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温度差

・王太子初登場回です。

・話が 動くよ やったねさくらちゃん。

・満を持して登場みたいな言い方しましたけど王太子殿下は特に真打ではない。

・ちょっと短いです。

・恋愛要素はあと十年早く伊達政宗が生まれていた場合天下獲ってた可能性ぐらいあります。

・短編とは内容が違います。ご了承ください。


 鈍色の光が、僕の目に一直線に向かってくる。

 反応どころか理解すらできていない、きょとんとした顔で呆然としていた僕はなんとも情けない姿だったことだろう。

 ただ、ただ、愚かだった。


 次の瞬間に、金属と金属がぶつかり合う音がした。

 弾かれたナイフが床に転がったのを見て、僕はそこで自分が死の淵にいたことにようやく気づいたのだった。自分の鈍間が、嫌になる。

 そして、僕の前に降り立った彼女を見た。

 真珠のように白い肌、艶やかに輝くエメラルドの髪、そこから覗く凛とした顔つき。

 白いドレスをはだけさせながらもそれを気にした様子もなく、短刀を構え鋭い眼差しで敵を見据えるその姿。


「暗愚といえども仮にも王族だ。気軽に触れてくれるなよ、下郎」


 冷たく言い放ったその言葉。


 女性特有の柔らかさはそこにはなく、刃物のような鋭さがそこにはあった。

 ただ、美しいということに間違いはない、絶対に。

 彼女のその鋭利な美貌が、通り魔的に僕の胸を刺した。


 その時自分の中で、何かが壊れる音がした。

 張りぼての城が脆くも崩れ落ちる様に、気取っていた自分が馬鹿らしくなるように。


 こんな時に何を馬鹿なことをと言われるかもしれないが──

 目は、彼女の姿に見惚れていた。

 耳は、彼女の声に澄まされていた。

 脳は、彼女のことで埋め尽くされた。


 自分の命が狙われたことなどどうでもいい、どうせ今後もよくあることだ。

 そう、彼女だ。

 誰だ、誰だ、誰だ、彼女は、誰だ。

 口は、彼女の名を求めた。


「キミは……?」

「黙って。動くな。後ろにもいる」


 ピシャリと切り捨てられる。が、語りかけてくれたという事実に高揚している自分がいた。

 この感覚は、初めてのことだった。

 でも、名前は多分知っている。

 出会って五分も経っていない、時も場所も弁えていない。


 だが僕は、謎の少女に恋をした。






 ==========================






 これは少し前のこと。

 王太子殿下の誕生日パーティーにやってきたジョー・アブソルートとサクラ・アブソルート兄妹は国王陛下への挨拶を終えたあと、礼儀的に殿下にプレゼントを渡そうとご令嬢たちの列の最後尾に並んだ。



「あれはないですね。ナシ寄りのナシです」

「そこまでか? 俗な言い方だがありゃ、かなりのイケメンだろ」

「顔ではなく……いえ顔もですね。兄上、たとえば仮に私が魚介類が大嫌いだとしましょう」

「ふむ」

「あれの見た目は新鮮な魚介類を職人の手で調理した海鮮丼です」

「……わからんでもない」


 嫌いなものはどれだけ上質であろうと嫌いということか。


「それに加えあの顔を見てください。たくさんの可愛い子に囲まれておきながらあの鬱陶しそうな表情。何様のつもりでしょう、たかだか王の嫡男として生まれただけでまだ何の実績も持たぬ只餓鬼の分際で貴族のご令嬢をぞんざいに扱ってよい道理がありましょうか。内心がどうあれ外面を取り繕えぬようでは器の程度が知れます。あれが王になっては国の未来は明るくないでしょうね、その凡百な人生は後世の歴史の教科書では一行で済まされるに違いなし。家庭教師と未来の王妃の今後の手腕に期待するしかありません。特にあの露悪的な思想は至急矯正すべきです、令嬢たちを見る『どうせお前たちは俺の身分にしか興味が無いんだろ?』とでも言いたげな瞳、純粋に自分を慕う者を見分けきれぬ審美眼もそうですが、万人を疑うその癖、ともすれば暴君の因子となりましょう。なんでしょうね、まだまだ子供なんですから素直に喜べばいいものを変に大人ぶって『現実の残酷さを知ってる俺』ってやつに酔ってるんですよ、自分に酔ってる。でも実際には大した経験もない、現実も知らない、周りの大人に守られている自覚もない、滑稽ですよ、ピエロかよ。しかも仄かに漂う諦念の香り、自分を悲劇の主人公とでも思い込んでるのでしょう。権謀術数に呑まれ真実の愛を知らぬ可哀想な自分、みたいな。確かに王族である以上婚姻は政治の道具、恋愛結婚は基本的に望めません。が、努力もせず諦めるその性根が気に食わない、王族であることを努力しなくてもよい理由にしているのがくだらない。それが将来の伴侶への無礼に当たることも理解していない。そもそも恋知らぬ童貞の癖に恋愛観などちゃんちゃらおかしい、現実が見えてなければ夢も見ない、方向音痴の盲目野郎、あんな中途半端な奴が私は一番嫌いです。というかもう、生理的に無理です。一挙手一投足が鼻につく、虫唾が走る、癇に障る、どれだけの罵詈雑言を以てしても私の嫌悪感を表すには足りない。ああ、自分の語彙力の無さに苦慮する日が来ようとは。詩歌の授業も馬鹿にはできませんね、何の役に立つかと思っていましたが今こそ、今こそ……!」

「長い長い長い」


 この悪態、遠目から一度見ただけである。

 話す前から脈がないというレベルではない、前世ではハブとマングースでしたか?みたいな嫌いよう。

 逆に凄い。


 問題なのは正直あまり的外れではないということだ。

 思春期の少年にありがちな病気に早めに罹患してらっしゃるからなのか、話をしていると苦笑いしか出てこない。

 先日「人間の愚かさ」について自論を展開されたときはゲロ吐きそうになった。


「話してみなきゃわからんだろ」

「いえ兄上、プレゼント貸してください」

「どうするんだ?」

「メモ書きと一緒にこっそりあのプレゼントの山に添えてきます」

「そこまで嫌か……」

「王太子殿下という概念がもう無理です」


 真顔でキッパリと言い放つサクラを見て俺は溜息を吐く。

 概念が無理ってなんだ、初めて聞いたぞ。これはダメだ。論外だ。

 未だ決まっていない殿下の婚約者候補として連れてきたのだが全くの徒労。

 まあ陛下自身、侯爵令嬢かつ同年代であるからには一応は候補に挙げない訳にはいかないというのが半分、箱入り娘を見てみたい好奇心が半分といった風なので、特に何か支障があるわけではないのだが。

 そもそもアブソルート侯爵家と王家は昔から関係は良好で今更これ以上繋がりを強化する必要もない。

 殿下がサクラを気に入ったりしない限り問題はない。

 顔も所作も抜群だからなぁ……身体能力と思考回路が異常なだけで。

 今日も白いドレスを着ているがこれが映える映える、十三歳の風格ではない。


 でもまあ、たぶん大丈夫だろ。


「置いてきました」

「早ぇなおい!?」


 油断も隙もねぇな。

 しかし、露骨に嫌な顔しながらプレゼント渡してもろくなことにはならないだろう。合わない人間とは距離を保つことは間違いじゃない。


「んじゃまあ、挨拶回りにでも行くか……露骨に嫌な顔をするな」

「だって兄上友達多いじゃないですか……テンション高い人ばっかりだし……」


 不満気にぼそぼそとつぶやく。それを聞いて今日招待されている家を思い出してみると、うん、否定はできない。

 噂の箱入りが出てきたと既に結構騒がれているから、いろんなところからグイグイ来るだろうし……。


「最低限挨拶が必要な人の所にだけ行って、俺の後ろで一言二言喋るだけでいいから。それが終わったらジェシカも今日来てるからそっち行っていいぞ」

「義姉上もいるんですか!?」

「妹の付き添いでな……あとまだ()()()ではない」

「はよ」

「うるさい」


 ニヤニヤするんじゃねぇこの愚妹が。


「おらっ、まずは大公からだ」


 位の高い順から挨拶するとして順当に陛下の叔父であるフリジア大公からになるだろう。穏和な性格の好々爺で有名なご老公だ。

 アブソルート侯爵領にも旅行で訪れたことがあるのでサクラも面識がある。


「あっ、あの人優しいので好きです!」

「別に王族が嫌いってわけじゃないんだよな」

「あれが嫌です」

「あれって言うな」


 次期国王なんだがなぁ……。

 大人から見ればちょっと痛いけれど微笑ましいという感想なのだが……。

 ストイックなサクラからすれば、同年代のそれは許せないものなのだろうか。

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[気になる点] 「鈍間」ではなく「鈍感」でしょうか。
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