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黒ずきん姫とグリーンハウス  作者: 那実いずみ
第二章 「来客」
24/30

パーティーの夜③

 「・・・ふふっ。」

 「ん?ハナ、どうした?」

 ハナとディルは、テラスのベンチに腰を下ろした。 

 「この国は、陽気な人が多いってアルカが言っていました。さっきのジョラムを見ると、ほんとだなって思って。」

 「ちっ・・・。」

 「?何かおっしゃいました?」

 「いや?」

 心の中でジョラムに悪態をつくディルを、見上げるハナ。

 ディルは何も悟られないよう、ハナに魅惑的な笑顔を見せた。

 


 『・・・あれ?』

 突然真顔になるハナ。

 『今まで何とも思わなかったけど・・・。普通に考えて、テラスで殿下と2人って・・・、広間の女性たちはおもしろくないんじゃ・・・。』

 どんな表情でも魅了するディルに優しく微笑まれ、ハナは顔を青くした。

 「でで殿下!そろそろ広間に戻りましょう!!」

 バッと立ち上がりながら、大声を出したハナ。

 そのハナの手首をとっさに掴み、ディルは、自分の方にハナを引っ張った。

 「っきゃう!!」

 何が起こったのか、ハナは一瞬分からなかった。

 「・・・え?ええ??」

 状況がよく飲み込めない。

 「ででで殿下・・・!?あのっ・・・えっと・・・。」

 ハナは、殿下の膝の上に抱き寄せられていた。

 「ええっ!!・・・でででで殿っ下・・・!」

 声が裏返ってしまう。

 そんな慌てふためくハナをよそに、ディルはハナを膝の上に乗せて抱きしめていた。

 


 訳が分からず固まるハナとは対照的に、ディルの気持ちは穏やかそのものだった。

 ずっと、こうやって過ごすのを心待ちにしていた。


 <自分の手が届く場所にハナがいて、毎日笑顔を見て過ごす。

               そのために、立派な王になってみせる。>


 小さい頃、温室で出会ってから胸に誓った、自分が王になった理由の1つ。

 本当ならば、今頃婚約発表をしていたはずだったのに・・・。そう、ハナは自分のものになっているはずだった。

 ディルは少しだけハナを抱きしめる腕に力を込めた。すると、ハナがびくっと反応する。

 「・・・あっあの・・・・!」

 消え入りそうな声。その反応が嬉しくて、思わずにやけてしまう。

 「ごめん。もう少しだけ。」

 かすれた声でささやく。自分がこんな優しい声を出せるなんて、知らなかった。

 愛しくて、マロンブラウンの髪にそっとキスをする。もちろんハナからは見えないから気づいていない。

 ハナに会えなかった時間、一体自分はどうやって過ごしていたのだろうか。ほんの数日前のことなのに、もう戻れない。ハナがいない生活には。

 自分が選んだシャンパンゴールドのドレスに身を包んだハナを見た時は、いても立ってもいられなかった。気がついたら、ハナの前まで歩いていた。

 他の男の視線がハナに向くことぐらい、容易に分かっていた。これからも、ここで生活をしていく中で、ジョラムみたいなやつが現れることぐらい、分かりきっている。

 

 ハナは自分のものだと言いたい。


 けれど、それはここでの彼女の生活に邪魔となる。今まで何も出来なかった分、たくさんの経験をしてほしい。たくさんの人に出会って、一緒に笑ってほしい。

 ・・・矛盾。



 ディルは、ゆっくりハナを解放すると熱っぽい視線でハナに笑顔を向けた。

 「戻ろうか。」

 顔を伏しながらその言葉を聞いたハナは、ただただ頷くことしか出来なかった。

 

 耳まで真っ赤にしながら。

 





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