再会の夜⑥
ハナは思わず、両手で口を押さえ、固まった。
その様子を見て、ディルは優しく微笑む。
「思い出した?」
ハナは彼から、目をそらせずにいた。
「あの日は、前王にくっついてこの国に初めて来た時だった。うろうろしてたら迷っちゃってさ。この温室に人が入っていくのが見えたから、後を追ったんだ。」
そう言って、ハナの頬をいとおしそうになでた。びくっとハナの体が反応する。
「あの時から、ずっとハナのことが忘れられなかった・・・。」
一瞬、ディルの瞳に鋭い怒りが混じった。
そのあと、この国に何度来てもハナには会わせてもらえなかった。
いや、ハナに会えなかったんじゃない。ハナという存在を、この国は消していたのだ。
王や側近に『こんな女の子がいた』と、ハナの特徴を伝えても「黒髪が本国の特徴だ」と言われ、取り繕ってもらえなかった。ハナの部屋へ続く長い廊は、来るたびに兵士の監視下のもと、立ち入りを禁止される始末。
ハナの存在が分かったのは、8年前。ハナの姉からだった。ディルは、この容姿のおかげで、昔から好意を持った女性が寄ってきて後を絶たなかった。ハナの姉も、そのうちの一人だ。それを利用し、少しずつ口を割らせたのである。真実を知った時は、この国のハナに対する対応に、子どもながらに強い怒りを覚えたのを忘れられない。
ハナのことを聞いた時から、こっそり手を回して、アルカを侍女として送り込んだ。ラズムの従姉妹で、よく一緒に遊んでいたアルカは、フィンネル王国出身にも関わらず、偶然にもこの国の人と同じ、黒髪に漆黒の瞳だった。
アルカにすべての事情を話し、侍女になってほしいと頭を下げた。ラムズの従姉妹、つまりはアルカも貴族の娘である。断られるだろうと思ったっていたのだが、アルカは快く侍女の件を引き受けてくれた。それ以降、ハナのことは、全てアルカから報告が入るようになっていたのである。