表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/106

閑話 不幸な人たち

・ペンギン・ハイウェイ面白かったです。

・最近のアニメ映画、ひるね姫やさよ朝やリズとか面白いの多いですね。オススメです。


・恋愛要素は関ヶ原での島津の正気ぐらいあります。


 こんな話があった。


 それは単なる出来心だった。

 感情を制御する術をまだ会得してない少女ゆえのちょっとした嫉妬と焦燥の発露。

 弁護の余地はある、元々この二人の少女はそこまで意地の悪い性格はしていなかったのだから。

 宴を終えて家に帰れば、この件のことについて恥ずかしさと申し訳なさから枕に顔を埋めて足をバタバタさせながら悔やめるだけの、良心を持っていた。

 では何故、彼女らがそんな奇行に及んだのか。

 喩えるならばそう、渋々ながら徴兵されて駆り出された訓練未修の臆病な新兵が、激化する戦場の中で部隊と離れ離れになってしまい怯えながら歩いていたら急に血だらけの所属不明の兵士に遭遇し、恐慌状態に陥って確認もせずに銃を乱射した。みたいな。

 ……長いか、そうか。

 山で熊に遭遇してしまい混乱して先制攻撃しちゃったって感じ。うん。


 伯爵令嬢とその取り巻きではあるがちゃんと仲の良い男爵令嬢。

 王太子殿下に憧れる二人、特に伯爵令嬢の方は可能性が皆無ではないあたり、いきなり社交界に現れた侯爵令嬢、つまりはライバルの登場に動揺を隠せなかったのだ。


 箱入りという噂は聞いていた。

 しかし、今日ここに来る前までは、どうせ外に出すのも憚られるぐらいに愚鈍で醜悪な女なのだろう、爵位の差があってもと令嬢としては自分の方が上だろう、と高を括っていた。

 それが、ただの希望的観測であることにも内心気づいてはいたが。


 だが蓋を開けてみればどうだ。なんだあれは、ふざけるな、ずるいぞ。そういう低語彙の文句しか口から出てこない。

 だって悪口の言いようがなかったのだ。

 美しき翠の少女。地位も容姿も仕草も作法も、どこをとっても隙が無い、なんら批判のしようがない。

 あれが宝石だとしたら自分たちは河辺の石ころ程度でしかないのだ。

 彼我の戦力差もわからぬほど愚かではなかったし、白を黒だと言えるほど、彼女らの品位は堕ちてはいなかった。


 でも、これだけは、「ずるい」という感情だけは、抑えきれなかった。

 それこそ十やそこらの女の子、その感情を誰が否定できよう、誰が責められよう、誰が諭せようか。

 いずれ飲み込む日は来るのだろうが、彼女たちの感情の器はまだそれほど大きくはない。

 ならばこれは、大人への通過儀礼のようなものだったのやも、しれない。


 突発的に手に取ったぶどうのジュースを、一人歩く翠の少女の後ろから振りかけた。

 その白いドレスを赤で汚すことを、少女が自分たちの所まで堕ちてくるのを願って。

 それは叶わぬことなのだと、どこかで悟りながら。




 しかしてその通り、ジュースが翠の少女のドレスを汚すことはなく、ただ赤いカーペットを濡らすだけで終わった。

 何の意味もない。


 運が良かったのは周りの人間たちがただ単純に「ああ、ジュースをこぼしてしまったのか」と、そう考えたことだろう。

 誰も、人に対して振りかけたなど思うことはない。

 だって翠の少女は彼女たちの後ろにいたのだから。


 ──確かに前を歩いていた、見間違えるはずもない。

 混乱する二人の思考を余所に翠の少女は後ろから両腕で二人抱き寄せて、耳元で囁いた。


『次はない』


 背筋の凍るような冷たい声だった。

 恐る恐る首を少し回しその横顔を見ると、こちらを見向きもしていない。

 冷ややかな口元の歪みと、退屈そうな瞳。

 浮世離れの造形美、ともすれば人ではないように感じた。


 数秒後、翠の少女はすっと後ろに消えた。

 二人は腰が抜けたのかふにゃふにゃとその場に座り込んでしまう。

 心配そうに駆け寄る大人たちの声も聞こえないほどに、心臓が鳴っていた。

 息は乱れて自分でも顔が真っ赤なのがわかる、首元から汗が滴り落ちている。


 こんな姿、王太子殿下に見せるわけにはいかない。

 悪魔に魅入られた、訳ではない。

 悪魔に魅入ってしまった、こんな姿を。


 翠の悪魔は恐ろしい。


 =======


 こんな話もあった。

 薄暗い部屋に小さな円卓と四つの椅子。そのうち三つは空席だった。

 唯一席を埋めているフードの人物は、その光景にほっと息を吐くと、珍しくそのフードを外した。アイデンティティの崩壊とかもうどうでもよかった。

 出てきたのは少年然とした姿──というよりもろに少年である。

 蒼い髪と碧の眼、幼いながらも整った顔つきと小柄な体躯。

 彼こそはグレイゴースト四天王最後の一人にして正真正銘齢十三の子供でもある、海のリキッドである。


 彼は、疲労と諦観を押し殺したような表情で自嘲気に笑った。


「フーがやられたようだな……」

「奴は四天王最弱……」

「王国にやられるなどグレイゴーストの面汚しよ……」


 ちなみに一人三役。とっても律儀なリキッド君である。


「って馬鹿!」


 卓を叩いてノリツッコミ。手が痛い。


「もう一人しかおらんがな! 壊滅やがな! どないせーっちゅうねんあほちゃうか! こちとら派遣やぞ! 給料もめっちゃ抜かれとるのにこんな安月給で命捨てられるかボケ! 死ね! なにがグレイゴーストや! なにがグレートスリーや! かませ臭しかせぇへんやろがい! お前らだってどうせ三行でやられるわダボハゼがぁ!」


 優等生口調を止めキャラ崩壊、ガルブレイスという名札のつけられたぬいぐるみをサンドバッグにしながらリキッド君は叫びます。

 何を隠そうリキッド君は帝国人材派遣センターの職員だったのでした。四天王歴は一年。ちなみに捕まったフーも同センター出身の先輩にあたります。

 ちなみにシュナイダーは元々有名な盗賊で三年契約を結んでいました、もうすぐFAだったんですけどね。叩き上げはガルブレイスだけです。


「今時、愛国精神論だけで戦争に勝てるかっちゅー話ですわ。そんなんやったら誰も苦労せーへんわボケ。なんやねん、そんなに特攻大好きならお前らから死ねや、こっち巻き込むなや、ほんまくそ。もーやる気のーなった。退職や退職ぅ! ちょっと会社辞めてくるってやつやわ。アブソルートとかもうどうでもええねん。次の任務終わったら退職届をぉゴーッシュー! してやっからな覚悟しとけよ!」


 などと言いながらリキッド君は立ち上がります。

 そして、王太子殿下の誕生日パーティーに向かうのでした。



 ふっと、最後の蝋燭の火が消えました。


・ラノベなら最近はラスダン少年と錆食いビスコとゴブスレがオススメです。

・↑こういうの書いていいのか知りませんけど。


・悪役令嬢についてなんですが喧嘩ならともかく一方的な悪口って書くの結構難しいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ