密約の手紙⑥
耳をつんざくような悲鳴が、あちこちから聞こえる。
「一族の恥」とはいえ、ハナは王族であり、この国の末の姫である。
誰もが目の前で起こっている出来事に、恐怖を感じずにはいられなかった。
けれども、フィンネル王国軍の兵士たちは、違うことで恐怖を感じていた。
後ろ姿からでも分かるほどの、ディルの怒りを目の当たりにして・・・。
彼のすぐ後ろにいた兵士が、静かに近づく。
「・・・ディル、無理だと思うが落ちつけ。」
ディルは声のした方へは振り向かず、ハナを人質にとる祭司を睨みつけながら言った。
「落ちついてられるかよ!」
その一言が吐き捨てられると同時に、ディルと数人の兵士が一斉にハナたちの方へ走ってきた。
鎧や甲冑がこすれる音と、ナイフを振りかざす音が、耳に響く。
ハナは、さらに目をきつく瞑り、体をこわばらせた。
キーーーーーン
一瞬の出来事だった。
祭司は、フィンネル王国軍に無事に捉えられたのである。
それを皮切りに、王の間にいる何人かが、捉えられているのが聞こえる。
聞こえるだけで、ハナは確認することができなかった。
フィンネルの若き王に、きつく抱きしめられていたのだから。