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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
マーグ大陸統一記
7/38

アンリアルVSアークス

 帰って来なかった斥候のうち一名は、一命を取り留めていた。

 手足を氷で拘束され動きを封じられているが、捕えた二人に殺す意志はない。

「どうやら能力を持っていない普通の人だ」

 黒い髪の青年は、アグジスなどインヴェーダの集団と比べると顔つきは精悍で、真心が感ぜられた。

 名はアークスという。マントの下が全裸であること以外は至って真面目な優しい好青年である。

 全裸に理由はない。彼はそういう格好が好きな、言ってしまえば変態なのかもしれない。

 と、そこで白髪の女性が男を見ながらアークスに言う。

「普通の人がこのリドックに来ているということは、やっぱり帝国の人間?」

「だろうな。ソワルはこのことをみんなに伝えてくれ。俺は様子を見てくる」

 ソワルと呼ばれた女性が氷を使う能力者である。この二人はアナザーでありながらサイガードでもインヴェーダでもない。

「危険よ、いくらあなたでも帝国の軍勢相手に一人じゃ」

「やばいと思ったらすぐ逃げるよ。偵察だ、偵察」

 にこっと笑いながら、アークスは水色のオーラを体中からだし、それを利用して浮かび上がった。

「ああもう、勝手にしなさい!」

 空を飛ぶアークスに吐き捨て、仕方なくソワルは拘束した男を連れて、プライムリザルツの本拠である洞穴に向かった。



 一方、インヴェーダの手にかからずして命を失った斥候もいた。

 殺された理由はインヴェーダに殺された者同様、視認された後、急に逃げ出した怪しげな存在だったため、とりあえず殺そうという浅薄なものだ。

 と、理由は等しいがその人はインヴェーダではなくなんとサイガードに属していた。

 美しい顔は近くで見ると隈と汚れが目立ち、豪奢なドレスも良く見れば汚れが滲みところどころ破けている、育ちが良さそうに見えて楽な暮らしはしていない女性であった。

 頭の両端でまとめた長い青髪も同様にほつれ汚れてしまっていて清潔な印象はない。

 自分が殺した者を恨めしそうに見つめながら、アンリアルは呟く。

「どうしてだ、無能力者なんて、なんでここに……」

 字面だけなら後悔と悲哀であるが、彼女はそれほど優しくはない。

「無能力者、やっぱり、嬉しい。帝国の屑どもに復讐が出来たんだ……」

 サイガードで誰よりも男らしいと陰口を叩かれるアンリアルの顔は狂喜で歪み、湧き出る殺人衝動を収めるべく縦横無尽に森をかけた。

 そして、空を飛ぶアークスが目に入った。


 戦いは突然始まった。

 下から物凄い勢いで何かが飛んでくるのが目に入ったアークスはその場で停止し、それを見た。

 ただの石であり、交わしたところまだまだ遠く空へ飛んでいった。

「避けてんじゃねえぞぉこら!」

 声がするほうを見るとまた石が投げられたが、今度は能力のオーラで弾いた。

「何者だ!?」

「そりゃこっちの台詞……」

 喋り方は粗雑で声も低いが女性。それにしては投石の威力が高すぎた。

 アナザーであることに間違いはないが、石を射出するだけの能力かどうかが問題である。

 言葉を止めたアンリアルはしばらくアークスを凝視した後、思い出したように叫んだ。

「いや覚えてるぜぇ、終わった組織のアークス・フット! テメェがアークスか!」

「生憎だが、俺は君を知らない」

 空中で悠々とアークスが言うが、それが気に食わないらしくアンリアルはますます投石を続けた。

「降りてこいや! このへたれびびりアークスちゃんよぉ!」

 この場合アークスがびびりであったとして、無闇に近づかないのはやはり作戦としては当然であり、非難と言うより挑発に近いものである。

 しかしアークスという青年は冷静なものの見方ができる人間でありながら極度の負けず嫌いでもあり、それがいけなかった。

「初対面のお前が、そこまで言うか?」

 より多くのオーラを体に纏い、万全を期しつつアークスはその場へ降り立った。

「君は、サイガードっぽくないね。インヴェーダの人かい?」

 アンリアルは少しきょとんとした後、豪快に笑った。

「このサイガードのナンバー2、帝国貴族メトル家のアンリアル・メトルを捕まえてサイガードっぽくないとは、大した台詞だ」

 これにはアークスも驚いた。

「アンリアル……噂は聞いたことがあるが……」

 色々と思う節はあるのだ。アークスはプライムリザルツとして細々活動を続ける中、サイガードのエクシェルとは昔のよしみで情報交換程度は行っていた。完全に秘密行動なので部下に知られることはなかったが、狂暴と危険で誰にも負けない女がいるという話だけ聞いていた。

「エクシェルが君みたいなのを使うとは」

 インヴェーダにも勝る暴力と、インヴェーダにも劣る道徳心とも聞いていた。

「うるせえな。俺だってあんたの噂はかねがね聞いているぜ。今殺しあえて嬉しいよ」

 言いつつアンリアルは破れたドレスに忍ばせてある短刀を二本取り出すが、それにアークスは待ったをかけた。

「サイガードなら別に戦う理由はないんじゃないか? 今、このリドック半島に無能力者の軍勢が押し寄せている。僕らは君達サイガードにもインヴェーダにも敵対していないし、かといって同盟もしていない。帝国からこの地を守るだけでも手を組むっていうのは」

「うるせえうるせえ!! 強者と戦う、気にいらない奴は殺す、ただそれだけ!」

 アンリアルはまるでピンボールのように跳ね、周りの木々をバンパーにしてアークスに駆け寄り短刀を二本突き出した。

 右斜め上、かと思いきや左後方、アークスの視界から何度かその派手な姿が消えるほどアンリアルは巧みに動き、素早くもあった。

「けど無駄だ」

 オーラはアークスの全身を包んでいる。

 アークスのオーラは通常の圧力に加え『斥力』の性質がある。オーラから物質を寄せ付けない重力のような物を発生させることで、敵の攻撃をオーラにすら触れさせない。ましてやオーラを突きぬけアークス自身に当たることは当然ないのだ。

 真上からのアンリアルの強襲、ナイフはオーラによって弾き飛ばされ、強い斥力にアンリアルは右手を手痛く捻ってしまった。

「ぎぃっ!!」

 あらぬ方向に曲がった右手を一目見て、しかしアンリアルは追撃の機会を待つべく距離をとり、森の中に隠れた。

「無駄だ、アンリアル。戦いには相性があるし、アナザーとしての能力にも差はある。俺はクレムの側近としてずっと戦い続け今にも生きている戦士。お前の動きもなかなかのものだが俺の前には通じないな」

 姿は木に隠れているが、アンリアルの悲痛な叫び声が聞こえる。

「うるせえうるせえうるせえってんだ! 澄ましやがってチクショウ……」

 それきり沈黙が始まり、しかしアンリアルの激しい殺気が残っている為アークスは周りに気を使い、決してオーラと斥力を止めぬように気配を尖らせた。

 まだ、アンリアルは諦めていない。

 しかし、時間を掛けた割りにアンリアルは意外にも真正面からかかってきた。

 折れ曲がった右手はだらんとぶら下げ、震える左手で勇猛にも短刀を持っている。

「やってやる、俺はやってやるぜ」

「無謀はやめろ。君の粗暴はエクシェルに黙ってやってもいい」

「これくらいの我を通せねえんじゃ何も適わねえんだよ!!」

 おろかなほどまっすぐアンリアルは突撃した。

 アークスは溜息をついて向き直りその姿勢を見た。

 左手を前に突き出しただ走る、一点の突き。

 だが、突如アークスの体がふわりと浮かび上がった。

「なんだっ!?」

 きひっ、とアンリアルが笑った。

 アークスの体は二メートル以上浮かび上がる。

 斥力とは反発する力、アークスはオーラを纏っていたものの斥力を足の裏には使わなかった。

 そのためアンリアルのまっすぐ伸びた腕がアークスを通り抜け、直後半月を描くように動いた腕が、その先のナイフがアークスの足の裏を捕えた。

「いっ……!!」

 即座に足裏からも斥力を発したが、傷は深くアークスは片足を引きずりながら歩くしかできない。

 全身のオーラから斥力を発すれば、アークスは空中を自由に移動できるので問題ないのだが。

 アークスが足の裏には斥力を使わない理由は、移動が不便だからだけではない。足の裏にまで使うと不安定になり立っていられなくなる、つまり能力の正体、オーラの性質がバレてしまうからである。

 おそらくアンリアルは一度目の失敗でオーラの性質を見抜いた上で足の裏には張っていないと予想し、なんらかの方法でアークスを浮かび上がらせそこを切ったのだろう。

 最大の弱点である足の裏への攻撃に何も対策しなかったのはアークスが楽観的で呑気であるからだが、問題はアンリアルの能力である。

 飛び跳ね動き回る敏捷性に加えて人を浮かびあがらせる能力。

 アークスにはすぐにわかった。

「まさか……重力か斥力を操作する能力、か?」

 同系統の能力、アンリアルがアークスの能力を見抜いた理由も説明できる。

 自分の能力で一体何が出来るか、能力を持った者なら常々時間をかけて考えなければならない。

 現にアンリアルも飛行を得意としたし、半月を描くアンリアルの斬撃の軌道をアークスはどこかで見たと思った。

 ともかく、アークスが核心をつくとアンリアルは急にしょぼくれて短刀を捨てた。

「もう……止めませんか、こんなこと」

「はい?」

 言っていることの意味がわからずつい聞き返したが、アンリアルは一層真摯に、鬼気迫る様子で訴える。

「やっぱり私達が争うことなんて無意味です! 今、リドック半島の中に帝国軍がいるということはクレムルームに何かあったということ、エクシェル様は無事でしょうか、心配です……」

 あまりの豹変振りに肝を抜かれたものの、すぐにアークスは意識を取り戻す。

「いやいや、自分の勝ち目がなくなったからってそういうのはずるいよ!」

 アークスにはもう一部の隙もない。足の裏にまで斥力を出し、まるでスライムに飲み込まれたかのような状況になっている。

 しかしアンリアルは、二重人格でもないのに清い心を見せかけて訴える。

「勝ち目とかそんなのじゃありません! エクシェル様も心配ですし、エヅは戦えないんです。私が助けてあげないと……」

 言うや否やアンリアルは自らの能力、自分含む近くの物質に斥力を発生させる能力を使いクレムルームに急ぎ戻った。

 オーラの飛行を使えばそれを追いかけることも可能であったが、アークスは元々去る者は追わない主義であり、あれほどの豹変した戦闘狂を相手にする自信もなかった。

 結局調査に出る事はやめ、ソワル達が待つ洞穴に戻る事にした。

急に新キャラ戦わせるってどうなんでしょう……

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