3
「確かにな、こういうこともあるんだな」
父さんに気を使わせたことに少し罪悪感を覚えながら、自然にそういった
「まあはやく見つけれてよかったよ、気分悪いようなら言えよ?病院連れて行くから」
うどん、伸びる前に食えよ。そういって父さんは部屋を出ていった
うどんを食べ終えると少し考えてみることにした
実際になにがあったんだろう、どうすれば、あんなところで寝ることになるんだろう
スマートフォンで"突然 気絶"と調べてみる。脳の血管や心臓の病気の名前がたくさん出てきた
この検索結果を見ただけで不安が一気に押し寄せる
適当にいくつか選んで内容を見てみる。
あることに注意を向けると脳は活動し始める。たとえば、新しい服を買おうとするとどこへ行ってもその服が目につくようになる。
少し前まで全く気が付かなかったのにほとんどの人がそれを持っているような気になってくる。
やはり、この場合も自分には前々からそういう兆候があったのだという確信めいたものを感じる
それにしても、スマートフォンを持っているとなにか思い出しそうな気がする。なんだろう?
そんなことを思っているとどたどたと慌ただしく階段を上がる音が聞こえる。ゆづきだろう。
この古民家を改装した古い家にはゆづきの足音はよく響く
「いっちゃん!大丈夫??」
ふすまを開けると同時に、心配そうな顔と俺を呼ぶ声が飛び込んできた
「畑でたおれてたって、お父さんが言ってた…どこも痛くない?」
目の端に涙を溜めて、そう言ってくる。
我が妹ながら、素直でかわいいやつだな
「ああ、大丈夫。ありがとな。」
そういってごしごし頭を撫でる。
もう来年には高学年だから、普通は兄なんてもう少し敬遠するものなんだろうけどとてもよく懐いてくれてる。生粋の甘えん坊なんだろう
「よかった!でも…ゆづが朝いっしょに行けてたらこんなことにならなかったのに…」
「そもそもゆづは学校だったから、しかたないだろ。それより今日も楽しかったか?学校」
答えはいつもと同じだろうが一応聞いてやる、社交辞令だ
「うん!今日からね、転校生の子がきたよ。おんなのこ」
「へー、どんな娘?かわいい?」
都会の喧騒にうんざりした夫婦が、ぶどうや野菜を作りにこの土地に移り住んでくるのは珍しくないらしい。きっとそういう夫婦の子供だろう
どうやら、そういった人には補助金なども市から出るらしく、たくさん人が来てくれるのは人口がどんどん減っているこの土地にはとてもありがたいことでもある
しかし、そうして移り住んできた若い夫婦が人間関係に悩まされることも多いのだ
風習や地域の活動にうまく馴染めない人や、自分はわざわざ都会から来てやっているという感覚のひとはことごとくいざこざの後にまた都会に帰っていく
まあ、俺にはどうでもいいことだけど
「むー、なんで?気になるの?」
少し頬を膨らませながら、怒ったような声できいてくる。からかってみよう
「あるぞ、可愛けりゃ会ってみたいし」
「すごく可愛いこだけど…いっちゃんに会わせないしっ」
「こんな小さい町だから、歩いてたら会えるかもな」
「じゃあ、そのこにこの辺に高校生くらいの変態が出没するから見かけたら逃げてってゆうからっ」
なかなかひどいことを言うな、この辺でやめとくか
「ごめんごめん、ウソだって。まあでも、声とかかけてやれよ。初めのうちは緊張してるだろうし」
そう言うと、ゆずムキになってたのが恥ずかしくなったのか赤くなりながら
「もう!またからかって!…でも…うん、わかった!やっぱりいっちゃん優しいね」
そういって笑顔になる
どうか反抗期来ないで
つくづくそう思う