再会の夜⑤
「わっ、すげーー!」
「へぇ、ここが噂の温室?」
アルカの迫力に押され、ディルとラムズは、ハナの部屋の前にある、温室に入った。
今の時期は、セージなどのハーブや、アネモネ、バラなどが見頃を迎えている。夜のこの時間帯は、月見草がきれいに咲き誇っていた。
「もちろんです!ハナ様がいつも大切に育ててらっしゃるのですから!!」
アルカは、まるで自分のことのように、この美しい温室を自慢した。それを聞くと、ディルとラムズは、同時にハナに顔を向ける。
「ハナ姫の温室のことは耳にしていたけど、こんなにすごいとは思わなかったよ!」
ラムズはハナに優しい笑顔を見せた。
その言葉と笑顔に、ハナは顔を真っ赤にする。
その様子を見ていたディルは、イライラを隠せない。
「ラムズ!ハナに近づくな!!」
と、ラムズに言葉をぶつけると、ハナの手を引っ張って、温室の奥へ向かった。
ハナはどうしていいか分からずに振り向くと、残されたふたりは、わざと聞こえるように、くすくす笑っていた。
この温室の中央には、小さな噴水がある。
その噴水の水が、円形の室内にまんべんなく行き渡るような設計になっていた。
今日は外の音楽が、水の流れる音と重なって聞こえる。
「ハナ・・・、覚えてる?」
ラムズとアルカが見えない所までやって来ると、ディルは足を止めた。
「俺たち、昔に一度だけ、ここで会ってるんだ。」
そう言って、ディルはハナの方へ向いた。
「えっ・・・?!会って・・・る?」
ハナは驚きを隠せなかった。今まで、隔離されていたと言っていいほどの場所で生活をしていた。城内では、限られた人にしかあったことがない。もちろん他国の王とは、一度も会ったことがないのだ。
「それって・・・本当に私でしょうか?・・・姉とか、他の貴族の女性とか・・・・。」
そう思うのは当然だ。ディルの言葉が信じられない。
けれど彼はまっすぐな視線を向けて、そっとハナのマロンブラウンの髪に触れた。
「やっぱり、ハナは布なんてかぶらなくていいよ。」
いとおしい人を見るようにディルはそっと目を細め、ハナの髪を一房手に取りとった。そして、ゆっくりと自分の唇を重ねた。その動きがあまりにも優雅で、ハナはじっと見入ってしまった。
「・・・もったいない。」
彼の言葉を聞いて、ハッとする。
霞がかる遠い記憶の中で、何度も、何度も、その一瞬を思い出してきた。
『はずしなよ!もったいない!!』
この温室で、育て始めたハーブの様子を見にきた時。
それは、自分と同じくらいの男の子だった。
もう、二度と彼には会えないと思っていたのに・・・
・・・・・・・・・まさか・・・。