城内散歩②
「あれ?地図だとこのへんなんだけど・・・。」
ハナは地図を片手に、辺りを見回した。
食堂でおいしい朝食を食べた後、アルカは用があるとの事で、お昼に待ち合わせをして先に行ってしまった。ハナはというと、昨日の夜に王立図書館があると知ってから、どうしてもそこに行きたいと思っていたので、カミールに図書館への行き方を地図にかいてもらった。
「ハナ、ジョラムには気をつけるのよ?ってか、男はみんな、狼だからね。何かあったら、私に言いなさいね!」
カミールは地図をかきながら、力を入れてこんな事を言うもんだから、ハナには曖昧な返事しか出来なかった。
『とりあえず、気をつけろって事かしら・・・。』
今まで隔離されていたハナにとって、人と接する事がどれくらい難しくて、どれくらい大変な事なのかは、正直分かっていない。自分の事を知らない人が多いからこそ、気をつける事もたくさんあるのだろう。カミールの言う通り、気をつけなくちゃ・・・なんて事を考えながら、地図の通りに進んできたのだが、どうやら迷ってしまったようだ。
「困ったわね・・・。」
来た道を引き返そうと、後ろを向いた時だった。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・ひっ」
「ヒヒ〜〜〜ン」
「ひぎゃーーーーーーーーーーーー!!!」
ハナは思いっきり尻餅をついた。
そこにあったのは、馬の顔。
そう、ハナの後ろには、大きな茶色い毛並みの馬がいたのだ。
「こっ腰が・・・」
あまりにもびっくりして、腰が抜けてしまったハナの目の前で、突然その馬が両方の前足を高く上げた。
『 潰される!!! 』
そう思った、そのとき。
「 ピーーーーーーーーーッ 」
高い音が鳴った。
その音を聞いた馬は、静かに前足を降ろし、動きを止めた。
「だっ大丈夫か?」
遠くから声が聞こえる。
ハナは、何が起きたのか分からず、尻餅をついたまま、穏やかにしっぽを揺らす馬の向こうから走って来る人に目を向けた。
「まさか、こんな時間に人がいるなんて思わなかったぜ。驚かせて悪かったな。」
そう言って走ってきた人物は、ハナを起き上がらせてくれた。
「あっありがとうございます。」
ハナは頭を下げた。
「ん?お前・・・見ない顔だな?」
「ハっハナ・オレガーです。留学で来ました。」
「ああ、留学生さんかよ。そりゃ見ないはずだ。おれはフラックス。よろしくな。」
短髪で、小麦色に焼けた肌のフラックスは、太陽のような眩しい笑顔を見せた。
「その馬は・・・フラックスの馬?」
「え?あ、こいつ?こいつはおれのじゃねーよ?殿下の馬。」
「殿下の?」
「そっ。ここは、城内の馬を管理してる厩舎。んで、おれはこの厩舎の責任者。」
「きっ厩舎!?」
「ああ。今、ちょうど馬を走らせるとこだったんだけど、まさか人がいるなんて思わなかったからな。」
・・・図書館と間違えてきたところが厩舎だなんて。
冷静になって周りを見てみると、確かに広い馬場がある。数人の人の合図で、何頭かの馬がすでに走っているのが見える。
「ってかお前、なんの用で来たんだよ?」
「・・・恥ずかしくて言えません。」
「は?」
「笑わない?」
「?んだよ?」
「・・・図書館に行きたかったの。」
「は?」
「図書館に、行きたかったの!ほら!」
そう言って、カミールにかいてもらった地図を渡す。
「・・・。」
「・・・。」
「 あーははははっははは!!!! 」
フラックスの豪快な笑い方に、ハナは顔が赤くなるのが分かった。
「も〜!笑わないでって言ったじゃない!」
「あはははは!ハナ、お前最高!図書館と間違えてここに来た奴、初めて見た。」
「間違えたんじゃないもん。迷っちゃったんだもん。」
「ってか、間違えようねじゃん。あんなに高いんだぜ?」
そう言ってフラックスが指差した先には、高い塔のような建物があった。厩舎の真裏にあるようだ。
「・・・え?あれ?」
「だから、間違えようがねえって言ってるだろ?」
「・・・。」
もう、言葉が出ない。
「ったく。しょうがねぇなあ。抜け道教えてやっから、そこから行けよ。」
「すっすみません!」
茶色い毛並みの馬を連れながら、ずっとくすくす笑うフラックスの横で、ハナはおとなしく付いて行く事にした。