表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒ずきん姫とグリーンハウス  作者: 那実いずみ
第二章 「来客」
23/30

パーティーの夜②

 心地いい風が吹き抜ける。

 星が瞬く夜空は、華やかに飾られたテラスを包んでいる。

 噴水の水がはじける音と穏やかな音楽が重なって、1つのメロディーを奏でている。

 ところどころに灯る明かりが、大広間とは違って落ち着いた雰囲気を演出している。

 

 人がいないテラスに来て、ハナはようやく緊張が解けた気がした。  



 「はい。ハナ。」

 「!」

 突然目の前に、きれいな赤いドリンクのグラス。

 ディルは自分の分のグラスも受け取ると、側にいたサーバーに下がるよう声をかけた。

 「クランベリージュース。どう?」

 そう言って、優しい笑顔でハナにグラスを渡した。

 「クラン・・・ベリー?」

 ハナはそっとグラスを受け取った。

 「そう・・・って、初めて?」

 「はい。」

 「口に合うといいけど・・・。」

 そう言って、そっとワインを口にするディルは、女性なら誰でも虜にしてしまいそうなほどの、とろける笑顔を見せた。

 思わず顔が赤くなるハナは、ごまかすようにジュースを一口。

 「!・・・おいしい!!」

 思わず大きな声をあげてしまった。

 初めて口にするクランベリージュースは、甘みと酸味がほどよいバランスで、とても飲みやすかった。

 「殿下、おいしいです!!」

 初めて口にするクランベリージュースに興奮して、ディルに声をかけると、ディルはハナに優しい笑顔を向けた。

 


 「へ〜、この子が、噂の留学生?」

 突然、後ろから聞き慣れない男性の声がした。

 振り返ろうとすると、ディルがきれいな笑顔でハナに声をかける。

 「ハナ、返事をしなくてもいいし、見る必要もないよ?向こうに行こうか。」

 そう言って、グラスを受け取り、手を引く。

 「え?え??」

 何がなんだか分からない。

 「おいおい!ディル〜!俺にも噂の留学生を紹介してくれよ!!」

 ハナが振り向こうとした瞬間、

 「きゃっ!!」

 ディルに抱きしめられて、周りを見ることが出来なくなった。

 「ジョラム、なんでここにいるんだ!」

 「なんでって・・・2人がテラスに行くのが見えたから追ってきたんだよ?」

 「来るんじゃねえ!あっちへ行け!」

 「うわっ!ひっで〜!!俺、泣いちゃう・・・。」

 「あっちで泣け。」

 「あいさつくらい、いいだろ〜?」

 「お前なんかにハナを見せたら、ハナの目が汚れる。」

 「うわ、ますますひで〜!!おれ、これでも王立図書館の主任なのに・・・。」

 「はいはい。」

 2人の会話を頭の上で聞く。

 『え・・・!?今、『王立図書館』って言った!?』

 ハナはもぞもぞしながら、ディルに声をかけた。

 「で、で殿下、フィンネルに・・・は、王立っと図書館があるのです・・・っか?」

 もぞもぞ声をかけるハナのかわいらしさに、思わず顔を緩めたディルは笑顔で答えた。

 「ああ。城の敷地内にあるよ。」

 「そこは・・・わっ私も行けますか?」

 「もちろん。」


  すごい!

  噂では聞いたことがあったけれど、ほんとに図書館ってあるんだ・・・。


 ハナの国では、図書館という施設はない。どちらかというと、書庫という感じで、それこそ学者や限られた人が利用するような場所だ。

 図書館がある国は、平和で国民の教育が行き届いている国だと聞いたことがある。さらには王立の図書館なのだから、そこの全ての責任者は、このディル本人なのだ。

 



 やはりディルは、思っている以上にすごい人だ。

 自分が側にいて、迷惑をかけてはいけない。




 ハナのチョコレートブラウンの瞳が一瞬揺らいだのを、ディルは見逃さなかった。

 「ハナ?」

  


 「お〜い。ディル。過保護なのは分かったからさ〜。」

 その言葉で、2人の間に流れていた雰囲気が、一層される。

 「ハナちゃん?だっけ?早くあいさつさせろ!」

 そう言うと、ジョラムと呼ばれた男は、ハナの肩をぐいっと引っ張って、ディルの腕からハナを引き抜いた。

 「おい!!」

 「噂には聞いてたけど、ほんと〜に、デルはこの子に過保護なんだな。コホン。はじめまして。俺は王立図書館の主任を務める、ジョラム・バーネット。よろしくね。留学生は、よくうちの図書館を利用しているから、分からないことがあれば、いつでもおいで。」

 そう言うと、ジョラムは握手を求めて右手を差し出しながら、ハナにウインクを送ってきた。

 「!!」

 握手をしながら驚いてしまったハナは、ひと呼吸置いてから口を開いた。

 「ハナ・オレガ―です。殿下の紹介で、フィンネル王国に留学することが出来ました。よろしくお願いします。」

 素性を隠すために、名前を少し変えて名乗る。そして、留学に関しても、ディルの名前を出してしまえば、深い詮索はされにくい。軽く微笑んで、初めての自己紹介は、うまくいった・・・かのように思われたのだが・・・。

 「ん?」

 握手を離そうと思っても、ジョラムの手に力が入りなかなか離してくれない。 

「おい、ジョラム。」

「あの・・・?」

 隣でイライラしているディルをよそに、きょとんと上目遣いでジョラムを見上げるハナ。

「・・・ディル。」

「ああ??」

 この上なく不機嫌な声で返事をするディル。

「・・・この子、俺にちょうだい?」




 

 ・・・ディルの怒りの琴線に触れたジョラムが、その後どうなったのかはいうまでもない

 

 ハナの初めての留学生自己紹介は、前途多難に終わった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ