グレイゴースト
・後日談その1
・とりあえずクソ野郎殺しときますねー。
別段何か特別な理由があったわけではない。
ただ単純に、地下室の中にもう一つ小さな地下室のようなものを造っていただけで、それが爆風から辛うじて俺を守ってくれたというだけの話だ。
ただまあ、義手じゃない方の腕が潰れたり、右目を失明したりと無事で済んだとは言い難い惨憺たる有様だったわけだが、それも命あっての物種。
失ったものが多すぎる気もするが、今回の件で得た金はそっくりそのまま残っている。
組織が壊滅させられたせいで部下に分配する必要もなくなった今となっては、散財癖のある俺を以てしても一生遊んで暮らせる金額と言っても良いだろう。
あのクソガキに見つかる可能性を考えればあまり派手なことはできないが、死んだと思われている現状、王国にさえ金輪際近づかなければ気にするほどの脅威でもなし。
帝国や公国で家でも買って、適当に資産運用でもしていれば死ぬまで安泰。
最後にゴミみたいな失敗をかましてしまったが、トータルなら差し引きは大幅にプラス。
気兼ねなく暗殺者なんてかったるい職業も辞められる。
──そう考えていた俺は、実におめでたい奴だったのだろう。
「臭うな……品のない猫の臭いがする……」
「……は?」
帝国地方都市郊外山間部。
グレイゴーストのアジトだった場所を目指して夜の森を歩いていた俺はその道中、しゃがれた老人の声に呼び止められた。
極々普通の常識に基づけば、夜の森に老人が一人、不明瞭な言葉とくればまともな事態ではないだろう。俺は最大限の警戒を以て声の主を振り返り──
「────ッ」
──そして、呼吸を止めた。
「ああ、嫌だ。鼻が曲がる、これだから猫は嫌いだ」
目の前にいたのは灰色のフードを被った、××だった。
「貴様……アブソルートだな?」
違う。冗談ではない。
なんで俺があんなクソガキと一緒にされなくてはならない。
だが、そう訴えようとして、声が出なかった。
「臭うのだ、貴様から、あの忌まわしき猫の臭いが」
違う。違う。違う!
俺ではない、俺じゃない!
だけど、どう足掻こうと、叫ぼうと、声が出ない。
「……分かっている、貴様は奴本人ではあるまい。臭いが違う、奴は貴様のように我を見て怯懦の臭いを放つことはなかった」
そうだ、違う。俺はむしろ対極だ。
だって俺は、あんたを──
「だが、貴様が奴の臭いを微かとはいえ発している。それだけで、殺すには十分すぎる理由だ」
そこで、気づいた。
声が出ないのは当然だ。
既に、呼吸が止まっているのだから。
薄れゆく視界で上を見上げる。
フードの下のその顔を、あまりにも醜い化け物の面を。
「おお、アブソルートよ何処にいる。今日もまた、貴様の縁者を一人殺したぞ。まだ足りぬか? まだ殺さねば足らぬか? どうして来ない? どうして我を殺しに来ない? なぜ我に殺されに来ない? 貴様が言ったのではないか、決着をつけると! だから我は、待っているのに! コンナ体にナってマデ、待っているの二!」
……彼が生きていたという証はない。
「もはや……待てヌ、こちラから貴様に会いに行こウ」
が、いなかったとする証拠もない。
「コロシテヤル、コロシテヤルゾ……」
つまり実在した可能性もあるわけで、死んだという確証もない。
「ルクシア……アブソルートォォォオオオオオオオオオオッ!」
だから──
灰色お化けが、やってくる。
・続きません。
・洋画のスタッフロールのあとのおまけみたいなのがやりたかっただけです。
・次は普通にちゃんサクフィーバーします。いつになるかは知らんすけど。




