16話 鉄砲・弾
僕はまた、現世に蘇った。人の体を借りて。
そして、目の前に広がっているのは見覚えのある風景だ。
リンクしている。閻魔の言った言葉が頭に妙に残っていた。
それは深い言葉だとか、意味深な言葉だからとかではなく、
普段業務連絡が如き言葉ばかりを話す閻魔から言われた、
不思議に実用的なアドバイスに思えたからこそだった。
そこは、昼時の駅前だった。
ロータリーの真ん中に置かれた時計は2時を指している。
新興住宅地として発展した街なので、
通勤と帰宅時間以外は人通りが少ないのが常であり、
今日もそれに違わず、決して賑わっているとはいえない。
さらに強い日光が人々を建物に退けさせているからか、
余計に人の姿が少ないように思えた。
それにしても、今日は暑い。地面がゆらめいている。
体も正直で、じっとりと汗ばんでいる。
一枚だけ着ているポロシャツもスポンジのように汗を吸って、
体にピッタリくっついていた。
これだけ暑ければ、あの大柄のイチロウなんて
ますます家から出てこないのではないかと思った。
あまりに暑く、脳が沸騰してしまいそうなので
一度適当にファミレスにでも入って考えを練ろうかと思った。
財布はどこだろうかと体を探っていると、
左ポケットの辺りにゴツゴツとした感触があるのに気が付いた。
いかついデザインの財布と思って取り出してみると、
それは黒々と光る拳銃だった。
最初はエアガンかと思っていた。
しかし、それにしては重厚すぎる。
さらにポケットの中には数発の弾丸も入っていた。
ファミレスの中で、僕は考えていた。この男についてだ。
そもそも死の運命が近いので僕が憑依したわけだが、
この男自体人を殺そうとしていたのではないかと思った。
さらに財布の中には数十枚の1万円札が入っていた。
この男はもしかして、前に憑依した男の子の父親、
あのヤクザのせがれに関係する男なのではないか。
トイレの洗面台の鏡で自分の姿をまじまじと見る。
鋭い目つき、山のような大きい体。
これなら、イチロウに勝てる。銃だって持っている。
しかしこれでイチロウを殺しに行ってどうなるのだろうか。
呆気なく死ぬだろう。しかしこれでは奴が無限死地獄に行くことはない。
しかしそもそもイチロウを無限死地獄に叩き落すためには、
自分がイチロウに憑依して、その上で死の運命から逃げなければならない。
確かに自分の望む最高の復讐だと思うが、
ここに辿り着くまでがいかほどに難しいか、死を繰り返した僕は分かっていた。
何か他にも情報はないかとスマホを取り出すが、
もちろんロックが掛かっていて、中を見ることは出来なかった。
しかし、他に何か入っていないかと財布を探っていると1つのメモが出てきた。
それは、あのヤクザの父の家へのルート、
そして侵入経路が書かれたものだった。
あの男は先代に比べると人望も無く、
いろいろな方面から恨みを買っていたのは有名な話だった。
中でも、ある組の傘下から独立した件で、
傘下の他の組との抗争が始まっていたというのは
ニュースで報じられるほどの事態だった。
もしかすると、この男は鉄砲玉か?
頭には、息子の死を前にして
情けなく逃げ去っていく男の姿が浮かんでいた。
刃物を持ったイチロウが恐ろしいのは間違いない。
しかし、あの後警察や組員だったりを呼びもせず、
そのまま見捨てたあの男に対し、強い憤りを感じていた。
あの臆病な王様の顔を一度ぶん殴ってやりたいと思った。
ファミレスを出ると、相変わらず熱い空気に包まれた。
時間は午後3時。
駅前でタクシーに乗り込み、
あの家から最寄りのコンビニを運転手に告げた。
平日の昼に見る街並みは、新鮮だった。
いつもはギチギチに詰まったバスで駅まで行くので、
中々外をゆっくり見ることはない。
この街に越してきたのが7年前。
子供たちのために、一軒家に住もうと思ったのがきっかけだった。
それからは仕事に身を捧げ、休みは野球のコーチ。
ロクな休みは無かったかもしれないが、それでも幸せだった。
そんな人生を思い返しているうちに、目的地に着いた。
メモに書かれていた通りに、塀を背にして身を屈めながら伝っていく。
監視カメラがこちらをばっちり捉えているように見えるが
ダミーだから安心しろと書かれている。
カメラの下にある通用口のドアノブを慎重に捻り、
ゆっくりゆっくり押していくと、
鍵はかかっていないようで、ドアは力をかけた分だけ開いていく。
体をその隙間に捻じ込み、中に入った。
この前来たときは夜だったが、
こんなに明るいと、広さがより際立つ。
広い日本庭園を、こっそり進んでいく。
銃はあるが、関係ない人間を殺したくはないし、
そもそも素人の自分がまともに扱えるとは思えない。
メモ通りに進んでいくと、いよいよ竹田組事務所の裏口の前に着いた。
ここまでメモを信じ、実際にうまくやってこれた油断か、
ドアをやや雑に開けてしまった。
するとその先に男がいた。
こちらを見て、にこりと笑っていた。




