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急襲

 すぐに騒ぎの正体は掴めた。

 街道の中央で立ち往生をしているのは4つの馬車からなる商隊。

 その商隊が、周囲を取り囲む荒くれ者の一団に襲われている。


(数……結構いるな。30、いや40はいるか)


 リアンは一旦草むらに飛び込んで、冷静に様子を観察する。

 商隊の方にも戦闘要員はいるようだ。

 場所の傍で武器を振るう男達の姿がポツポツと見える。

 馬車の中からも援護射撃として、矢や魔法が散発的に放たれている。


 だが、抵抗はあまりにか弱い。


 ある程度の抵抗は織り込み済みなのだろう。

 襲撃者の一団は反撃に狼狽えること無く、周囲を取り囲んでじわじわと商隊の戦闘能力を奪っている。

 元より数で負けている上に、野盗一人ひとりの動きが明らかに手練のそれだ。

 このままでは商隊の全滅は時間の問題だった。


(……これは、ちょっと厳しいな)


 野盗集団の戦闘能力が高すぎる。並の盗賊のものではない。

 もしかすると、これが噂の賞金首だろうか。

 だとすると、この場で相手をするのは少々厄介だ。


 加えて今は状況が悪い。

 ヤーナを一人で残しているのに、時間をあまり掛ける訳にはいかない。

 無念だが、ここは一旦引いてヤーナと共に大きく迂回して街に逃げるべきだろう。

 あの盗賊団は『ジャッククラウン』と合流してから相手するしかない。


 だが。


 脳裏をヤーナの笑顔がよぎる。


(……多分、ここで見捨てたら怒るだろうなあ)


 彼女の存在を商隊を見捨てる言い訳にしたら、どれだけ怒り狂うだろうか。

 合理的ではない、リスクもある。

 しかし、彼女に幻滅されるのは、少しだけ嫌だなと思う。


 そしてリアンは決断する。

 剣を抜き、視線を真っ直ぐに。

 出来るだけ気配を漏らさぬように、魔力を全身に巡らせる。


 強化魔法とも言えぬ、魔力循環による筋力強化。

 リアンに出来る唯一の肉体強化だが、魔力効率の点では目も当てられない。

 しかし、彼は天性の保有魔力でその無理を通す。

 結果生まれるのは、純粋な魔力で単純強化された小細工抜きの膂力。


 リアンは姿勢を限りなく低く、弾丸のように飛び出す。

 盗賊の一団はまだこちらに気付いていない。

 獲物を取り囲み、油断しきった背中を見せている。


 リアンは迷うことなく剣を一閃、並ぶ盗賊の脚を深く斬りつける。


「……ああ?」


 一瞬の出来事に、何が起きたかわからなかったのだろう。

 斬られた二人の男が突然不可解な熱を持った自分の下半身を見下ろす。

 そしてその瞬間襲いくる激痛。吹き出す血液。崩れ落ちる身体。


 悲鳴が響く。

 何事かと周囲の仲間が振り返る。

 

 最も近い場所にいた弓矢を持つ男は、振り返った先で仲間が崩れ落ちる姿を見る。

 同時に、黒い影が視界の隅を駆け抜けていくのも。

 

「……んだあ!?」


 驚きの声を上げると同時に、腹部に焼きごてを押し付けられたような熱。

 見下ろせば腹部の右半分が裂け、ゆっくりと血が、臓物が溢れ出しつつある。


「あ゛あああ゛ぁあ!!? 腹あ……おれのはらがあああああ……!!?」

「な、何だ!?」

「敵だ! 後ろに居るぞ!」


 完全に虚を突いた襲撃だというのに盗賊団の反応は早い。

 突然の出来事に動揺を見せながらも、すぐに散開し迎撃の体勢をとろうとする。


 が、リアンは迷わず更に加速しながら突貫していく。

 戦法は単純。小さな身体を利用して地を這うように移動することで相手の死角へ潜り込み、強化した斬撃ですれ違いざまに斬りつける。


 悪党の命を取ることに抵抗はあまりないが、この場で大切なのは出来る限り相手に深手を与えることだ。

 下手に即死させようとすれば攻撃の幅が狭まるし、手傷を負わせて地面を転げさせた方が相手に救助の負担や精神的な圧力を与えることができる。

 つまり、すぐに復帰出来ない程度の傷を与えるのが理想である。


 結果巻き起こるのは血を纏う旋風。

 黒い影は戦場を所狭しと駆け巡り、野盗とすれ違う旅に血風を巻き上げる。

 鼻を突く、むせるような血の濃密な匂いが周囲を満たしていく。


「餓鬼だあ!? 舐めやがって!!」


 7人ほど斬り倒したところで、リアンはついに盗賊たちにその正体を捉えられる。

 それでも、ここまで潜り込めば幾らでもやりようはあった。


 リアンは左右と後ろ、三方向から同時に飛びかかってきている剣士、短剣使い、斧使いを順に視線を向ける。

 これを同時に捌くほどの剣の腕前は彼にはない。

 しかしリアンは落ち着いた様子でただ距離が詰まるのを待つ。


「――!? 待て! そいつの足下、何か……!!」


 離れて弓を構えていた野盗の一人が異常に気付いて叫ぶが、もう遅い。

 たん、とリアンが小さく地面を靴底で叩く。

 その瞬間輝き出すのは、いつの間にか地面に刻まれていた『炎』『拡散』『結界』の三つの刻印。


「――【スプレッドフレア】」


 瞬間、少年の周囲を炎が包み一気に外側へ向けて爆散する。

 肉薄していた三人の野盗に避ける術などある筈もない。

 赤黒い爆炎を至近距離で正面から受けた男たちは、一瞬で皮膚をその下の脂肪まで焼き尽くされ、破れた血管からは血液が吹き出す。

 加えて襲いくる爆発の衝撃。

 火だるまになった人型は、周囲の人間を吹き飛ばしながら地を転がっていく。


「魔術だと……魔法剣士か!?」


 黒煙と土煙が入り混じったものが巻き上がる。

 その中にいるであろう正体不明の敵対者へと幾多もの矢が打ち込まれる。

 だが、それが獲物を捉えることはない。

 煙が晴れると、そこには地に突き刺さった矢だけが残されている。


「野郎、どこに消えた……!!」

「警戒しろ! また来るぞ!!」

「ペアを組め! 怪我した間抜けは放っておけ! どうせ助からねえ!」


 怒号が響き渡る中、突然どこからともなく魔弾が飛来し、馬上で矢を構えていた弓手の左腕を吹き飛ばした。


 「……あ、あああ? ひあぁあぁああ!!! うで、腕がああああああああ!?」


 突然の衝撃と主の狂乱によって馬は暴れ、そのまま馬上の男を跳ね落とす。

 男は地面に転げ落ちながらも飛散した自らの腕の欠片を拾い集めようとするが、暴れる馬に後頭部を踏みつけられそのままぴくりとも動かなくなる。


「何だ!!? 何が起きてるんだ!?」

「くそがあ゛ああぁあアあ!! 出てこい、ぶっ殺してやる!!!!」


 混乱する者、激昂する者、恐怖する者。

 無数に重なる怒号が周囲に響き渡る。


 今まで奪う側だった者たちは突然の襲撃者の乱入によって、今や奪われる側へと立場を変えつつあった。


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