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再☆登☆場

・王太子殿下視点にするのが嫌だったので三人称視点にしました。


 王太子クラウディオは焦っていた。

 それはもう焦っていた。

 焦り過ぎて心臓がやばい。

 ついこの間も王城で焦っていた気もするがあの時もやばかった、しかし今回はそれ以上のやばさだ。

 なにせ前回は衛兵の過失と言えないこともないが今回は九割九分九厘自分が原因である。

 誰が悪いかと問われれば、目の前のゴリラみたいな男が全面的に悪いと声高に訴えてやりたいところだが、自分が余計なことをしなければこんなことにはならなかったという揺るがぬ事実が胃をこれでもかと蝕む。


 こころがしんどい。


 稽古をサボり、部下を置いていき、一人で他所の領地にやって来ては、迂闊にも命を狙われて他所の騎士に庇われる始末。

 しかもその騎士はおそらく恋敵。自分と歳もそう離れていないであろうに、格上相手にボロボロになりながらも騎士の矜持を捨てないその姿には心震えるものがあった。

 対して次期国王であるはずの自分は足が竦んで動けない、守られてばかりで足手まとい。

 これ以上ないほどに疫病神。

 ダサいとかそういうレベルではない。


 いきるのがつらい。


 そして、とうとう騎士が膝を屈した。

 心ではなく体が先に折れたのだ。


 だがそれでも、王太子は動けなかった。

 それは彼が臆病なのもあるが、騎士が動くなと言った以上、無力な彼は騎士を信じるしかなかったからだ。

 そして、遂にトドメの一撃が騎士を襲おうとした瞬間に、救世主がやって来た。


 ===========


 振り下ろされた一撃は空を切った。

 騎士が動いたのではない、動かされた、引き戻されたのだ。

 ある少年の手によって。


「お?」

「あら?」


 ペンサコーラ、ネイティブダンサー、二人の暗殺者の顔が軽い驚きを浮かべる。

 予想外、というのが二人の正直な感想だった。

 その一瞬の虚を突いて彼は地面に煙幕玉を叩きつけ、トーマスを連れて後方へと下がる。


「小癪な」

「しゃらくせぇ!」


 すぐさま二人の剣や拳の圧によって煙は払われるが、同時に複数の小針が二人へと向けられていた。


「ちっ」

「おっとあぶねぇ!?」


 ペンサコーラは剣で弾くが、ネイティブダンサーはギリギリのところで避ける。

 掠りでもすれば危険だと、知っていたから。

 体勢を立て直し、前を向く。

 そこには瀕死の騎士トーマスと、王太子クラウディオ。

 そしてフードを被った小柄な少年──


「舐めた真似をしてくれるじゃねぇか! なぁ!? リキッドよぉ!」

「……ちっ、筋肉ダルマが……当たれや、必殺技やぞ」


 ──元グレイゴースト四天王リキッド・オブライエン、その人であった。


 ===========


「おおおお、お、遅いぞリキッド!?」


 王太子クラウディオはそう言った瞬間、リキッドのビンタにより「むぎゅ!?」という音と共に地面に倒れ伏す。

 何事かと見上げれば憤怒の形相。

 リキッドは怒っていた、それはもう怒っていた。

 森羅万象が憎かった。


「ああ!? おめぇが稽古抜け出したんが悪いんじゃろがい殺すガキ! 探すのにどれだけ時間かかったと思っとたんじゃボケ!」

「……ごめんなさい」

「死ね」

「謝ったのに!?」

「当然やろ……何をどうやったらこんな最悪の状況になるんや……」


 そう言うリキッドの額には汗が滲んでいた。

 疲労によるものではなく緊張によるものだ。

 グレイゴーストに所属していた彼は曲がりなりにも四天王、沙羅双樹の二人のことはそれなりに知っていたし実力も知っている。

 つまりは実力差も十分理解していた。

 どう足掻いても一人では及ばない相手が二人。

 ずばり窮地。横文字言葉でピンチ。


「死んだと思っていたのですが、生きていたのですねリキッド」

「ええ、捕まりはしたんですが色ボケ王子がなにをとち狂ったか解放してくれましてね」

「それは良かったですね。……それで、これはいったいどういうことですか?」

「そりゃ転職ですわ、いい加減ブラックは辞めよう辞めよう思うとったんですよ」

「そう、賢明な判断です、私はその決断を評価しましょう。……しかし、転職先もブラックなようですね」

「金払いがええだけあんたんとこよりマシや」


 ちなみに今の給金は前職の二倍。


「その件については全て社長が悪いです」

「嘘こけ。あんたが給料ピンハネしてんの知っとんやぞこっちは」

「ばれてましたか……」

「そんなことしてのかお前」


 呆れたという表情を浮かべるネイティブダンサー。

 だがリキッドの怒りの矛先は一つではない、二又。

 エンタープライズを合わせれば三叉槍である。


「お前はお前でワシの故郷への仕送りちょろまかしとったやんけ!」

「んだよ……ばれてたのか」

「気づいたんは辞めた後やけどな……」


 ブラックにいると感覚がマヒすると、リキッドは憎々し気な視線を向けるが二人はどこ吹く風。

 やはりクソ野郎である。

 今の主も大概だが、これは馬鹿なだけなのでかなりマシだ。


「ああ、そうだリキッド。あなたの派遣会社には死んだって伝えてあるから帰らないでください、お金返さなければならないので」

「ほんま最低やなあんたら!」

「いやいやペンサコーラ、ここで殺せば良いだけだろ? 簡単じゃねぇか」

「それもそうですね」

「っ!」


 殺気が増幅したのを感じ、身構える。

 しかし、リキッドでは一分と保つまい。

 そもそも四天王でも正面戦闘では最弱なのだ、奥の手が簡単に破られた状況で勝機など等しい。

 戦うだけ無駄だ。


「いやまあ、一人で戦う気なんてないんやけどな」


 残念ながらリキッドには王太子のために死ねる! というほどの気概も忠誠心もない。

 いくら金払いが良かろうと死んでは意味がない。

 つまりここに現れた以上は──


「あんたら敵地で長居しすぎや」


 懐から取り出すは何の変哲もないただの信号弾。

 それは慣れた手つきで打ち上げる。

 昼間ゆえに光は目立たないが、乾いた大きな音が連続して鳴る。

 これで、捜索を開始し始めたアブソルート騎士団かご令嬢の子飼いの部下に位置が知れたことだろう。

 沙羅双樹の二人は戦闘能力長けているがそれでも暗殺者。

 対多数は専門外だ。


 証拠に、ネイティブダンサーは苦々しい表情で舌打ちした。


「おいっ! 増援が来る前に片付けるぞ!」


 今にも飛び掛からんとするネイティブダンサー。

 しかしそれをペンサコーラが制する。


「断る。ただでさえ私はサービス残業が嫌いというのに身を危険に晒すつもりはありません。そもそも社長の指示は即時撤退です」

「王族を見逃すのか!?」

「王族は今回の標的ではありません。それに正直、私は依頼主が成功しようが失敗しようがあまり興味ないので。あなたもそうでしょう? 料金は既に受け取っていますし、別にボーナスは出ませんよ」

「……しゃーねぇ、わかったよ」

「では逃げます、いいですね?」

「ああ。……くそっ、リキッドてめー覚えてろよ?」

「嫌や」


 二人はリキッドたちに背を向ける。

 それをリキッドは追わない。後ろから針投げたろかな、とは思ったものの多分避けられるのでやめた。

 針や毒だってただではないのだ。

 当たるタイミングで投げなければもったいない。


「だってほら、もう包囲されとるし」


 よく狙おう、機会はある


・九割九分九厘の人はどうせトーマス死なないんだろと思ったことでしょうが

・R15なら死んでた。

・リキッドくんはもっと後半で出す予定でした。

・ちっ、命拾いしたな。

・覚えてろよ。

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