20話 辿って
「ナカムライチロウって人間は、この街に何人かいる」
息をするように吉村が煙草を吸い、続けた。
「だが、あんたらに関係する人間は誰一人いない。
しかし、重大な罪を犯している人間は一人だけいるがな」
「誰だ?」
吉村が犬にお手、とするように手のひらを差し出す。
「チッ、持ち合わせはこれだけだ」
佐伯が財布から1万円札を数枚抜き取り、吉村に手渡す。
「はいはい、どうも。で、その悪いナカムライチロウってのは、
あんたんとこの頭のせがれもやられちまった、連続児童レイプ殺人魔ってやつだ」
「犯人をお前は知ってたってのか」
「俺が監視カメラをこの辺一帯に仕掛けてるってのは知ってるでしょ?
それで被害者をレイプする瞬間を見ちゃったわけだ」
「とっとと通報でもすりゃいいだろう」
「リターンがない。俺は、ビジネスマンなんだから。
報奨金でも出してもらわないと」
佐伯は、竹田が息子を殺した、そのナカムライチロウというのを殺せば
1千万出す、と言っていたのを思い出した。
高村の暗殺失敗でそれどころではなかったが、
一応親の命令ではあったので、何となく頭には残っていた。
佐伯の最近の悩みといえば、竹田組があと数歩でも悪手を取れば、
いよいよ詰んでしまうという事だった。
川尻組の傘下を離れた今、トップは血筋しか能の無いバカ、
構成員も新しくかき集めたチンピラばかり。
とっとと自分も抜けてしまおうかとも思っていたが、
「裏切りの竹田」の異名の通り、自分には信用がないため、行き場がなかった。
そして、極道の世界で甘い汁を吸った竹田が、
今更カタギの世界に戻るというのも厳しい選択肢であったのだ。
「そいつの情報ってのはいくらだ」
「まあ、そんな大したもんじゃないんで、10でいいかな」
「あんたにしちゃ安いもんだな」
「まあ、付き合いってことだ」
竹田は受け取ったナカムライチロウの情報を見た。
この男は定職についていないようで、
今でもこの街にある実家に住み続けているようだ。
端の方に粗い画質の写真がある。
その中には、太った男の姿が映っていた。
「もっとまともな画像はなかったのか」
「何台カメラを仕掛けてると思ってるんだ?
全部高スペックなものなんて置いてたら破産しちまう」
半笑いで答える吉村を見て、
どれほど金払ってやったんだ、とは思いながらも、
「じゃあな、とりあえずこれで探しておく」
とだけ言い残し、佐伯は事務所を去った。
「どうして、あれから何の音沙汰もないんでしょうか」
「そうは言っても、昨日銃で撃たれて死んだじゃないですか」
「まあ、そうですけど」
「人が死なないってことは良いことです。仕事も増えないし」
僕はヤクザの事務所に乗り込んで殺された後、
地獄に戻ってきたが何もないので閻魔が持っていたトランプでずっとゲームをしていた。
色々なゲームをやっていたが、正直2人なのですぐに飽きてしまう。
「使い魔とかいないんですか」
「上がなかなか人手を増やしてくれないんですよ」
「ああ、会社みたいなシステムなんですね。地獄って」
「今のうちにアドバイスしておきますよ。
たぶん次にあなたが憑依するのは中村イチロウです」
「え?」
「アドバイス終わり。行ってらっしゃい」
「あれ?こんな唐突に始まってました?」
視界がいつものように、白い光で覆われていく。
「さよならになる気がするので、言っておきます。さようなら」
「え?さよならって…」




