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無限死地獄  作者: 法将寿翔
ある男の話
10/24

10話 つながり

僕は、中村イチロウが気になっていた。

穏やかな家庭だと思っていた中村家に潜んでいた怪物。

一度暴れだすと歯止めが利かず、人を殺しかねない存在。


中村家の恥部として長い間、世間から隔離されていたのだが、

僕はその存在を知ってしまった。


いずれ、彼はこの街にとっての脅威と化してしまうのではないかと

危惧していた。



そんな不安を抱えていたところ、ある日の夜、トシオさんから電話がきた。


イチロウが暴れだしたからどうにかしてくれ。


その知らせを聞き、僕は中村家へ急いだ。


玄関を開けると、相変わらず2階からの悪臭がうっすら漂っている。

階段を登り、ドアを開けると、イチロウがジロウくんの首を絞めていた。


「何してるんだ!」

慌ててイチロウを押さえつける。


ずっと引きこもっているためか、

力は弱いのだが、その大柄の体は抑えるだけで一苦労だ。



「また!またお前か!クソぉ!」

イチロウの怒りは収まらない。

まるで子供のように喚き散らしている。


しかし観念したのか、

暴れることはしなくなったので、

そのままジロウくんを連れ部屋を出た。


今回暴れた原因は、独り立ちを持ちかけたことだったようだ。


トシオさん達もこの状況をどうにかしなければならないとは思っていたようだが、

その提案はあっさりと拒否された。


「私たちが間違ってたんだ。

世間体なんて気にして、ずっと隠し続けていた。

そのせいで、取り返しがつかなくなってしまったんだ」


「まだ、どうにかなるはずです。手段を考えましょう」



最初は、非常に危険な男だと思っていた。

しかし、2回会って、体をぶつけ合って気付いた。

イチロウは、ただ未熟なだけなのだと。

ただ、大人の体になってしまった子供なのだと。

暴力も、体格ゆえに大きな脅威となりうるものだが、

傷つけようとしているからやっているのではない。

小さな子供と同じように、感情をコントロールできていないだけだ。


中村さんたちも半ば諦めたように2階のあの部屋で一人っきりで暮らさせていた。

そう、教育されていない子供、それが中村イチロウなのだ。


高校のある教師が言っていた。

「子供は、教育されなければ猿と変わらないのだ」と。

教育者としてどうなのだ、というのは置いておいて、実際正論であると思った。

周りの大人たちの教育や躾を受けて子供は文化的世界に生きる人間として成長するのである。


彼は知恵遅れではあるが、だからといって諦められていい存在ではない。

ちゃんと人と接すれば、社会に馴染めるかもしれない。


案外、子供と接するようにしてやれば、どうにかなるものなのではないかと思っていた。




悪の刃が、自らに向けられているとも知らず。




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