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黒ずきん姫とグリーンハウス  作者: 那実いずみ
第二章 「来客」
22/30

パーティーの夜①



 「わあ・・・。」

 

 ハナは思わず声を上げた。

 それもそのはず。

 アルカと一緒に入った大広間は、ハナの国のお城の、どの部屋よりもきらびやかで、思わず入り口で立ち止まってしまった。

 


 大広間は、庭のテラスとつながっていて、とても開放的だ。

 天井からこぼれ落ちそうなほどに輝くシャンデリアがいくつも垂れ下がっている。大理石の床はピカピカに磨き上げられていて、シャンデリアの明かりを反射している。思わず目を細めてしまうほどに眩しい。

 数えきれないほどの着飾った人達が、にこやかに談笑していたり、ワインや軽食を口にしたりしている。

 いつもハナが自分の部屋から見ていたパーティーも、こんなに豪華なものはなかった。


 『こんな場所に来てもよいのだろうか・・・』

 慣れない空間に、ハナは少し足がすくみ、突如不安が襲う。

 そんなハナを察してか、アルカがそっとハナの背中に手を当てながら声をかけた。

 「ハナ、大丈夫です。」

 そこには、アルカの優しい笑顔があった。



 本人は全く気づいていないのだが、会場に入った時に、ハナは多くの視線を集めていた。

 シャンパンゴールドのドレスは、派手すぎずハナの上品な雰囲気を醸し出している。繊細な刺繍が施されていて、その仕事が一流なのは一目瞭然。開いた胸元も、下品さが感じられない、計算された作りだ。ハナの内側に秘められた気品さと、愛らしさ、そしてハーフアップに結われているマロンブラウンの髪と、チョコレートブラウンの瞳を魅惑的に見せているのだが、本人は知る由もない。


 

 「アルカ、・・・殿下にご挨拶した方がいいかしら?」

 周囲がハナに熱い視線を送っていることも本人はつゆ知らず、小さな声でアルカに声をかけた。

 「・・・そうですね・・・。本来なら必要かもしれませんが、今回はいらないと思います。」

 「???」

 首を傾げるハナ。

 「そのうち、向こうから来ますから。きっと。」

 「・・・?」



 アルカは心の中で、ディルに向かってため息をついた。

 もともと、フィンネルで開かれるであろうパーティーの為に、ハナはいくつかのドレスを持ってきていた。そのうちの一着を今日は着ることになっていたのだ。けれど、ハナに用意されていたのは、持ってきたものとは違うドレス。

 そう、この国で男性が恋人や愛しい人へ送るドレスだったのだから。


 フィンネル王国は、男性が自分の髪の色のドレスを恋人や愛しい女性へ送る習慣がある。それを着るか着ないかは、女性が決めるのだ。もちろん送ったドレスを着れば「脈あり」。着ていなければ、「ごめんなさい」というわけだ。


 ディルの金色に近い、色素の薄い茶色は、光の加減でシャンパンゴールドに輝いて見える。ぱっと見ただけでは分からないが、このドレスはディルから送られたもので、アクセサリーや小物に至るまで、全てディルが手配したことは容易に察せられた。

 今回は、周囲に「自分の大切な客人」というのを知らしめるためのものだろう。

 ・・・過保護になる気持ちも分かるが、ここまでとは。

 ハナ本人が気づいていないのが、おもしろいけど。



 そんなことを考えながら、アルカがフと笑みをこぼした時だった。 

 

 ハナは自分たちの前に誰かが立っているのに気がついた。

 シャンデリアの光が逆光となり、すぐにはその人物を把握できない。

 「ハナ、やっぱり向こうから来ました。・・・早すぎるわよ。」

 アルカがその人物にそっと声をかけた。

 

 「ようこそ、我がフィンネルへ。」

 そう言ってハナの手を取り、手の甲にキスをしたのは、この国の王、ディルだった。

 ハナはびっくりして手を引っ込めた。

 「・・・アルカにも、する?」

 そう言ってディルはアルカの方に顔を向けた。

 「・・・ご機嫌麗しゅうございます。殿下。」

 ディルに返事を返す前に、アルカはささっと「王」に向かってあいさつをしてしまった。

 その様子を見て、ハナは自分もあいさつを忘れていたことに気づき、さっと膝を折ってスカートをつまんだ。

 

 王様自ら入り口まで来て出迎えた2人だ。広間は先ほどまでハナに送られた視線よりも多くの視線が、ハナたちに注がれている。

 聞こえないよう声のトーンを落とし、笑顔を保ったまま、アルカは口を開いた。

 「ディル、私が用意したドレスはどうしたのかしら?」

 「この方が似合っている。」

 ディルも美しいほどの笑顔だ。

 離れて見れば、穏やかな談笑に見えるのだが、ハナは2人を取り巻くオーラに焦りを感じていた。

 「勝手なことをされては困るわ。」

 「迷惑はかけていない。サイズはぴったりなはずだ。」

 主張が横一線の2人。何がなんだか分からないハナは、おろおろするしかなかった。

 「2人とも、ハナが困ってるよ?」

 助け舟を出してくれたのは、静かに歩いてきたラムズ。

 「わお!2人とも、きれいだね。似合ってるよ?」

 そう言って、ラムズはハナとアルカに笑顔を向けた。

 「社交辞令だと分かっていても、お礼は言っとくわね。それより、なんでこんなに早くに見つかっちゃうのよ?」

 「だって、ずーーーーーーっとハナを待っていたから、入り口にちらっと見えた瞬間、玉座を飛び降りてたんだよ?」

 「・・・王様って、それいいの?」

 「残された俺の後処理が、大変でした。」

 「それがラムズの仕事だろ。」

 「えっ?違うと思うけどなーーー。」

 3人はそう言いながら、相変わらずの笑顔を貼付けている。

 どんどん進む会話を頭上で流しながら、ハナは頬を赤くしてうつむいていた。

 「ん?ハナ?どうした?」

 ハナの様子に気付き、ディルは声をかけた。

 ハナの頬はまだ少し赤くなっている。

 「ハナ?顔が赤くなっています!」

 「えっ?だっ大丈夫??」

 そう言って顔を覗き込む3人に、ハナはますます顔を赤くしてしまった。

 「ちっ違います。大丈夫です。」

 「何があったか、ちゃんと言って。」

 ディルが、優しいまなざしでハナに声をかける。

 その深い青い瞳に、吸い込まれそうになり、ハナは正直に話した。

 


 「社交辞令って分かっているけど、男性から『似合ってる』って言われたのが、初めてだったので・・・。」

 ハナの恥ずかしがる小さな声で、固まる3人。


 

 ・・・。

 笑いがこらえきれず、小刻みに震え出すアルカ。

 凍り付いた笑顔を貼付け、隣を見れないラムズ。 

 今にも殺しかねない視線を、ラムズに向けるディル。

 

 「・・・ディル、こっちはなんとかしとくから、ハナとテラスに行ってきたら?」

 冷や汗を浮かべた笑顔で、ラムズが提案する。

 「えっ?えっ?」

 状況が飲み込めないハナは、3人の顔を見渡すばかりだ。

 そんなハナの手を引っ張って、ディルは足早にテラスへと消えていった。




 「・・・マジで殺されるかと思った。いや〜危険だね〜。」

 「いやいや、あなたの提案の方が、私は危険だと思うけど。」

 


 そこでラムズは『しまった!』と、口元を押さえた。

 時間を見て、テラスへ迎えにいこうと決めた2人なのであった。


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