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アミューズメント✖️アイランド  作者: 迫川あざみ
1/2

第1戯

 二〇三X年、《日本大革命》が起こってから十五年近くが経過していた。

 当時の日本政府は日本の現状に悩んでいた。日本は数多くの問題を抱えていたが、その中でも特に頭を悩ませていたのがツイットーやフェイスフックなどのSNSである。

 これらの機能は便利であったが長時間のネット使用を自制できなくなり、オンライン上の人間関係が対面のコミュニケーションにとって代わった。その影響は大きかった。既婚男女が、他の女、男と頻繁にコミュニケーションを取っているという不安からの離婚率20%増加。それにより出生率も10%減少。他にも、非正規雇用者の増加や中学中退者の増加など…… 日本は破滅の道に進んだいた。そして日本国民自身もこのことを把握してはいたがもはや止めることはできなかった。

 だからこそ国民たちは、あの発令を受け入れたのである。そう、その発令こそ《日本大革命》だ。中学の歴史で旧石器時代よりも早く習ったので印象的でありよく覚えている。

 内容は一部の人にとっては本当に、本当に残酷なものであったはずである。というのも沖縄を含む九州地方からすべての人を追い出すというものである。もちろん俺の両親を含む九州地方の住民は猛反対した。それに対し本州の連中はこの政策に期待さえ抱いてたと思うと本当に腹立たしい。しかし人間はそういう生き物だと思う。自分がかかわらない出来事には、言葉通り他人事である。そう、しょうがないのだ……

 結局九州住民のデモもむなしく九州から追い出され、住民は本州から北海道までの各地に散って行った。

 そして携帯電話の廃止、ゲーム機器の廃止を初めとする様々な一人でできる娯楽が奪われていった。それも人間に潜む欲望を膨らますために。

 それ以降日本人はよく働いた。GDPの世界一を初め、今までの日本経済の停滞状態が嘘のように解消されていったがその分、不満という負の部分も溜まるものである。首相曰く「プラスと同じ分だけマイナスが存在する」だそうだ。もちろんこの言い分だけで国民、本州の連中が納得するはずもなかった。

 決め手となったのは首相の一言――

「諸君らが働く分だけ面白いものを用意する。プラスは諸君らの欲を満たすこと、マイナスは諸君らの金だ。世界で最高の遊技場を作ってやる……」

 発令から十年、世界最大の遊戯場が完成した――



 俺、浜正義はとうとう九州へ行ける年、十六歳を迎えていた。

 そして山口県のアミューズメントセンターでの手続きを終え、橋を渡りアミューズメントゲート、通称《AMゲート》の前で開閉を待っている。

 この門は山口と九州を繋いでいる関門海峡を渡った先にそびえ建っている。全長は20メートルもある巨大な門だ。ここに来ることを何年夢見たことか――

「いよいよだ……」

 口に出すつもりは全くなかったが、不覚にも口からこぼれてしまった。さりげなく周りを見渡すと隣のやつがこちらに一瞥を投げていた。

 普通の人なら独り言を聞かれるなんていたたまれないなどと思うのだろう。

 だがそんなことは絶対考えない。

 笑われて笑われて強くなるんだよ――

 作家、太宰治の名言だがこの言葉を再び思い出す。そんなこと言ったら俺はもう最強なんじゃないのかな。

 そんなどうでもことを考えている間に予鈴が鳴る。左腕に付けた腕時計を見るとの開閉時刻の正午まで残り一分と迫っていた。

 再び周りを……いや、先ほどより広い視野で辺りを見渡す。自分は橋の前の方なので全部が見えているわけではないが人数はざっと10000人はいるだろう。年齢はバラバラであるがやはり二十歳くらいが多いと思われる。

 それにしても見事にぼっちである。周りでは友人と共闘することをすでに話しているやつらが多くいた。いや、ほとんどのやつが誰かしらと組んでいる。確かに通っていた高校の先生の話だとペアを組んで戦うのが基本だそうだ。でも俺はそうは思はない。

 ――裏切り。

 そんな言葉が頭をよぎる。そう、二人以上でいるということは裏切りというオプションが自動的に含まれてしまうのだ。そんな思いをするくらいなら一人でいい。

 突然、ゴゴゴゴゴゴゴゴという音が耳に入ってきた。

「《AMゲート》が開きます、ご注意ください」

 少し遅れてだがアナウンスが入る。 

 先ほどまでべらべらとしゃべっていた連中の顔つきも変わり緊張感が漂う。

 この数少ないチャンスに緊張しないものなどいないだろう。ここに来れることなんてせいぜい二、三回が限度だしたいていの人が最初の一度で終わるだろう。

 前の方のやつらが動き出し中へ入ってゆく。

 後ろから見るとまるでウェーブのようだ。自分もすぐにその波に乗った。

 始まったんだ。人生最大のイベント…… 九州ギャンブルが。



 この世界に来てから一か月が経過した。

 同期のやつらはすでに半数以上がゴーホームしていることだろう。ご愁傷様。

 それにしても脱落となったといっても不憫なものである。次にここへ来ることができるのは何年後になるのか…… というかおそらく無理であろう。

 このギャンブルに参加するのには参加資格というものがある。

「なんで自分らの土地に入るのに資格が必要なんだ」

「故郷をなんだと思っているんだ」

 遊技場完成当時、こんなことをわめいている本州のくそ野郎がいたが、元九州の人たちは九州が改造された時点で政府には諦めてるし、元九州の人たちはあそこを今は自分たちの土地とは呼ばない。偽善者死ね。

 参加資格に関して言えば俺はなにも思わない。参加資格は十六歳以上であること、入場費として初回は1000万円、それ以降は一兆円支払うことの二つである。

 人間は、もし成功を願うならば、それ相当の自己犠牲を払わなくてはなりません――

 はい、その通りでございますね……

 イギリスの作家、ジェームズ・アレンの言葉である。

 俺はもちろん、他の連中もそうであると思うがチャンスは一度だと考えている。そしてその一度のチャンスでさえかなりの代償を抱えていることが多いのである。例えば借金して来ているとか…… 

 そんな犠牲を払って成功を願うことはできても必ずしも成功することはできない。借金をしてまで入り負けて出たあかつきには今度はお金を返さなければいけないという拘束に縛られながら一生を送らなければならない。

 俺は今は勝っているからいいものの、彼らとほぼ同じ立場であるがゆえ、負けるわけにはいかない。

 今日は土曜日。明日にはまた種目が変わるので今週の《3すくみ》も今日で終わる。この拳遊びは51勝14敗と調子もいいし、何より得意であるのでまだ終わってほしくないというのが正直な気持ちだ。

 前のバトルからもうすぐ15分になるので相手を探すため再び車道の方へ出る。

 ここの町並みは都会そのものであるが、一つだけ大きく違う。それは車。車道があるにもかかわらず車が走っていないのだ。それがこの世界の特色であり、構造である。

「よう、マサヨシ」


 大通りへ出ると後ろから早速声がかかった……が、その声は聞いたことがある声であり、振り返るとそこにはやはり見知った顔があった。

 高身長でぼさぼさの銀髪。なんだかのほほーんとした感じの男がそこにはいた。

「お前は相変わらず一人かよ。寂しいやつだなあ」

「うるせえよ、一人でやってけてるんだからいいだろう。別に……」

 こいつは同期のハヤトだ。もうそろそろお帰りになっていると思ったがしぶとく生き残っていた。もう一人、ペアのやつがいるが、そいつとは話したことがない。まだ生き残っているのは相方のおかげかもしれない。

 ペアになるとお金を共有することができるのだ。ゆえに一人が残金0円になった場合も、相方がお金を渡し生き残ることができる。これだけ聞くと人数が多い方がいい、と思うかもしれないがそうではない。相方のお金をすべて奪うことができてしまうのだ。いわゆる裏切り行為である。最初に脱落した連中の大半もこれが原因であろう。うーん…… ご愁傷さま。

「一勝負しねえか? 百円くらいで……」

「百円でいいのか? 俺は一億くらい賭けてもいいんだぜ」

「い、いや。百円でいい。そんなやる気でもないしな」

 やる気じゃないんならやるなよ…… というつっこみをいれたい衝動を抑え、さっそくやろうと言い、掛け金百円というはした金で勝負を受ける。こいつでなかったらこんな勝負は受けないだろう。

 ハヤトはわかりやすい奴だ。そしてわかりやすいというのは勝負の世界においては致命的である。俺がこいつはすでにいなくなっていると思ったのはペアに裏切られることもあるがそのわかりやすいことが理由である。初めの頃に、三回戦い二勝一分であった。三回目の引き分けはもちろん狙ってだ。

 しかしわかりやすい勝負ほど面白いものはない。

「じゃあ早速いくぞ。ア―へー」

 急な開始にあわてて言葉を遮る。

「ちょっと待て。準備をさせろ、準備を」

「なんだ、またイカサマか」

 ハヤトの言葉を流し、頭の中で《3すくみ》の確認を再度行う――

 基本はじゃんけんと同じ。しかし出すものが4つある。小指を出す。これはアリを表しゾウに勝てる。だが人差し指であるヒトには負ける。また、ヒトは小指と親指を立てるライオンには勝てない。だがライオンも親指であるゾウには負ける。よしっ。

「OK。やろうか」

「じゃあこんどこそいくぞ。アーヘーホイ」

 ハヤトは人差し指、俺は親指と小指を出し、俺の勝ち。

「また俺の負けかー、くそー。」

 ちなみにこれにはからくりがある。実は小指は後から出していた。後からといってもコンマ一秒ほどであるがその間に相手の手を見て自分の手を変える。そのためにも小指が相手に見えにくい角度で自分の手を出す。これによって今回のゲームはかなり勝てていた。そしてもちろんこのバカのハヤトにも勝つ。

 そして左腕の所持金表示式デジタル腕時計を見ると83000円から83100円に増えていた。正直百円など必要ない。初めは10万円あったと考えると少し減ってしまっているがそこまで支障はない。しかしあと11ヶ月で1000万円までいかないといけないとなるとまだまだ険しい道のりである。同期のやつ等でももう100万くらいはいっているものなのだろうか。自分には知り合いが一人しか存在せず、もちろん情報源もこのバカしかいない。こいつのことはばかにしているがその反面俺なんかに話かけてくれて本当に感謝している。たぶん頭が悪いからだな、たぶん。まあこんなバカでもこのアミューズメントパークの情報についてはよく知っている。というのもこいつは友達が多いのだ。まあおそらくみんなバカなんだろうが……。ほら、あのなんだっけ。バカはバカを呼ぶってことわざ。とにかくこいつから情報を得よう。同期のやつらで今一番メンソーレに近い奴は誰なのか……

「ハヤト、聞いてもいいか? 今俺たちと一緒に入ったやつってどうなんだよ。すげえやつだともう100万くらいいってるのか?」

 俺は思っていたことをそのまま口にした。

「いや、そんなもんじゃないよ。ほら前話したナギサってやついるだろ?あいつがほんとにすごいらしい。なんたってもうすでに500万近く到達してるみたいだからな。たぶんもうMパークの方に行ってると思うぞ。他のやつらは――」

 忘れていた。ナギサ……。俺たちの同期では知らないものはいないだろう。彼は俺と同じく孤軍奮闘しているのにかかわらずものすごい速さで所持金を増やしている。というのも初めのころ、彼は所持金すべてを毎回賭けていたらしい。ただのバカなのか、それともそんなにも早く勝たなければいけない事情があるのか…… まあ他人の事情などどうでもよい。

「すごいなあ。Mパークってあの金持ちばかりが集まってるところだろ。俺も早く行きたいな」

 そう、行きたい。いや、行かなければならない。家族のためにも……

「まあ俺たちは気長にやってこうぜ。じゃあな。」

 そういうとハヤト達は去って行った。俺は少し焦りを覚えていた。基本的に掛け金は1000円。俺たち新人の中ではそうなっている。しかしこのペースで残りの11ヶ月の間に1000万円など本当に行けるのだろうか。考えている間にも足は動きだし次の相手を求めていた――



 結局今週は65勝15敗で所持金101100円で幕を閉じた。宿に帰り食堂でこの宿では最後の夜食券を出し夜食をもらい席に着く。せっかくこの宿にも慣れてきたのに残念だ。また宿が変わってしまうなんて。また話しかけられてしまうじゃないか。ボッチはよく話かけるのだ。まあ無視するんだけど。今この宿で話しかけてくるものなどいない。すでに俺のマインドコントロールが済んでいるのだ。とか考えちゃう俺が嫌い。俺は別に他の人と話したくないわけじゃないしきゃっきゃお話するのも嫌いではない。ただ他人を信用できないのだ。話しかけてきたとしたら俺はそれを語り商法だと疑うし、もし部屋に誰かが来るのならマルチ商法だと疑う。いや、別に高校に来て詐欺について語る警察官じゃないよ。高校に来てよくわからない詐欺についていろいろ言う暇があるなら犯人逮捕して欲しいよね。詐欺のお話、先生しか聞いてないのわかってるのかなあ。

 こんな性格だから話せるやつなんてハヤトしかいない。まあ悲しくないけど、別に。

 食事を終え部屋に戻り、早速部屋の荷物をまとめた。腕時計の表示によると今度は熊本の宿と書かれている。この福岡の宿からは100キロ以上あるのでおそらく午前中にギャンブルはできないだろう。しかし移動の時間を使って戦略を考えることはできる。

 この地上における二人の暴君、それは偶然と時間だ――

 ヘルダーの言うと通りだ。だからこそせめて時間の暴走くらいは食い止めよう。

 荷物整理も終わったので俺はベットに横たわった。そしてゆっくりと瞼を閉じた。

 もうここに来て一か月が経ってしまった。家の貯金すべてを使い果たし手までここへ来たのにこのままじゃ何もなく帰らされてしまう。俺は母のためにもメンソーレになって沖縄に行かなければいけないのに。

 母を思うとこんな自分が情けない。母は今一人でやっていけているのだろうか。しかしこんなこと考えてももう手遅れだ。今は自分にできることをする。ただそれだけだ。

 この部屋の静寂が今日はいつも以上にありがたいと感じた。


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