読めない思惑⑥
「げ。感情がない笑顔って、すごいね。」
ラムズは玉座に座って、次々にあいさつを交わしていくディルに、小さく声をかけた。
「うるさい。」
社交用の笑顔を貼付けたまま、ラムズに反撃をする。
「あとね、ハナを待っているのはいいんだけど、そわそわし過ぎ。」
「う・・・。」
言い当てられ、思わず声を漏らしてしまった。それを見落とさないラムズは、いたずらな笑みを返して来る。ディルは、それには無視をすることにした。
パーティーは、宰相のバーベナがうまく準備を整えてくれた。無表情で固い男だが、頭が切れて人望が厚い。今回も急ではあったが、留学生やら貴族やらにうまく声をかけ、交流パーティーということに仕立てたのもバーベナだ。ハナを紹介しつつも、うまく隠せる、何ともいいアイデアだ。
あちらの国を発ってから、ディルはずっと考えていることがあった。
向こうの王の思惑が読めない。
なぜ、ハナをこんなにも隠すのか。
どうしてハナが出かけるところを見られたくなかったのか。
アルカの報告からすると『一族の恥』意外に、何か執着しているものがあるように感じられる。
ハナには黙っているが、今回の作戦の手紙には、自分のハナに対する想いを記してあった。
そう、『ハナをフィンネル王妃として、迎え入れたい』と。
これは向こうにとっても悪い話しじゃないはずだ。
ハナの姉が色々と厄介だが、知ったことじゃない。
だが、向こうはディルが思っていたのとは違う行動に出たのだ。
『ありがたいお申し出ではございますが、ハナは本国ですでに決められている道がございます。』
そんなのは初耳だ。後から話したらアルカすら知らなかったのだから。
おまけに、
『本国の王族をフィンネル王国の王妃にというお申し出は、非常にありがたいお言葉。ハナの姉のソレルを、ぜひ、あなた様の妃にいかがでしょうか。』
ときたもんだ。
丁重にお断りをしつつも『ハナを諦めた訳じゃない』と、しっかり捨て台詞を残してきてやった。
アルカが戻ってきた分、あちらの国の様子は、頻繁には入ってこなくなる。
今後の動きをよく見なければ・・・。
こちらでも、伏線を張っておく必要がある。
相変わらずの笑顔を貼付けながら、広間の入り口に、ハナの姿が見えるのを待つ。
次々とやって来る貴族の連中たちにお決まりのあいさつを交わしながら、ディルは今後の動きについて、考えをめぐらせるのだった。