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社交界など行きとうない! 6

・語彙の足りなさに発狂してたら遅くなりました。

・恋愛要素は氏治くんの小田城の防御力ぐらい。

・明智のみっちゃんは竹槍ボンバーで死んだ世界線。

・コメディ要素は石田のみっちゃんの友達の数ぐらい。

 作戦開始から六日が経った。

 最初の難関と思われたアブソルート家への潜入は驚くほど簡単だった。

 というのも、報告の通り天敵であるルドルフ・シュタイナーは多忙なようで屋敷を空けている時間が多い。

 使用人の採用面接にも一度も顔を見せなかった。

 代わりにいかにもな感じのベテラン侍女長と、その娘だろうか?

 小柄な翠色の少女との三者面接では根掘り葉掘り経歴や動機を聞かれることになったが、事前に用意した他人の人生を、ボロを出さずに語り切ることができた。

 だが、能力には自信があったがそれでも採用されるかは微妙なところだと思った。

 褐色の肌は、かつて奴隷の証だったから。


 しかしその不安は杞憂で、私は何の問題もなく採用された。

 重要なのは能力と人柄、聞けば私と同郷の者もいるという。


 入ってみたら入ってみたで表向きは非差別を掲げておきながら中身は真っ黒なんて、私が散々経験してきたような事態もなかった。

 使用人たちの間に流れる雰囲気は心地良く、新入りの私にも優しい。

 上司は少し厳しいけれど無茶な要求も理不尽な命令もしてこないし、成果を上げれば褒めてくれるしご褒美も貰える。嬉しい。


 給金だってこの国の平均と比べると高く、休暇も多い。完全週休二日制って良い言葉。

 残業は少しあるけれど残業代はきっちり。

 なにより命の危険がない。


 雇い主であり標的でもあるアブソルートの人間たちは直接話したことこそないがよく他の使用人たちと談笑しているのを見る、慕われているようだ。

 当主であるアレクサンダー・アブソルートは見た目ちょっと威厳こそないが、穏和で柔らかな性格で人を惹きつけるある種のカリスマを感じさせた。

 侯爵夫人であるフローラ・アブソルートは体が弱いようでお目にかかる機会は少ないけれど、花が咲くように笑う美しい人だった。私が男なら惚れてたね、間違いない。

 長男と三男は現在家を離れているようだが、侯爵家騎士団の次男ウィリアム・アブソルートは快活に笑う人だった。陽気でお調子者、誰とでも仲良くなれる性格。しかし、ふとした時に見せる彼の鋭い眼差しに見惚れる女性も多いという。私はまだ見たことがない。

 そして最後に長女であるサクラ・アブソルートであるが……まだ未見。社交界未登場の箱入り娘と噂のご令嬢。事前に行った領内での調査では目撃情報はあるものの、姿を見れた例がない。侍女たちの話題にもよく上がるのに屋敷の中ですら出会えない。可愛らしいと評判だが非常に謎。

 大した脅威ではないが不確定要素はできるだけ取り除きたいので一度は見ておきたい。


 以上が標的アレクサンダー・アブソルートとその家族の私から見た評価。

 一言で言うとめちゃめちゃ良い人たち。


 THE WHITE KIGYO


 ここと比べるとグレイゴーストってクソね、帰りたくない。


 なって思っていた私は阿鼻叫喚の山芋風呂に浸かっていた。

 意味わかんない。


 事の始まりはアブソルート家嫡男ジョー・アブソルート(イケメンだった)が帰ってきたことから始まり、それが兄妹喧嘩に繋がり、妹主催のかくれんぼ大会にまで至る。

 その騒動にあれよあれよと巻き込まれた私は、ノリと勢いで「嵐を呼ぶ! サクラお嬢様捕獲大作戦!」へと強制的に参加させられてしまった。


 好都合、この機会に一度顔を拝んでおくのも良いと思ったのは事実だ。

 側仕えの競争率が高くシフトの奪い合いが水面下で醜く繰り広げられるほど人気なお嬢様とやらだ、好奇心もそこにはあった。


 しかし、顔もわからないので一人では捕まえようがない。

 だから適当にみんなにコバンザメのようにくっついていたら、急に床が消えた。

 咄嗟に反応しようとしても、範囲は広く他の侍女が邪魔で思うように動けずに私が伸ばした手は虚空を掴んだ。そして、墜ちる。

 なんで侯爵家の屋敷に落とし穴があるのよ。馬鹿じゃないかしら。


 しかも山芋風呂って! かゆい! 陰湿! 憤懣やるかたない!

 この規模の山芋とろろってどんだけよ、作ったやつ絶対に暇人根暗性悪の三拍子揃った性格ブスね、友達にしたくないタイプ。

 本当に最悪。


 とはいえ落とし穴自体を抜け出すのは容易だった。そりゃあ訓練を受けていない普通の侍女には難しいでしょうけど、私のようなプロを閉じ込めるには役不足。

 多少の時間稼ぎにはなるけど、嫌がらせ以上の意味はない。


 そして私が落とし穴を抜け出して向かった先はお風呂。

 屋敷の探索とかお嬢様の捜索とかちょっとした裏工作とか、騒ぎに乗じてこっそりやってしまおうかと思っていたけどお風呂。

 山芋は、無理。

 お風呂へ向かうスピードは私史上最速だったと思う。


 アブソルート家お風呂は掃除の時間を除き使用人なら誰でもいつでも利用可能。こういうとこ良いわよね。近くにはジムもあるの。優秀。住みたい。住んでた。帰りたくない。


 脱衣所には誰もいなかった。他の使用人たちはまだ捕獲作戦に従事しているのだろう。

 風呂入ってる場合じゃねぇ! ってやつなんでしょうね。

 正直この勢いでどさくさに紛れて侯爵暗殺できないかなと思ったけれど、ルドルフ・シュタイナーが今日は屋敷にいるので断念。

 そうでなくとも鬼才と名高いジョー・アブソルートが詰めているので諦めた。

 ガルブレイスとシュナイダーと同じ轍を踏むわけにはいかない。

 というかお風呂入りたい。なにはともあれお風呂。いいからお風呂だ。


「今日はゆっくり入れそうね……」


 普段は入れ替わり立ち替わり人の動きが忙しないが、実質貸し切り状態なのでゆっくり落ち着いては入れそう。ちょっと嬉しい。

 風呂上りにはコーヒー牛乳を飲んで寝よう、そうしよう。

 今日の私は頑張った。慣れない仕事を頑張った。それでいいじゃないか。


 そんな疲れた頭で浴室の扉を開けた。

 ら。


「あ」

「え?」


 なんか降ってきた。

 浴室の高い天井、その換気口から小柄な黒い影がくるっと回って一回転、両足と片手で綺麗な三点着地を見せる。こう、シュタッ!って感じで。絶対それ膝に悪い。

 うんでもカッコイイって重要よね、私もたまにやる。痛いけど。

 そして後で後悔しながら仕事するの。


 ……いやいや、今はそういう話じゃない。え、なに、同業者? なんでお風呂に?

 なんだかすごい「やっべぇ……」って顔をしている。少なくとも私と同じような外部の人間かしら。

 いえ、違う……。見たことがある、面接のときに侍女長の隣にいた少女だ。

 あれ、そういえば自己紹介されてなかったし、さも当然のようにそこにいるのでなんであの場にいたかも知らない。

 あれ? もしかして状況証拠から鑑みるに……お嬢様?

 え、これが? 嘘でしょ? スーパーヒーロー着地するようなお嬢様なんているわけないじゃん。どこが箱入りよ、ふざけるのも大概にしなさいよ。


「「…………」」


 睨み合う。片や全裸の山芋女、片や全身黒ずくめのちびっこ。異様。

 これは、どうするべきかしら?

 みんなに報告? 見逃す? それとも捕まえる? 一応優先順位はかなり低いが標的の一人だ、殺したり人質にする選択肢が無いわけでもない。

 でもここで殺してもその後の作戦遂行が困難になるだけ。人質にしてもルドルフ・シュタイナー相手ではどうにかなる未来が見えない。


 うん、ここは大人しくしましょう。

 私はしがない侍女Fです。それ以上でもそれ以下でもない。

 怖くないよー


 ===


 隠し通路や屋根裏部屋などを駆使して辿り着いた先。換気口から浴室へとニンジャっぽくスタイリッシュに舞い降りた瞬間のことだった。

 この騒ぎにこの時間帯、たぶん誰もいないだろうと思っていたら。

 いた。


「あ」

「え?」


 遭遇! サクラ、遭遇……! スニーキングミッション失敗! ニンジャ失格……!

 くそぅ、お風呂で時間が稼げると思ったのになんたる不運。しかも探しに来たのではなく普通に入浴しに来た侍女。間が、悪い。

 そりゃあルドルフだろうがハンスだろうが、ちゃんと許可取って誰もいないこと確認したなら女風呂にだって入ってきますよ。


「「…………」」


 睨み合う。相手の侍女は困惑の表情を浮かべていた。どうすればいいかわからないといった風だ。願わくばそのまま見なかったことにしていただきたい。

 しかし、相手が微妙だ。目の前の褐色の侍女──確か名前をフーリューといったか──は新入り。仲の良い侍女なら交渉で丸め込むこともできたかもしれないが……。

 あまり権力で抑え付けるようなことはしたくない。


「お願いしますフーリュー、見なかったことにしてください」


 よって素直に頼んだ。


「え、ええ……わかりました……」

「ありがとうございますフーリュー!」


 なんて良い子なんだろう! あとでマーマレード分けてあげる!

 私は感極まって彼女の手を取ろうと近づくと──


「山芋くさっ!?」


 山芋くさかった。よく見たら、いやよく見ないでもフーリューの体の至る所が白い液体でべっとりと汚れていた。きっしょ。


「………」


 フーリューが凄い悲しそうな顔をしていた。申し訳ない、女性に対して言ってよい言葉ではなかった。ごめんね。


「えっと……なんで?」

「あの、落とし穴に落ちたら……その……」

「? ………ああ!」


 この屋敷には私が(内緒で)作った古今東西様々な罠がたくさんある。落とし穴はその中で最もチープでポピュラーな罠だ。

 しかし、ただ落とすのは面白くない。剣山とか蛇とか虫とかいろいろ試行錯誤したものだった。


「硫酸から山芋に替えたってクロエが言ってましたね」

「え」


 そうそうそうだった。あれは硫酸の溜まった落とし穴だったのだが、ルドルフに止められたのだ。

「アブソルート家への侵入者にとって死は救済である──」とかなんとか言っていたけれど難しくてよくわかんなかった。

 まあ逆らう理由もなかったのでみんなと相談していたらクロエが任せてほしいと言って、任せたら山芋を大量に仕入れていたのを思い出した。

 別に構わないけれどその分の私のお小遣いが減っていた。オリヴィエはケチだ。


「………」


 フーリューが固まっていた。それもそうか、一歩間違えれば死んでいたかもしれないと言われればこの反応も当然だろう。

 他の侍女は若干慣れてきた感があるが彼女はまだ新入り、面喰うのも無理はない。


「大丈夫ですよ、侵入者用の罠は至る所にありますが致死性のものはありませんし、何かの軽いはずみでは起動もしませんから。山芋風呂は……ごめんなさい」


 できるだけ安心させるような柔らかい口調で言う。

 彼女はきっと巻き込まれただけなのだろう。先輩侍女に逆らうこともできず押し切られて流れでそうなったに違いない。

 かわいそうに……


「ソ、ソウナンデスネ……」


 あまり効果はなかったようでフーリューは引き攣った顔でそう答えた。

 むぅ……こればっかりは慣れてもらうしかないか。

 ちなみに屋敷を元に戻す気は一切ない、絡繰り屋敷ってニンジャの浪漫。意味もなく回転扉とか使ってはニヤニヤしちゃったり。


「あ、引き留めてすみませんでした。ゆっくりお風呂に浸かってくださいね。なんなら私が背中流しましょうか?」


 早く山芋を流したいだろうに申し訳ない。


「い、いえ! そんな恐れ多い……」

「そうですか? 私の侍女のカレンとかは最近では要求してくるぐらいですけど」

「えぇ……」


 めっちゃ変な顔された、やっぱりおかしいのかな。


「では私はドロンさせてもらいます。どうかこのことは内密に……」

「は、はいぃ……」


 コクコクと首を縦に振るフーリュー。これなら信頼できそう。

 しかしお風呂が使えないとなると何処に……トイレ? 狭いから追い詰められると逃げ場がない……いややっぱりルドルフとハンス相手は無理ですよね、あの二人気配とか読みますからチートですよ。


 お風呂に掃除中の立て看板……すぐばれますね。

 山芋風呂に浸かった人とか掃除中でも特攻してきそう。かゆいもん。


「……………?」


 ちらりとフーリューを見る。

 お風呂の外から音はしない。

 山芋風呂に落ちたんですよね。落とし穴はその性質上、深さからして普通の侍女が自力で抜け出せるものではないはず。というか騎士でも無理。

 助け出されたなら何故一人でここに? 他の侍女は? まさか一人を相手にあの規模の罠を発動したってことはないでしょう。


 さてさてこれは考え過ぎか。こういうのってなんだかんだまっとうな理由があることって多いですよね。


 でもフーリューは、要注意人物リストに入っている。


 基本的に、新入りの使用人はほぼ全員最初は要観察リストに入れられる。

 要注意リストは証拠があるわけではないが違和感が拭い切れない場合に追加される、最近でいうとメーテルでクロだったが全員がそういう訳ではない。


 アブソルート家の採用基準上、後ろ暗い過去を持つ者も少なからずいる。

 代表格はハンスだ、あの不良爺の若い頃というのはアブソルート七不思議の一つ、騎士団の間ではハンスの過去を巡って賭けが密かに行われているぐらい。


 話を戻してフーリューだが、書類上彼女の素姓に何ら問題はなく、山ナシ谷ナシの至極真っ当な人生を送っていた。

 だがそれが不自然なのだ。

 彼女の褐色の肌は帝国では奴隷の証。王国でも禁止されてはいるが差別の対象。

 衣食住にすら障害は多く、普通の人生など普通送れない。

 迫害から逃れるためにアブソルート侯爵領に亡命してきた者も少なくないが、アブソルートだけが例外なのであって、良識派の貴族の土地であっても古くより根付いた差別意識は簡単には切り払えていない。

 そんな状況で真っ当な暮らしができたというのはとてつもない幸運か、経歴詐称のどちらかだ。


 どうしても採用されたかったから、という理由で経歴詐称を行う者も今までもいた。

 そうでない理由で行った者も、もちろんいる。


 人を疑うのは気持ちの良いことではない。

 況や褐色の民をや、だ。

 だからといって誰も彼も信じていいなんて立場にはいない。


「フーリュー」

「? ……はい?」


 まだ怪しい動きは見せていない。勘違いならそれが一番良い。ルドルフが裏を取っている最中なのだからそれを待つべきかもしれない。

 疑わしきは罰せず、だ。


 でも──


「グレイゴーストって、知ってますか?」

「? ……いえ、知りません」


 キョトンとした顔のフーリュー。

 素顔か、演技か、今の私には判断できない。


「ガルブレイスやシュナイダーといった名前に聞き覚えは?」

「あ、ありませんけど……それが……?」


 困惑している。そう思わせる表情と声。

 もういいだろう、と良心が囁く。


「私が捕まえました」

「──」


 フーリューは何も言わなかった。いや、声を出さなかっただけ。

 彼女のその唇は何か言葉を紡ごうとして、止まった。

 そして、一瞬だけ見開いたその瞳。

 雄弁は銀沈黙は金とはよく言ったもので……あれ、使い方違う?


 えーっと、目は口程に物を言うとはよく言ったもので……


「そ、そうなんですか……?」


 何も理解できていないといった風。

 彼女は、かなりの演者だ。少なくとも、私はそう思う。


 間違っていたら謝ろう。望む物を叶えられる限り与えよう。

 だから、今は、眠ってください。


 私はノーモーションで軽めの毒を塗った苦無を、フーリューに投げる。

 普通の侍女なら避けられない。眠っている間、身元を徹底的に洗わせてもらう。

 避けられたなら──


「ちぃっ!」


 咄嗟の攻撃にも素早い動きで体を反らし避けるフーリュー、そのまま体をひねってこちらに背を向けると同時に駆け出した。

 迷いがない、混乱もしていない。

 どうやらクロだったようで安心した。


 外れた苦無が獅子の形を模した壁泉に当たる。

 そして。


「え?」


 ──罠が、発動する。

 四方から投げかけられた網が、彼女を捕らえる。


「至る所に罠がある、とは言いましたよ?」


 獅子の壁泉の瞳がトリガーの投網。

 いやー作っといて良かった。

 また捕まえちゃった!


「いえい!」


 ピースピース!


・書くことないので

・雑談


・自分の歴史知識レベルはSEGAとKOEIです。

・三国志では公孫瓚で天下統一してました。

・信長の野望では大友くん。

・三国志大戦は麻痺矢使い。

・戦国大戦では上泉信綱。


・実際山芋風呂ってかゆいんですかね?

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― 新着の感想 ―
[一言] 山芋を息子さんに漬け込んでみてください 効果がはっきりとわかります 想像しただけで蕁麻疹が出てくるぅ
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