのどこにそんな情報量入ってんだよ常識で考えろ。

 てかどんだけストイックなんだ渋すぎるだろその猫。

 というか侯爵家騎士団長って王国主催の武術大会で25年連続優勝を成し遂げて殿堂入りした化け物だぞ理想高ぇなおい。


「ほう……猫畜生の分際で俺と張り合うと? これは一度、最強とはどういう意味なのか、野生の勘を失ったその鈍った体に直接教えてやらんといかんかな?」


 すると、侯爵家騎士団長様が猫にそう返した。

 いやあんたも乗るんかい!

 さっきまで空気だったじゃん! 気配消してたじゃん! 一文たりとも同じ空間にいる描写されてなかったじゃん! 猫相手に本気の殺気を出すなよ、あんたもう五十過ぎてんだろうが!


「にゃ~」

「『ふっ……確かにあなたは最強だ。しかしながら、最強とは常勝や無敗という意味ではない、強さの上に胡坐をかいた頭の固い人間一人、倒す術など幾らでもある。実際に御覧に入れましょうか、()()()?』だってよハンス?」


 だからどこにそんな情報量があるんだよ!

 セリフが一々かっこいいんだよ! 全然そんな顔してないからね、精々が『さっき食べた煮干し中々うまかったな~』みたいな表情してるからなその猫!

 ほら今あくびした!

 てかなんでさっきから俺はツッコミをしてるんだ!



 ……いや、これ、逃げられるんじゃないか?

 俺を無視してめちゃくちゃ和気藹々と話してるし。

 そこの窓をぶち破って飛び出ててスーパーヒーロー着地を決めたあとダッシュで逃げて森に入ればチャンスはある。

 よし行くぞ……5・4・3・2──


「あら、アーネスト様お帰りですか?」


 わざとらしい大きな声が部屋に響いた。

 振り返ると、そこには大変性格の悪い笑みを浮かべた女が一人。

 メーテルだ。


「ああ、最後の一匹がまだでしたね」


 その言葉に部屋全体の視線がこちらに集中する。

 ああそうだろう、バレていた、最初から、全部。勘が当たっていたのだ、くそぅサラリーマンじゃなければこんなところ来なかったのに!

 メーテルめ、裏切ったのは保身のためか? それとも帝国すらも裏切ったのか?

 情報をべらべら喋ったのも罠だったのか?

 可愛い顔してるからって舐めやがって。


「メーテル貴様! 裏切ったのか!」

「あら~? 裏切るもなにも、もう私帝国の人間じゃありませんしぃ? あなたに味方した覚えもありませんしぃ? もしかして勘違いしちゃいましたぁ? ちょっと優しくされただけで勘違いしちゃいましたかぁ~、そっかぁ~、すいません、そんな初心な方とは私ぃ思いもよらずぅ……ごめんなさい! お仕事だったんです、本気にしないで♡」

「クソったれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ちょっと図星だった。





 =========





 マイネーミーズ侯爵。いや侯爵は名前じゃなかった。

 それはともかく応接室にはランバルトゥールくんの慟哭が響いています。


「うるせぇ! お前みたいな女こっちから願い下げに決まってんだろうが!」

「うわ、モテない男のテンプレムーブ。ださっw」

「~~~!」


 口に手を当ててニヤニヤしながらププッと笑うメーテルさん。

 性格が悪い。

 さっきまで明らかにハニトラやってたからね、いわゆるさりげないボディタッチとかふと見える肌の露出とか。

 引っかかる方も引っかかる方だとは思うけども、だってランバルトゥールくんもその道のプロの訳ですし。

 ワシもスパイ時代のメーテルを微笑ましい目で見てたので人のこと言えないけど。

 ああでも暗殺者組織に所属してると禁欲主義的な生活を強いられてるかもしれない、どんまい。


「もういい……」


 ん? ランバルトゥールくんのようすが?


「全部ぶっ壊してやる!」


 ……爆弾だー。自爆用かな。

 ほらー、拘束してない状態で煽るからーもう……。


「あーあ」

「何をやっているのかしら、メーテル」

「正直申し訳ございません」


 彼の体に巻いた大量の爆弾はこの部屋ぐらいなら容易く吹き飛ばせるだろう。

 暗殺組織って全員にあんなことさせてるの?

 離職率高そう。従業員は大切にしなきゃだめだよ。


「もうちょっと慌てろや!」


 ランバルトゥールくんが吠える。

 そう言って火縄にマッチで火を点ける。


「いやだって」

「ハンスいるし」

「ですねー」

「にゃー」

「行けトーマス」


 おーっとここでハンス選手のキラーパス!

 え? 大丈夫?


「僕ぅ!?」

「がんばってトーマス」

「行きます──」


 単純! 単純だねトーマス!

 伊達にサクラの護衛騎士二年続いてないね! だいたいみんな心が折れて原隊復帰するのに!


 姿勢を低く前傾姿勢。居合の構えからの踏み込みで一瞬のうちに距離を詰める。


「しっ!」


 一閃。

 その一撃は雷霆の如く、空を切り裂く。


「は?」


 ランバルトゥールは依然として健在。

 トーマスは、火種だけを斬り離した。


「てやっ」


 呆然としているところでサクラが苦無を投げつける。


「は?」


 それは綺麗な直線で額に直撃し、ランバルトゥールくんはそのまま力の方向に倒れる。

 え、やばない? 死なない?


「大丈夫です、刃は潰しております」

「ならよかった」


 ……いいのかな? いいのかも。

 うん。


「お掃除完了ですね!」


 娘が笑顔ならたぶん間違いじゃない。


 正解かは知らない。


さよなランバルトゥール


ストック0のお先真っ白なので続きは未定


活動報告ちょっと書いてます。

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