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捜索

・ちょっと短いです

・恋愛要素は多少ありますが脈はないです。


 ぶっちゃけあれのことは放っておいて、国王陛下に新しく御子をという方向にもっていった方が国の為なんじゃないかと思うんですよ。

 そう思いませんか?

 思いませんか……そうですか……。おっけ。


 まぁ、あれが死んだとして次の国王候補が優秀とは限りませんし、あれが王城内で殺されたとあっては何人の首が飛ぶかわかりません。

 救える命がそこにある(責任問題的な意味で)のに目を逸らすというのはアブソルートの流儀に反します。

 あれも一回痛い目見れば変わる可能性が無きにしも非ずですし。


 とはいえ武器がないんですよね。調子に乗って苦無を投げちゃったのは痛かった。

 でも、ああするとかっこいいと思ったんですよ本当に、うん、しょうがない。

 さてどうしよう。借りる……って衛兵さんたちがご令嬢なんかに刃物を貸してくれるはずもないですよね。

 あ、そうだ。


「兄上! 武器貸してください武器! どうせ隠し持ってるんでしょいつものごとく! ほらバンザイしてくださいよバンザーイって!」

「は、おいなんだお前急にやめ、やめろぉ!」

「兄上うるさいです緊急事態なんです! ……ほらあった! まったくスーツの下、背中に隠すなんて油断も隙もあったもんじゃないですね、衛兵にチクられたくなかったら私に貸してください、というか借ります。答えは聞きません」


 兄上のシャツを毟ったところで現れた短剣を鞘ごとぶんどる。抜いてみると結構な業物だった。

 こいつぁいい物持ってんじゃねぇか! もらってくぜ! って感じ、気分は山賊。

 ともかく武器は手に入れた。

 さすがに毒とか使われると徒手空拳は怖いもんね。拳闘の師匠ルドルフから絶対にやめろって言われたんだ。


「それじゃ兄上! ちょっと国を救ってきます! 来たかったら来ていいですよ!」

「おいちょっと待て! もう少し説明しろ!」

「情報将校なら自分で情報集めろってんです甘えないでください! べーっだ!」

「あってめぇ!」


 ノリでやっちゃったけどあっかんべーはやんなくてよかったかも。

 まあいいや。

 姿勢を低くして人目を掻い潜りつつ、全速で会場を走る。

 そのときドレスが邪魔で走り難かったので剣で斬ってスリットを作ったら、ちょっと大きくなりすぎた。

 あとで母上に怒られるかもしれないが、事情が事情だ仕方ない。


 会場を出て入口で警護をしているはずの衛兵に王太子殿下がどちらに行ったかを聞こうとして──


「寝てる……嘘でしょ……」


 二人揃って眠りこけていた。それはもうぐっすりと。

 こんなことある? 王城の兵士のレベル低くありませんか。職務怠慢とかそういうレベルではありませんよ、弁護のしようがない。


「気配を探ろうにも王城だと……暗殺者なら既に気配遮断しているでしょうし……」


 広い、人が多い、実力者もいる、だと察知するのは難しいですよね。

 ハンスとかならできるんでしょうけどさすがに私は人外ではないので無理です。

 でも迷ってる暇はないんですよね。いや迷うことにやぶさかではないんですけど。


「はぁ……疲れるからやりたくないんですけど、走りますか……」


 かつてルクシア様が得意としたという速さの暴力、人類最速のローラー作戦。

 どこにいるかわからないなら全部回ればいいじゃないの精神……!


「おいっちにーさんっしー」


 準備体操しないと怪我するから入念に。


「よし!」


 さあ! 疾風の如く!


[行っきまっすよぉーーーー![ 三





 ============





 普通の人間に生まれたかった。

 こういう催しが開かれるたびに、そう思う。

 他人は王太子という地位を羨む。約束された明るい未来を、湯水の如き財力を、誰も逆らえぬ権力を、自由を、殊更強調して妬んでくる。

 だがそれは勘違いだ。王族に自由などありはしない、代われと言うなら幾らでも代わってやりたいぐらいだ。

 当然、そんなことできるはずもないが。


 王太子を形成する全ては鋳型にはめて作られる。求められる理想像へ。

 王太子の行く道は全てにレールが敷かれている。無駄のない人生をと。


 自由など何一つない。

 規格から外れることが怖い、レールを外れることが恐ろしい。

 もしそうなった時、自分の存在意義をすべて失ってしまうのだから。


 結局のところ誰もが、王太子殿下というこの器と、それが生み出す結果にしか興味がないのだから。

 僕という人間を、中身から見てくれる人間など何処にもいない。


 官僚、家庭教師、貴族、国民みんなそうだが、特にこのご令嬢たちには辟易する。

 群がって、押し退けあって、我先にと詰め寄ってくるのは餌を前にした餓えた獣のように見えた。

 誰も彼も執拗に僕を褒め称えるけれど、数度言葉を交わした程度で僕の何がわかるというのだろう。

 たかだが外皮の美醜ごときに如何ほどの価値があるのだろう。

 彼女たちが見ているのは王太子殿下というラベルであり、クラウディオという一人の人間ではない。

 本当に欲しがっているのは僕ではなく優越感だ。

 媚びるような瞳も、派手なドレスも、きつい香水も、それは誰に向けてやっているんだろうか。

 僕のためか? いいや違う、自分のためだろう?


 それでも、僕は彼女たちのうちの誰かと結婚することになる。

 王太子として国の為に何がより良い選択かを、周りの人間考えて決定するのだ。

 そこに、恋だの愛だのは介在しない。


 僕はいつだって、最後まで一人だ。

 ずっと、ずっと、ずっ────


「あれ……ここは……」


 ふと気づいたら、僕は王城の中を歩いていた。


「え、あれ、パーティー会場にいたはずじゃ……それに、ここは……?」

「あれ、起きちゃいましたか」


 数メートル前の方で小柄な貴族の少年が立っていた。

 ……貴族? 記憶の中を検索する。……出てこない、知らない、顔も名前も知らない。貴族じゃない、違う、違う、違う。

 お前は、誰だ?


「じゃあ、死ね」

「え?」


 鉛色の光が、少年の手から放たれた。


・「温度差」の前半に続きます。

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