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汗をながして


困った。

金がない。


僕はアフィリエイトの報酬画面を覗き込んでため息をついた。

参った。今月はどうも調子が悪い。


食費はつつましい、家賃はかからない。

僕は普段から贅沢な生活を避けているが、どうしても税金支払いの問題だけは残ってしまう


一時的な問題かもしれないので、テコ入れはせず、様子見とすることにしたが、足りないお金の問題は別の方法でなんとかするしかない。

今月は穴埋め記事の仕事も入っていない以上、選択肢が限られている。

アルバイトだ。


そんなわけで、久しぶりに登録制のアルバイトをすることにした。


ある程度実入りの良い、短期アルバイトは内容が限られている。

肉体労働だ。

待遇の当たり外れが激しいので、あまりやりたくはないが背に腹は代えられない。


僕はため息交じりに派遣会社に電話をかけた。


結論から言って外れだった。


今回、人員に空きがあると派遣会社から紹介されたのは倉庫内の仕分け作業だった。

しかも、この真冬に冷凍庫の中での作業。


山のように積まれた冷凍食品をハンドフォークで仕分けていく。

腕が痛いし、手足はかじかんでくる。


夜遅くに倉庫に入り、夜明け前にようやく終わった。

「お疲れ様でした」と責任者に挨拶をし、作業の報告書に署名をもらって辞去する。


電車を乗り継いで地元まで戻ると、完全に日が昇っていた。

眠い。

が、その前にのどが渇いた。

コンビニでボトルの水を買って歩きながら飲む。


ああ、美味い。

僕は体を動かすのが好きなわけではない。

肉体労働だってできれば避けたい。


でも、汗を流した後の水はいつだって最高だ。


いつものように町工場の建ち並ぶ通りを歩いて家に向かう。

工場の朝は早い。

すでに業務が始まっているようだ。

朝のひんやりした空気が気持良い。


とりあえず帰ったら寝ようか、と考えていると、

家のほうから道った顔が近付いてきた。


「水崎さん。おはようございます。

早いんですね」


一呼吸早く僕が気づき、僕から声をかけた。

水崎さんペコリと会釈して言った。


「おはようございます」


起き抜けという感じではない。

しっかりと服を着込んで、真冬の早朝の空の下に佇んでいる。

習慣的に早起きしているのだろうか。


「いつも朝はお早いんですか」


「ええ。昔からの朝型で。

陽が昇ると自然と眼が覚めてしまうんです。

なんだか原始人みたいですね。

津田さんもお早いんですね」


僕は夜勤のバイトをして今戻って来たことを簡潔に告げた。


「道理で。ずいぶんお疲れみたいに見えましたけど。

アルバイトですか。大変ですね」


「貧乏暇なしです」


「ええ、わかります。

私も、昔そういうバイトしてましたから」


「へえ、どんな?」


意外だった。

彼女が何をして生計を立てているのかしらないが、

肉体労働をしたことがあるとは意外だった。

ほっそりとした体形の彼女とは結びつかない。

色々経験しているのだろうか。


「そうですね。一番印象に残ってるのは、花火大会の会場でバイトしたときです」


「へえ」


「真夏の炎天下で、上からも下からも暑い熱が照り付けて本当にキツかったんですけどね。

仕事が終わった後に特等席で花火を見せてもらったんですよ。

……もう、本当に綺麗でした。

それに、汗を流した後に飲んだ水が本当に美味しくて。

これって、汗を流したあとの特権って感じですよね」


「……ええ、すごくよくわかります」


彼女は静かに笑っていた。

良く分かる。

僕も静かに笑っていた。


「では、また。

ゆっくりお休みになってくださいね。

お疲れ様です」


「ええ、ありがとうございます」


そう言うと水崎さんは踵を返して歩き去って行った。


汗を流すのもたまにはいいかもしれない。

今日も平和だ。


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