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無限死地獄  作者: 法将寿翔
地獄堕ち編
5/24

5話 あとひとつ

記憶が戻るとはいえ、あと2回も死ぬのは勘弁だ。

僕はそう思っていた。



だが僕は先ほど、

『後ろからやってきた飲酒運転の車に轢き殺される』(閻魔談)

という何とも理不尽な死に方をした。


車の音は確かにしたが、まさか自分に向かっているとは露ほども分からなかった。

気付いたら地獄に戻ってきていた。それだけだ。



「次死ねば、ついに記憶を取り戻せますよ?」


閻魔が机の書類を読みながらまるで独り言のように言う。


「一応、毎回生き残る気でいるので」


僕が何者なのか、はっきり思い出したいとも思ってはいたが、

むしろ自我を取り戻した状態で死ぬほうが、よっぽど苦しみを増長させそうな気がした。

記憶が戻れば、生き残るために役立つと思っていたのだが、死を繰り返していく内に、果たして僕が立ち向かう死の運命とやらが本当に回避可能であるのかさえ疑問に思い始めてきていた。


「そろそろ次ですよ。頑張ってください」


目の前が光で包まれる。

また始まるのだろう。


いつだって生き残りたいと思いながら『無限死地獄』という罰を受け続けてきた。


だが生き残れなかった。


いつ終わるのだろう。


淡く薄い絶望を感じながら僕の意識は遠のいていった。






目覚めた。


夜だ。


無意識に夜空を見上げ、今日は星がはっきり見えるなあ、なんてのんきに思いつつ、

すぐ近くに死の危険が迫っていることを思い出し、辺りをふと見回してみて気づいた。



僕は、また子供に憑依している。


視線がやけに低い。


この状況で子供に憑依するのは避けたかった。

『あの男』だ。

あの憎き連続児童強姦殺人犯だ。




あんな不快を煮詰めたシチューの様な目に遭うのは二度とごめんだし、

もしもの場合は何としてもあの男から逃げ切らなければならない。



しかし、なんとも妙な違和感があった。

いや、むしろ違和感がない、と言うべきか。

今まで僕はいろんな人間に憑依をした。

でも、いつも多少の違和感を覚えていた。

元々の僕の体がどんなものか明確なイメージはないが、やはり少なからずズレがあるのだろう。


だが、今はその違和感がない。

僕はそのことに違和感を感じているのだ。


まるで僕の体のような…

いやでも、僕は子供だったのだろうか?


いやしかし、子供とはこうもいちいち考えるものだろうか。




ともかく、今は眼前に迫っているであろう死の運命から逃れなければならない。



僕自身あんな死に方はもうゴメンだし、

たとえ意識が僕のものだとしても、憑依しているこの子にあんな惨たらしい殺され方はしてもらいたくはない。



落ち着いて辺りを見回す。

細い路地の両側には家が立ち並んでいて、プライバシーを守るためか泥棒対策なのか、

ほとんどの家と路地の間には植木や塀が置かれ、横からの見通しは悪い。

その反面この路地はまっすぐ続いていて、数百m先まで見通せそうだった。



月明かりに照らされた人影がこちらに向かっているのが

遠くの方で見えた。



200mほど離れているだろうか。

月を背にして歩いているので、顔は全く分からないが、あの背格好には嫌な覚えがあった。


『あの男』だ。

奴はさんざん世の中を騒がせておきながらのうのうと次なる獲物を求め彷徨っているのだ。

きっとそうに違いない。



奴から、逃げなければならない。

しかし、ここは真っ直ぐな一本道だ。

きっと急に走り出しでもすれば感づかれるだろうし、あの男が子供より速いことは既に分かっている。

すらりすらりと後ろに歩いていけば気付かれずに逃げられるだろうか。

だが大人と子供の歩幅の問題がある。

こっちがゆっくり歩いているうちに追いつかれてもおかしくない。



そう思った矢先、男の方から犬の鳴き声がした。

突然吠えられて驚いたようで、犬のほうを向いて固まっている。



好機だと思い、背を向けて走り出した。

今ならあの男も犬に気を取られているはずだ。



まっすぐ走り続けてもまずいと思い、ふと見つけた横道に入る。

子供の両手を広げた位の幅なので、この体で逃げるには好都合のはずだ。



20mほど入ったところで、電柱の影に身を潜めた。

土地勘が全くないので、下手に奥へ進む方がまずいと思ったからだ。

顔を出し、男がこの道を通り過ぎていくのを待った。

じっとして、耳を澄まし、全身の感覚を研ぎ澄ませた。

左右は完全に塀で囲まれてしまっているので男がいる道の様子はまったく分からないが、

いつか通り過ぎていくはずだ。




さっきは明かりの点いている家が多かったが、この辺の家はどこも真っ暗だ。

裏路地なので、高齢者が多く住んでいるのだろうか。

何かの機械の微かな音程度しか聞こえてこず、余計に恐怖を煽ってくる。

とっとと通り過ぎてほしいのだが。





どうしたのだろう。

あれから30分以上は経ったはずだが、誰も通り過ぎていない。

まさかカタツムリじゃあるまいし、あの程度の距離にこんなに時間がかかるワケがない。

もしや先ほどの人影があの男に見えたのはただの空目で、実はただの近隣住民だった、とでもいうのだろうか。



実際僕はあの男の存在にかなり怯えていたし、恐怖のあまり見間違えたのかもしれない。

幽霊だとかUMAの類は恐怖などによって脳がその存在を生み出すものだとも言うし、

僕の脳が勝手にあの男の幻影を生み出していたのだろうか。



それに、死ぬまでにこんなに時間がかかったことはない。

あの男の時だって監禁されたのは憑依してすぐだったし、

未だに出会ってないということは取りあえずは難を逃れた、そう言ってもいいのかもしれない。



取りあえずは死の運命から逃れられた。

しばらくすれば、僕は成仏し始めるのだろうか。


今思うと、それは完全に油断だった。

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