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黒ずきん姫とグリーンハウス  作者: 那実いずみ
第一章 企てられた「侵略」
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黒ずきんの姫

「え!?今なんて言ったの?」


 温室でハーブに水をやっていたハナは、水差しを落としそうになった。


 いつものように温室にいたハナに、王の間へ来るよう声がかかったのである。



 「ハナ様、今の国の状況を考えると、ハナ様に集合の声がかかるのは、当然かと・・・。とにかく、急ぐようにとのことです。」

 侍女のアルカがハナに、黒い布をかぶせながら言った。

 「私に声がかかるなんて・・・そんなこと一度もなかったのに。」

ハナはいつものように、なんの抵抗もなく黒い布をかぶり、ため息まじりにつぶやいた。

 「それだけ非常事態ということなのですよ。」


 ハナはこの国、モンバーム王国の末の姫。

非常事態なのだとしたら、声がかかるのは当然だ。


しかし、自分も行って良いのかと、ハナは不安と動揺を隠せなかった。



自分は「隔離」されているも同然なのだから・・・。



 「ハナ様、お急ぎください。」

 そんなハナの様子を見た侍女のアルカは『くれぐれも周囲を気にしないように』と、念を押した。「私も後から行きますから」と付け足すと、ハナの背中を押して、王の間へ送り出した。



 モンバーム王国は、みな誰もが美しい黒髪と漆黒の瞳をしている。美しい黒髪が、美男美女の条件といっても過言ではない。そのエキゾチックな容姿は、周辺の国家に一目を置かれている。

この国独特の、白い長めのふわりとした洋服に、鮮やかな色の帯や、きれいな天然石の装飾品を身につける民族衣装がエキゾチックな容姿にとてもよく合っていて、さらに美しさを引き立たせていた。

事実、この国の王族や貴族の娘には、近隣国家の貴族からの婚姻の話が、耐えることがないらしい。


ところが、この国の末の姫、ハナだけは、その風貌が異なる。


光を反射する、きれいなマロンブラウンの髪。チョコレートのような深い茶色の瞳。色の白い肌に、その髪と瞳はとても美しかった。


 けれど、この国ではハナの容姿を受け入れてくれる人はひとりもいなかった。


父も、幼くして亡くした母も、兄も、姉も。みんな黒髪に漆黒の瞳なのに、なぜハナだけは異なるのか。それは、誰にも分からなかったが、一国の頂点である王族に、このような人物がいることを国としても、隠しておく必要があった。


大人たちはハナがものごころつく前から、人前に出る時には黒い布をかぶるようにさせた。

 マロンブラウンの髪と、チョコレートブラウンの瞳を隠すために。


 そして、城の者はみな、ハナを忌まわしい存在として扱ったのだ。

 

 「一族の恥」として。









 王の間には、すでに、城内のたくさんの人が集まっていた。ガヤガヤと不安な表情で話す声が聞こえる。


 ハナがひっそりと室内に入ると、それを目ざとく見つけた人達から、一斉に目を向けられる。


軽蔑するような視線。

 それに続いて聞こえてくる言葉。


 「ほら、『一族の・・・・』」


思わず、きゅっと下を向く。


 『やっぱり、この感じ、慣れないな・・・』


 想像していた通りの視線と、ひそひそと自分のことを話す声が、ハナの回りを取り巻いた。


 突き刺さる視線と、聞こえてくる言葉にハナは小さく震えながら、部屋からかぶってきた黒い布を、さらに目深にかぶり、自分の顔や髪が回りの人に見えないようにした。


震える手で黒い布をギュッと握り、目を固くつむりながら・・・。




「全員、集まっておるか!?」


 ハナの入室でガヤガヤしていた室内に、王の声が響いた。その声は、一気に静寂をもたらした。


王は、ざわめきが静まったのを確認すると、続けて口を開いた。


 「今、この城内は混乱の中にある。隣国フィンネル王国による攻撃については、みなの耳にも届いているであろう。城下町は既に包囲された。国民の中には、捕虜として捉えられた者もいるようだ。」


一呼吸おき、王は続けた。


「フィンネル王国は、非常に友好関係にある国だ。信じられないというのが、本音であるが・・・。とにかく、わが王国は小さい。隣国フィンネル王国とは、あまりにも規模が違いすぎる。ここは無駄な争いをせず、抵抗する意志がないことを伝えようと思っている。」

王である、父の言葉は、よどみなく部屋に響いた。


 

 フィンネル王国は、物資の貿易も盛んに行われていて、交換留学制度なんかも充実しているくらい、友好関係にある国だ。

あちらの王族が、自らこの城に何回も来る程、公にも、プラーベートも、親しい関係だと聞いたことがある。



それなのに、なぜ・・・?



 この状況が信じられないのは、王だけではなく、ここにいる誰もが同じであろう。

 王の言葉が終わると、一斉にざわめき始めた。



 みんなの視線が、自分に向いていないことを確かめてから、ハナはそっと回りを見渡した。


 白い大理石の壁に、深紅のベルベットのカーテン。高い天井からは金色に輝くシャンデリアが、いくつもいくつも輝いていて、この部屋は「光で満ちている」という言葉がぴったりのように感じられた。

普段入ることなどできない王の間は、その名の通り、一国の王にふさわしい、重厚感にあふれる場所であった。


 奥の方は、宰相、大臣などの、身分の高い人達から順に並んでいて、頭を垂れながら王の話を聞いていた。

ここには何千という人が集まっている。そう、この城のほぼ全てがいるだろう。

 


 遠くに見える玉座には、王がいた。側には、皇子と姫。つまりは兄と姉。

隔離されているハナにとっては、久々に見かける3人だ。


ハナの場所からは、3人の表情を見ることは出来ないが、国民を導くにふさわしい、自信と、気品にあふれていて、取り巻くオーラが違うことがよくわかる。

 


 あちら側をうらやましいと思うことはない。

 あの場所へ行きたいとも思わない。



 なんとも言えない感情が、もやのように自分の胸に漂うのを、ハナは感じた。





 

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