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無限死地獄  作者: 法将寿翔
ある男の話
12/24

12話 おわかれ?

そう。僕は中村イチロウに殺されてこの地獄へやってきた。


あれからどれほどの月日が経っているか知らないが、

きっと僕の殺害を皮切りに、子供を殺し始めるようになったのだろう。

これ以上被害が拡大する前に、彼を止めなければならない。


「現世は、今、いつなのですか」


「日本の時刻でよろしいなら、

2016年6月22日、13時25分。

お昼休みが終わって、少し眠たくなる時間ですね」


閻魔が、左腕に巻いた腕時計を覗きながら言う。



6月22日。

たしか、僕が死んだのは6月5日の夜。

あれから2週間と半分が過ぎている。


僕は10回の死の先で、記憶を取り戻した。

統計的に見れば当たり前のことだが、

人生の中で人の死というものを直接見ることが無かったから、

わずか2週間半の間に10人も死んだ人がいるんだと思うと、

何ともいえない悲しみが溢れてきた。


イチロウは既に2人の子供と僕を殺している。

きっともう歯止めが利かないのだろう。

彼が犯行に及んだ原因は僕にもある。

僕が、あの凶悪な刃をへし折らなければならない。



「物思いにふけっているところ、申し訳ないですが、

そろそろ次が始まります。心の準備をしてください」


「とっくに、出来ています」


「では、頑張ってください」


視界が、真っ白な光で包まれた。



光が弱まり、目の前の風景が確かなものになる。

そこは、どこかの家の部屋の中だった。

しかし、夕方遅いくらいの時間のようだが、

電気は点いておらず、薄暗い。


感覚で察していた。

また、子供に憑依してしまっていると。


きっと、またイチロウに殺される運命にあるのだろう。

でも、そんなことはさせない。

絶対に生き延びてみせる。


しかし、その結果今の僕と同じように、

この『無限死地獄』に墜ちてしまうと考えると、

いたたまれない気持ちになった。


自分が引き金を引いたせいで、

本当はこんなところで死ぬ可能性さえなかったであろう

小さな子供をこんな目にあわせるなんて……。



すると突然、ドアを猛烈に叩く音が聞こえた。

怒りに任せたような、尋常じゃない強さで叩かれている。


「おいコラ!ガキ!

何時間そこに籠ってるつもりだ!?」


ドア越しながらも、耳を塞ぎたくなるような怒鳴り声が響いた。

どうやら父親のようだが、

自分の子供に対して「ガキ」という言い方をするのは

どうも気に食わない。


すると、ドアを思い切り何かで叩くような音と、

その直後に軋むような音が聞こえてきた。

木製のドアが、やや曲がってきている。



この男は危ない。


何度も殺された自分の勘が、そう告げていた。

世の中には本当に勢いのまま人を殺す人間が存在する。

これまでの中で、僕はそれを知った。目の前で見た。

今回の憑依は、イチロウに殺される運命ではなく、

この父親に殺される運命を回避しなければならないのではないか。


とにかく、このままではドアが壊されて、

そのまま酷い目に遭う可能性が高い。


窓から外に逃げようとしたが、どうやら2階のようで、

子供の体で飛び降りるには不安がある。


ドアを叩き壊そうとする音がさらに激しさを増し、

選択を急かしてくる。

飛び降りるしかない。

下は芝生のようなので、まだマシだろう。

気休めに、ベッドにあった布団を窓から投げ捨て、

クッション代わりにしようとしたが、夏用の薄めの布団だった。

ペラペラと広がり地面に落ちたが、

クッションとしての役割はまるで期待できない。


意を決して、窓から飛び降りた。

無事着地は出来たが、足に激痛が走る。

しかし、包丁で切られたほどではない。

広い庭を走り抜け、高い塀を乗り越え、家の外へ出た。



外へ出ると、そこは見慣れた景色だった。


僕が死んだ街。


何度も殺された街。


最初に殺されてからロクな思い出は無いが、

それでも懐かしく感じる。



今逃げ出してきたのは、地元のヤクザのせがれの家だ。

この辺りにあんな大きい敷地のある家はあそこしかない。

血筋さえなければただの無頼漢のような男で、

父親に比べると全くもって人に慕われていなかった。

中を見たのは初めてだが、あんなに広いとは思わなかった。

僕の家が何個も入ることだろう。


あそこの息子が不登校という話は聞いていたが、

きっと家の中で酷い目に遭っていたのだろう。



このままじっとしていたら、

あの男が手下にでも探させるかもしれない。

取りあえず、今の自宅の様子を見に行こう。

僕が死んでから少し経つが、大丈夫だろうか。


住宅街の細い路地を抜けていく。

日はもう沈んでしまった。

きっちりと等間隔におかれた街灯が道を照らすが、

その狭間の、光の届かないところにくらがりがある。

よく見ると、そこに看板があった。

暗くて何が書いてあるかハッキリと分からないので近づいてみると、

『夜見家 葬儀 直進』とあった。


葬儀の案内の看板があるのは珍しいことではない。

しかし、自分の苗字が書かれたものが置いてあるのをみるのは初めてだった。

もっとも、普通は自分の葬儀の案内をこうやって見ることは無いのだが。


でも、僕が死んだ日から2週間以上経つのに、

まだ葬儀をやっていなかったのか。

ひょっとしたら、死体の発見が遅れてしまったのかもしれない。

そこまで暑くないとはいえ、暦上はもう夏だ。

いくら死んだとはいえ、元の自分の体が腐ってたりしたら嫌だなあ、

そう思い、このまま自分の家に向かう、いや、帰ることにした。


家の前は、人があふれ出していた。

別にたくさんの人が来ているというわけではなく、

家がそれほど大きくないだけだ。

でも、自分の葬儀にこんなに人が来てくれているのを見ると、

死んだながらも少しうれしかった。


家の前に着いたところで、子供たちがぞろぞろと出てきた。

1番後ろに若い女性がいる。

この人は確か、コウジの担任の若松先生だったろうか。

何度か見たことがある。

自分の葬儀なのに、コウジのクラスメイト達にまで来てもらって悪いなあ。


「あ、リュウくん!来てくれたの!?」


若松先生が、僕の顔を見て喜びと驚きの混じったような顔をする。

そうだ。今の僕はあのヤクザの息子だった。


「あ、うん……」


「もう終わっちゃったから、

コウジくんにだけ挨拶して帰ってきてね。

きっと、喜ぶと思うから」


そう言われてしまったので、

軽くコウジの顔を見て行こうと思った。

そもそも、この子と関わりはあったんだろうか、

とは思いつつも、家の中に入ろうとすると、


「また、学校に来てくれる?」


先生が自信のなさそうな顔で尋ねてきた。


先生も大変なんだろうなと哀れに思いつつも、

僕がずっとこの体にいるわけでもないので、


「うん」


と、こちらも自信なげに返した。



2階のコウジの部屋へと向かう。

葬儀はもう終わったようなので、きっと、部屋に戻っているだろう。


知らない子が案内も無しにいきなり2階の息子の部屋に入ったら

不自然だろうが、そんなことは気にならなかった。

とにかく久しぶりに、家族の顔を見たかった。

一応、ノックをしてからコウジの部屋のドアを開けた。


すると、中で出迎えたのはコウジではなく、


棺桶と、笑顔で映ったコウジの写真、

それらを包む花、喪服を着て泣いている妻、だった。




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