パーティーの夜③
「・・・ふふっ。」
「ん?ハナ、どうした?」
ハナとディルは、テラスのベンチに腰を下ろした。
「この国は、陽気な人が多いってアルカが言っていました。さっきのジョラムを見ると、ほんとだなって思って。」
「ちっ・・・。」
「?何かおっしゃいました?」
「いや?」
心の中でジョラムに悪態をつくディルを、見上げるハナ。
ディルは何も悟られないよう、ハナに魅惑的な笑顔を見せた。
『・・・あれ?』
突然真顔になるハナ。
『今まで何とも思わなかったけど・・・。普通に考えて、テラスで殿下と2人って・・・、広間の女性たちはおもしろくないんじゃ・・・。』
どんな表情でも魅了するディルに優しく微笑まれ、ハナは顔を青くした。
「でで殿下!そろそろ広間に戻りましょう!!」
バッと立ち上がりながら、大声を出したハナ。
そのハナの手首をとっさに掴み、ディルは、自分の方にハナを引っ張った。
「っきゃう!!」
何が起こったのか、ハナは一瞬分からなかった。
「・・・え?ええ??」
状況がよく飲み込めない。
「ででで殿下・・・!?あのっ・・・えっと・・・。」
ハナは、殿下の膝の上に抱き寄せられていた。
「ええっ!!・・・でででで殿っ下・・・!」
声が裏返ってしまう。
そんな慌てふためくハナをよそに、ディルはハナを膝の上に乗せて抱きしめていた。
訳が分からず固まるハナとは対照的に、ディルの気持ちは穏やかそのものだった。
ずっと、こうやって過ごすのを心待ちにしていた。
<自分の手が届く場所にハナがいて、毎日笑顔を見て過ごす。
そのために、立派な王になってみせる。>
小さい頃、温室で出会ってから胸に誓った、自分が王になった理由の1つ。
本当ならば、今頃婚約発表をしていたはずだったのに・・・。そう、ハナは自分のものになっているはずだった。
ディルは少しだけハナを抱きしめる腕に力を込めた。すると、ハナがびくっと反応する。
「・・・あっあの・・・・!」
消え入りそうな声。その反応が嬉しくて、思わずにやけてしまう。
「ごめん。もう少しだけ。」
かすれた声でささやく。自分がこんな優しい声を出せるなんて、知らなかった。
愛しくて、マロンブラウンの髪にそっとキスをする。もちろんハナからは見えないから気づいていない。
ハナに会えなかった時間、一体自分はどうやって過ごしていたのだろうか。ほんの数日前のことなのに、もう戻れない。ハナがいない生活には。
自分が選んだシャンパンゴールドのドレスに身を包んだハナを見た時は、いても立ってもいられなかった。気がついたら、ハナの前まで歩いていた。
他の男の視線がハナに向くことぐらい、容易に分かっていた。これからも、ここで生活をしていく中で、ジョラムみたいなやつが現れることぐらい、分かりきっている。
ハナは自分のものだと言いたい。
けれど、それはここでの彼女の生活に邪魔となる。今まで何も出来なかった分、たくさんの経験をしてほしい。たくさんの人に出会って、一緒に笑ってほしい。
・・・矛盾。
ディルは、ゆっくりハナを解放すると熱っぽい視線でハナに笑顔を向けた。
「戻ろうか。」
顔を伏しながらその言葉を聞いたハナは、ただただ頷くことしか出来なかった。
耳まで真っ赤にしながら。