読めない思惑③
見渡す限り大理石が輝く「謁見の間」には、既にフィンネル王国の若き王が、2人を待っていた。
先回りをしていたラズムが、王の脇に控えている。その他に数名の官僚と見られる人達が、ハナとアルカを迎え入れた。
「ハナ・ツイーズ・オレガノ姫、ようこそ我が国へ。長旅ご苦労だった。」
低くよく通る声で、ディルはハナに声をかけた。
玉座に座っている彼は、この大国の王にふさわしい気品と、迫力と、威厳が溢れ出していた。さらに彼の美しさが人の心を奪うのは、容易に分かることだ。
少し伏す体勢で、ディルの話しを聞いていたハナは、
「いえ、馬車のおかげでとても快適でございました。殿下のお気遣いに感謝いたします。」
そう言うと、一層頭を下げた。
「そうか。アルカ・イム、あなたは8年という間、実に有意義に過ごせたのではないか?」
ハナは、伏した状態でディルの言葉に耳を傾けていた。
『・・・有意義?』
その言葉に、疑問を感じずにはいられなかった。
悶々と考えていたところに、隣にいたアルカは、驚くべき言葉を発したのだ。
「はい。一言では語り尽くせないほど、様々なことを学ばせていただきました。長きにわたり留学をさせて頂きましたこと、感謝申し上げます。」
ハナは思わずアルカの方に顔を向けた。
アルカは続けて口を開く。
「この度、勉学をご一緒させて頂いたハナ様が、フィンネルに留学されたということで、とても嬉しく思っております。」
『?・・・・・・・・留学?』
ハナが思わず声を出しそうになったとき。
それを遮るように、玉座から声が発せられた。
「では、2人からあちらでの国の様子でも、話してもらおうか。・・・お茶でも飲みながら、どうかな?」
「はい、ぜひ。」
アルカがすかさず返事を返す。
「よかった。ハナ姫はいかがかな?」
状況が飲み込めずそっと顔を上げたハナに、玉座に座るディルがウィンクを送ってきた。
慌てて下を向く。
「はっ・・・はい。おおおおお願いいたします!!!」
その様子を見て、ディルは優しく微笑みながら、指示を出していく。
「ラムズ、グリーンハウスにお茶の用意を。」
「御意。」
「バーベナ、今夜はハナ姫の歓迎パーティーを開こう。」
「分かりました。そのように手配いたします。」
バーベナと呼ばれた、短いひげを生やした男性は、手帳にメモをとる。
ディルは、その隣にいる、白衣を着て眼鏡をかけた男性に顔を向けた。
「リアンダー、姫は植物に興味があるそうだ。ぜひ今度、我が国の研究所を見せてあげてほしい。」
「それはそれは。ハナ姫様、私は植物研究所長のリアンダーと申します。本国自慢の研究所へ、ぜひお越し下さい。ご案内いたします。」
そう言って、リアンダーと名乗った研究所長はにこやかにあいさつをしてくる。
ハナは、何がなんだか分からず、軽いお辞儀をすることしか出来なかった。
「では、我々は行こう。」
ディルの一言で、この場が解散になった雰囲気が伝わる。
ハナとアルカは、ラムズに誘導されながら、謁見の間を後にした。