再会の夜③
ドアが開くと、あの美しく整った顔立ちの男性が立っていた。
1つに結われた髪は、夜の廊下にもまぶしいほどだ。紺の布地に金の刺繍が細かくされた上着は、自国のものとは違って、ハナがさらに彼から異国の雰囲気を感じるのに充分だった。そのきらびやかな服は、整った顔立ちにとても似合っていて、彼の気品あふれる空気をさらに際立たせていた。深く青い瞳に、そのまま閉じ込められてしまいそうな魅力を感じる。
驚いた表情で見つめていたハナ。そんなハナと目が合うと、彼はふいと顔をそらせた。
その様子に、我に返ったハナは慌てて言った。
「もっ申し訳ございません!今、黒い布を・・・っ!」
けれど、その言葉は最後まで言うことが出来なかった。
「会いたかった・・・。」
耳元で、ささやかれる優しい声。その声が、少しかすれていたので、ハナは聞き間違いかと思ったほどだった。
そう、次の瞬間には、ディルの腕の中に、抱きしめられていたのだから・・・。
「あ・・・あのっ。」
言葉が出ない。
あまりにも突然のことで、何が起こっているのかも分からない。
頭が真っ白なハナをよそに、抱きしめる腕に、少し力が加わった。
「もっと、早くに迎えにきたかった。ごめん。」
甘くささやかれる息が、耳にあたってくすぐったい。ハナは、自分の顔が一気に顔が赤くなるのが分かった。
腕の力が緩んだか思うと、ディルはハナの顔を覗き込みながら、優しく頬に触れた。どんな人でも魅了してしまいそうなほどの、優しい微笑みが浮かべられている。ハナは一層顔を赤くし、思わず伏してしまった。
「で・・・殿下、・・・あの・・・」
ハナは、消え入りそうな声を精一杯出した。すると、唇に優しく、人差し指が触れた。びっくりして顔を上げる。
「ディル。」
「・・・・えっ?」
「ディルって呼んで?」
「・・・・えっ?えっ?」
「だから、ディルって呼ばないと、キスするよ?」
「・・・えっ?えっ?・・・キっ!?!?」
想像もしてなかった言葉にびっくりしていると、ディルは少しかがんで目線をハナに合わせてきた。上目づかいのいたずらな笑みを浮かべている。
「ほら、どうぞ。」
「・・・よっ呼べません!!フィンネル王国の王様に、そんな・・・。」
ハナは両手で口を隠し、真っ赤になりながら言った。
けれど、深い青い瞳が意地悪に光りながら、ハナを捕らえて離さない。
「ハナ・・・」
甘い声でささやかれる。
その声に、その視線に、逃れることなど出来ない。ハナは目を閉じて、口を隠したまま、真っ赤になるしか出来なかった。
「俺にしか聞こえない声でいいから・・・言って。」
もう、何がなんだか分からなくなる。
「・・・っ・・・ディっ・・・」
真っ赤になりながら、小さく口を開いた時だった。
「ハナさまーーーーーー!!」
「ディーーールーーーーーーー!!」
ふたりを同時に呼ぶ声が聞こえた。
「ちっ、きやがったか・・・。」
ディルは、「はーーー」と深いため息をつきながら、残念そうにそう言うと
「ま、ハナがかわいかったから、いいか。」
と、ハナの頬にキスをした。
「「「 !!!!!! 」」」
ふたりを呼んだ人物が、同時に固まる。
ハナも、両手で口を隠したまま、固まることしかできなかった。