読めない思惑⑤
「よく考えたら・・・、二日連続のパーティーですね?」
きれいに着飾ったアルカが、少し頬を紅潮させて言った。
ロイヤルブルーのドレスがアルカの大人びた雰囲気にとてもよく合っている。
胸元に光るダイヤのネックレスは、まるで夜空に輝く星のように胸元に輝き、アルカをより一層美しい女性に仕立てている。髪はゆるくまとめられていて、漆黒の美しさを生かすように、小さなダイヤのヘアアクセが飾られている。
アルカのこういう姿を見るのは初めてだ。
ハナは思わず見とれてしまった。
「アルカ・・・とても似合っているわ。きれい・・・。」
突然の言葉に、アルカは驚いたようで、頬を赤く染める。
「な、なんですか、急に!・・・あ、ありがとうございます。」
『そうやって、照れても正直に気持ちを表してくれるところ、アルカらしいな・・・』
本当は、美しく着飾ったアルカを見て、自分の知らないアルカを見ているようで、淋しい気持ちを感じていた。
この国では、アルカはやはり上位の貴族階級なのだろう。グリーンハウスを出てから、たくさんの人とあいさつを交わしていた。その優雅な佇まいは、自分がお城で見てきたアルカよりも、一層洗礼されていると思った。
『ああ、アルカは、本当はこっちの世界が合っているんだ・・・』
そう思うと同時に、これまでの長い間、自分に付き合ってもらっていたことに申し訳なさも湧いてきた。
『これからは、アルカはアルカの道を進まなければいけないわ・・・。一緒にいたいなんて言ってしまったけど、頼ってばかりはだめ。』
ハナは強く自分にそう言い聞かせたのだった。
あの後は自分の部屋に案内され、部屋付きの侍女に一通りの説明を受けた後は、既に用意されていたドレスを身に着けた。
今は、一度家に帰ったアルカと合流し、パーティーへと向かっている。向かっている、といっても、ハナの部屋はお城の敷地内に用意してもらっているため、広間への廊下を歩いているだけだ。
「ハナ様・・・さん?・・・うーーーん。やっぱり呼び慣れません。」
「ん?何が?」
「私には、『ハナ様』と呼ぶのが慣れているので、ディルが言うように『様』を外すなんて、しばらく無理そうです。」
「うん・・・いろいろとごめんね?」
「あっいえ、ハナ様のせいじゃないんですよ!?」
「・・・『ハナ様』?」
「あ!!・・・やっぱり無理です。」
「ふふっ。せっかくきれいな姿なのに、そんな顔はもったいないわ。」
そう。ハナを『様』や『姫』を外して呼ぶように指示を出したのは、ディルだ。あの謁見の間にいた人には、既に周知されているらしい。「ディルの友人の留学生」となっているハナの身分を気づかせない為なんだそうだ。ここまで細かく気にかけてくれるなんて、ありがたいを通り越して、申し訳ない気持ちになってくる。
「ところで、ハ・・・ハナ?」
もう少しで広間に到着するという時、アルカは思い出したように声をかけた。
呼び慣れずに少しかんでしまっている。
「なに?」
「そのドレスって、どうされました?」
ん?ドレス??
「えっと、部屋に入ったら、用意されていたわよ?」
「じゃあ、その髪飾りやネックレスや靴やらは?」
「??全部そろっていたわ。」
なになになに?
部屋付きの侍女も手伝ってくれたのだから、なにも気にしなかったけど、もしかして、着ちゃいけなかった!?と慌てふためく。
「はあーーーーーー。」
ハナの言葉を聞くと、アルカは盛大なため息をついた。
「ハナ、今日はディルにご注意ください。あ、今日だけじゃなくていつも注意した方が良さそうですが・・・。全く、勝手なことしてくれちゃって!!」
そう言って、アルカはもう一度ハナの頭のてっぺんから足の先まで目を移した。きれいなアルカに見られると、まるで自分が石にでもなったかのように体がピッと固くなる。
「ハナ、と〜〜ってもお似合いです。お似合いすぎますから、いろいろご注意くださいね?困ったことがあれば、私かラムズに声をかけてください。もし、ディルに言った方が良さそうならば、ディルでもかまいませんからね?」
顔の前に人差し指をたてて、ずいっとハナの方に寄りながら話すアルカからは、押されそうな勢いがある。
「わわわかったわ。」
アルカが何に対して言っているのかよくわからないが、とりあえず返事をした。
「でもね、アルカ。私、今日はあまり長居はしないつもりよ?こういうのは初めてだから・・・。」
ハナは自国ではこのようなパーティーは出たことがない。だから、パーティーは初めてと言ってもいいくらいなのだ。少し顔を出したら帰ろうと思っていた。
それを聞いたアルカは、眉間にしわを寄せながら、
「ハナ、私もそれがベストだと思うのですが、出来そうにないので・・・。とにかく、くれぐれもお気をつけ下さい。」
そう言って、体をもとの体制に戻した。
『どういう意味だろう?』
首を傾げるハナに、優しく微笑んだアルカは
「さ、行きましょう。」
と、まばゆく輝く広間へと足を進めた。