13話 あの僕
僕は、自分の息子のコウジのクラスメイトの体を借りて、
軽く顔を見るつもりで部屋に入った。
顔は見られた。
でも、それはコウジそのものではなく、
小学校に入学したときに撮った家族写真から切り取られたものだった。
たった2年なのに、すごく成長したんだなあ。
息子の成長を喜びながらも、目の前の状況が把握できないでいた。
僕が入ってきたことに気付いた妻が、
陰で涙をハンカチで拭き取り、
「あら、また新しい子が来てくれたのね。
葬儀は終わっちゃったけど、きっとコウジも喜んでくれるよ」
と、言った。
「あの、コウジは……」
「もうね、遠いところに行っちゃったの。
でもね、あまり悲しまないで。
きっと、どこかでうまくやってるから」
妻は、まるで死んだことを遠回しに言うような言い方をした。
実際、そのつもりだったのだろう。
たしかに、この体の通りに僕が小学2年生だったならそれで納得した。
しかし、僕にとって、その言葉は、
コウジの死を確定づける以外の何物でもなかった。
もしかして。
もしかしてもしかしてもしかして。
違ってくれ。
どうか違ってくれ。
目の前の妻に聞くことは出来ず、
礼を言って家を飛び出し、近所のコンビニに向かい、新聞を手にした。
一面には『連続児童殺害 新たな犠牲者』とある。
嫌な予感しかしなかったが、恐る恐る読み進めた。
S県Y市で起きている連続児童殺害事件で、新たに夜見コウジくん(8)が被害者となった。遺体は市内の山中で発見された。この事件による被害者は本件で3人目となった。
新聞を持つ手の力が弱まり、パサリと音を立て新聞が床に落ちた。
「ウソだ……」
コウジとの思い出が、走馬灯のように流れる。
まさか、自分のみならず息子までイチロウに殺されているとは思わなかった。
しかも、イチロウに殺されていたのならば、
コウジが殺されてしまったとき、それは僕だったのではないか。
イチロウに殺された子は現時点で3人。
僕はそのうちの2人に憑依していた。
そういえば、あの時イチロウに投げつけたランドセルは、
コウジのものと同じ色だった。
やはり、あれは……
しかし、その事を考えようとしても、
コウジが死んでしまったのだという現実が
重くのしかかってくる。
酷く動揺しているのは自分でも分かっていた。
でも、もうどうしようもない。
僕はコンビニを飛び出して、あの河川敷へと走り出していた。
涙とうめき声が今にも漏れ出しそうだった。
姿を見られてはまずいと思い、
コウジから教えてもらった裏道を通っていった。
河川敷は、不気味なくらい静かだった。
途切れ途切れに虫の声が聞こえてくるが、
あとは遠くで走る車の音くらいしか聞こえてこない。
それから長い間、コウジの事をずっと考えていた。
当たり前に、自分と同じように成長していくのだと思っていた。
中学生になり、反抗期を経て高校生になり、
大学生になり、働くのだと思っていた。
野球が好きな子だからプロになったかもしれない。
そんな可能性をイチロウは瞬く間に全て奪い去った。
もう、許すことはできない。
怒りで体が真っ赤になるようだ。
これ以上被害は出させない。
僕が止める。




