ナイトレイ伯爵家とは
・説明回です。
・ちょっと短いです。
・会話文もないです。
少し、嫌な話をする。
ナイトレイ伯爵家というのは王国貴族では異端の部類に入る。これは、リットン子爵家も同様だ。
十五年前──私は生まれていないので実際には知らないのだけれども──祖父がまだ生きていた頃までは王国は無謀な拡張戦略に乗り出しており、幾つもの戦線を抱えていた。
同じく四強である帝国は言うに及ばず、現在は同盟国である公国に加え連合とも険悪な関係だったという。
当たり前であるがそんなことをしていては国も民も保つ訳がない。
時が経つにつれて疲弊していき、国力の限界に達しようかという王国。やがて、最後の戦が始まった。
その相手であり犠牲者の名は宗教国家ネオロア霊国。王国と隣接する中規模の国であり、実を言うとナイトレイ家とリットン家は元々霊国の将家だった。
これは戦争の詳細を省くが結論だけ言うと、両家は霊国を裏切った。
擁護をするとそれは我が身可愛さによる保身の為ではない。
圧倒的な兵力差を前に敗色濃厚の状況で、無謀な徹底抗戦を叫ぶ上層部を見限りクーデターを実行したというが、それは戦争を長引かせないため、無駄な血を流させないためだ。
両家の当主は自分たちの命を差し出す代わりに、降伏と霊国国民及び当時まだ幼かった王子の助命を王国に乞うたのだった。
暴君と呼ばれている当時の王は過激な性格で当初これを拒もうとしていた。が、時を同じくして王国でもクーデターが発生し暴君は粛正されることとなる。
そしてクーデターの首謀者でもあった王太子、フリードリヒⅡ世がその跡を継いだ。これが今の名君と称される王である。
その後、外交力に特別優れていたフリードリヒⅡ世は各地各国と停戦協定を結び、戦争を終結させることに尽力。力はあれど立場の悪かった王国だ、ここに並々ならぬ努力があったことは想像に難くない。
当然ながら霊国の要望も受け入れることになった。
余力の少ない王国は当初は停戦を考えていたが霊国はその時点でほぼ国として機能しておらず、王国に併合することが決定。
ここに霊国は正式に消滅した。
されども、やはり王国に霊国全土を統治する余裕はない。
故にフリードリヒⅡ世は降伏したナイトレイ家とリットン家を便宜上王国貴族として取り立てて、多少の援助と共に元々彼らが統治していた土地をそのまま丸投げ。
以来宗主国と属国のような関係で、現在もあまり王国の管理の手は行き届いてはいない。
残りの土地は王家と隣接するアブソルート侯爵家に組み込まれることになった。
やはりと言うべきか元霊国民の王国への反発は強く、その後十年以上に渡りアブソルート侯爵家は多大な苦労を強いられることになるのだがここは割愛する。
つまりだが、ナイトレイ伯爵家とリットン子爵家は王国貴族ではあるが王国貴族ではないとも言える。
らしい。貴族の考えることはよくわからない。
貴族特有の馬鹿らしい選民意識から、一部の王国貴族はこのことを理由に「裏切り者」だとか「劣等民族」だとか言って両家を見下す傾向にある。
その状況を案じた父上は、兄上と義姉上の婚姻によって王国との結び付きを強くしようと考え、今のところ一定の成果を上げている。
が、馬鹿は死んでも治らないので一部の馬鹿は馬鹿のままである。
一方のリットン子爵家ではあるが、融和派のナイトレイ伯爵家違い、口にこそ出さないものの王国大嫌いオーラがぷんぷんであり、ご存知の通り怪しい動きが確認されている。
リットン子爵領は帝国に近い分、警戒が必要である。
などと説明してみたところで本題に入るとする。
ナイトレイ伯爵家次女、ティシア・ナイトレイが見当たらない。
見当たらないったら見当たらない。会場内を縦横無尽に駆け巡ってみたところ影も形も見当たらなかった。
ちなみに、途中でなんかよくわかんない連中に喧嘩を売られそうになったので脅しといたけれど。
して、このまま兄上のところに帰ってもよいのだけれど任務を果たせずに戻るのはなんか癪である。非常に癪である。
というか普通に嫌な予感がする。
おそらくは至極テンプレートなイベントが発生していると思われる。具体的には皆まで言うなっていう声が聞こえたので言わないことにするけど。
でもこういう時ってさ、王太子殿下みたいないけ好かないイケメンたちが颯爽と登場して癇に障る歯の浮くような台詞を吐きながら一応の解決──しかしその場しのぎ──を見せるパターンじゃないですかと思って会場を見渡したところ、主な高位貴族のお坊ちゃんたちは全員会場にいた。
無能というレベルではない。一回、手足を縛って崖から谷底に落としてみると良い。
這い上がってきたら認めてやるのもやぶさかではない。
またはリアル虎穴に放り込んで入り口を封鎖したり。
虎児を得て帰ってきたら及第点であろう、私はそうやって強くなった。
もとい、では身分の上の貴族令嬢たちにも怯まぬ気骨のある勇士たちが現れたり……というのも期待してみましたがそのような会場入りから今の今まで気配は感じられませんでした。
察するに会場を出て中庭の方に八人ほどの人の気配を感じるのですが、正直、行きたくないっていうのが本音ですよね。
この年頃の貴族令嬢って半分くらい惑星外生命体みたいなものじゃないですか。(偏見)
常識が通じないし、話が通じないし、言葉が通じないし、心が通じないし、ぶっちゃけ猫の方が頭いいですよ。チーちゃん未満。以下ではなく未満。チーちゃん大なり令嬢。
ですが未来の義妹を見捨てられるほど私は腐ってはいませんし、ナイトレイ伯爵家の喧嘩を売るということはつまりはアブソルート侯爵家に喧嘩を売っているのと同義。
という訳でここで一度、我が親愛なる兄ウィリアム・アブソルートの言葉を思い出してみましょう。
『売り返せ、叩きのめせ、心も体もへし折れ』
なんか足りない気もしますが凡そこんなのでした。
Let’sぶちのめ。
さてさて装備の確認です。
口の中に硬糸、ポケットの中に硬貨型の暗器、ドレスの下に苦無、手首に針、靴に仕込みナイフにその他小道具──兄上には一切内緒で──色々持ってきましたからね。
100mを5秒以下で走れないような運動もろくにしたことのないご令嬢(笑)には些かオーバーキルな気もしないことはありませんがたぶん大丈夫でしょう。
しかし若干に気なることが一つ。
なんか妙に手練れの匂いがどこからかするんですよね、中庭とは逆方向、城内のどこからか。私からしたら雑魚ですけど、パンピーでは相手にならない感じの。
王城ですからその程度ならいてもおかしくないんですけどやけに気が立っているというか刺々しい雰囲気を微かに感じます。
でもまぁ、兄上よりも弱いですしどうでもいいかなって。
さーて、どんな登場の仕方がいいですかねー。
・最近作風迷走気味で、皆様には心よりのどんまいを申し上げます。




