密約の手紙②
軍の先頭にいた人物が、数歩前に出てきた。
ゆっくりと響く、足音。
部屋の中は、水を打ったように静まり返る。
人々はみな、その動作を静かに見つめた。
その男は、ゆっくりと王の間を見渡し、静かに頭を覆っていた甲冑をはずした。
最初に目を奪われたのは、美しくなびく髪だった。
金色に近い、色素の薄い茶色の髪が1つに結われている。
肩より少し短いその髪は、整いすぎている彼の顔を、さらに美しく、迫力あるものに見せていた。
海のように深い青の瞳は、じつに鋭い。まるで、刺されてしまいそうなほどだ。
遠くからでも、鍛えられた体と、その美しさが、彼の雰囲気をさらに鋭く、気品あるものにしていることが分かる。
女性だけではなく、男性をも一瞬にして魅了させる程だ。
ハナは、こんなに美しい男性を見たことがなかった。
髪の色も、目の色も、この国の人とは全然違う。
周囲は、ざわざわと騒ぎ始めていた。
「フィンネル王国のディル様だわ・・・。」
「こんな状況だけど、なんてかっこいいの・・・。」
そんな声を耳にして、ハナは初めて回りの女性たちが、顔を赤く染めて彼に見入っていることに気がついた。
ハナは、いつもは伏している顔をそっと上げて、頭からかぶっている黒い布の下から、無意識にもう少し彼を見ようとした。
遠い位置にいる彼がこちらを向いている。
そう思った瞬間、目が合った気がして、思わず下を向いてしまった。
『そ、そんなはずはない。私がいるのは、この部屋の一番隅。人垣の間から見ただけなのだから、目が合うはずなんてないわ。』
人と目を合わすことなど、ほとんどないハナにとって、美しい見知らぬ男性と目が合うだなんて考えられない。自分の思い込みだと言い聞かせて、早鐘を打つ胸を両手で押さえながら、ハナはもう一度ゆっくり顔を上げた。
ディルと呼ばれた美しい男は、周囲をゆっくりと見渡している。室内の様子が把握できると、玉座の方を見据えた。
そして、静かに口を開いた。