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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
防戦・ナーダ大陸!
35/38

七人の純忍 後編

 西ではアグジスの活躍により、無事黄忍をハナゾノ以外討伐し、帝国の手に戻した。

 純忍であるマジナイがシャクドのものと思われる言葉を鵜呑みにしたため、彼女自身戦意がないのでこれで西での争いはなくなった。

 同様に、はなから戦意のないトコヤミとエクシェルは一応戦わず、北でも争いは収まっている。

 また、南はマジナイの手紙のおかげで争いをなんとか免れた。

 無論、マジナイの手紙の信憑性などまるでなく、なんならマジナイが受け取った手紙も疑いようがいくらかあるのだが……。

 これら忍者のコードネームはハンゾ以外突如作られたものであり、シャクドも同様である。そのシャクドの名で手紙が来たのだから、信憑性があるとマジナイは見た。

 また、文章が両軍を引き入れるような巧みなものとなっており、『心を操る』彼女の能力の効果も少し混ぜられているため、かなりの決定権を持っている。

 さらに、朱のネッサがこずるい性格と話術を用いて二人の説得をした。

 面倒くさがりで負けず嫌いのアークスと、熱血馬鹿としかいいようのない赤のホムラ、話が合えば仲良くなるのはすぐであったという。

 南に向かっていたブドウとケイネ、西のアグジスとハナゾノなどもそれに目を通し同盟を結んだ。

 無論、それでも完全に心を許したわけではない。あくまで仕事上、ビジネスの関係とでも言うようなレベルである。

 そのうえ、中央、北、東には未だ手紙は届かない。

 東には実質誰もいないため関係ないが、中央には錯乱した青のウミに緑の忍者が二名、そして北には、沈黙を続けていた純忍、裏切り者を見つけたハンゾが足を進めている。



 結局の所、ウミの暴走は止まらなかった。

 帝国の要人すら殺傷し、それでもネクロワリーナは見つからない。

「ウミ殿、少し落ち着かれては……」

「なんだど貴様!? 貴様まで拙者を馬鹿に……」

 彼にはもう、敵味方の区別すらない。

 不意に水槍を出され、緑忍者は水の渦にねじ切られる。

 緑の忍者はついにブドウとナガイモだけになり、それでもウミは収まらない。

「誰も、誰も許さん!!」

 彼の暴虐は次の日まで続いた。


 一方、北は最も手紙が届くのが遅かった。

「いやぁ、エクシェルちゃんって言うんだ? いや本当に良い女だねぇ」

 既に日が昇るのではないか、と思うほどの時間、エクシェルも寝ぼけつつあった。

「あんたって本当に、うるさい。言ってることすぐに変わるし、もう……」

 と欠伸。

 そこに何者かが現れた。

 トコヤミはあっという間に酔いも眠気も醒め、エクシェルも即座に立ち上がった。

「白い忍者」

 そう言うと、ハンゾは答えた。

「イエス。ニンニン、ミーは白のハンゾ、シノビエンペラーでござる」

「しぇ、しぇー! エンペリャ様ぁ!?」

 トコヤミも即座に立ち上がろうとしたが、酔いのためふらふらと足元がおぼつかない。

「トコヤミ、拙者は伊達でお主を純忍にしたのではござらん。どうしてそれほど適当な行動がとれるのか……」

「しょんなこといってゃって、拙者本当に嫌でござってゃ。なんで頭領を六人七人も作るのん?」

「部隊を分けるのに小隊長を作るのは至極尋常のことでござる」

 なおも警戒を続けるエクシェルに、ハンゾが答えた。

「ああ、ガールはお気になさらず。ミーは裏切り者と役立たずを始末するものにて候。万が一みんながキルされた時にのみ、ユー達にペインを与えよう」

 ハンゾの言葉はこの遠征の隠された目的を物語っていた。

 野心が強い忍者達、クーデタによって成立した帝国、いまだ数々の実力者がいる。

 ハンゾはリーダーとして命令を下すが、それでも有力な者が虎視眈々と地位を狙うかもしれない。

 だからこそ、そういった者を純忍という一つ上の立場に就け、隔離された大陸で、真に忠誠を誓うかどうか測る必要があった。

 いわば、この遠征自体、この戦争自体、ハンゾがより良き国を作るための計画。

 よってハンゾは冷たい声で言った。

「トコヤミ、ユーがファースト裏切り者でござる」

「ま、タンマタンマ! 拙者が今からこやつらと戦うとしたら……」

「尋常に考えて手遅れ! 忍誅!!」

 瞬間、トコヤミの体がねじれ、吹き飛ぶ。

 距離にして数十メートル、一体何が起きたのかは間近にいたエクシェルにもわからない。

「それでは、ニンニン」

 そしてハンゾは去った。

 吹き飛んだトコヤミは自身の能力で延命していたし、エクシェルにも治療できたのだがそれは彼が知らないことである。

 程なくして、ハンゾはマジナイの手紙を読み、二人を再び呼び戻すことになる。


 もう兵士のいない東に手紙が届かずとも問題はなく、マジナイの能力は余すところなく発揮した。

 しかし、意見を変えない者もいた。

 攻めてきた忍者側の休戦の申し入れにも関わらず、帝都を機能停止に追い込まれたプライムユニオンの方が同盟には肯定的である。

 一方の忍者は本土の危機、すぐにでも争いを止め、船でも手配してもらわないと困る。

 いっそ全員でマーグ大陸を攻め落とし移住する、という意見もあるにはあったが、家族を残してきた者も多いのだ。

 ハンゾの想像以上に敵の抵抗が激しく、優秀な忍者の九割近くが殺されてしまったが、それでも純忍は本土のシャクドのみが死に、最強と呼ばれるハンゾとブドウは健在。

 幸い、ここから戦力をまとめなおすことは出来る。

 それでも、仲間の死や部下の死に厭世観が芽生えつつあった。

 ブドウもウミも、わずか数人で帝都を支配することに意味を殆ど感じていなかった。二人の反逆とも呼べる行為はそのためにあったのかもしれない。

 問題はその錯乱の方向、ブドウは結婚のため味方を裏切ることでその気を紛らわしたためマジナイの手紙によって結局は同盟派として二つの帝国の橋渡しにすらなりえた。

 だがウミは、不満を解消するための、虐殺にてストレスを発散してしまった。

 本来二人は元々裏切るような性格の持ち主ではなかった。

 この滅茶苦茶な戦況がそのように変えてしまったのだ。

 取り返しのつかなくなった状態、それに直面して無力感や厭世観を感じるように、彼らはそれより遥かに強い脱力を感じてしまったのだろう。

 仲間が殺され、黄緑のナガイモはウミを見つめた。

 見境なく捕虜も仲間も殺してしまうウミは、まさしく狂っていた。

 ブドウも帰らず、仲間もいない。本来なら放置して暴れさせて敵を倒させるのが筋だが、ナガイモはもうマジナイの手紙を読んでしまった。一刻も早く止めなくてはいけない。

「ウミ殿!」

 言葉に反応し、ウミはぎろりとナガイモを見た。

 まるでトコヤミの能力に操られているようだ、とナガイモは一人自分を納得させた。

『闇のオーラで人を操る』……説明が不十分なトコヤミの能力。それに操られた者は正気を失いトコヤミの操り人形になる。

 だがトコヤミのそれはほとんど嘘で、もっと汎用性があるものとナガイモは考えているが、今は別の話。

 ウミは常軌を逸した瞳と動きをしていた。失われた下半身の代わりに水で体を動かす様は、もはや人間にすら見えない。

「なんだ貴様ァ?」

「拙者のこともお忘れでござるか……」

 ナガイモが二本のクナイを取り出した瞬間、爆音が二度響いた。

 二丁拳銃のようにある二つの筒は、小型の大砲。

 シルテファシスは捕虜の一人であったが、幸運にも死を免れていた。

「ニッケルさんの仇だよ、なんて……」

 砲弾は設置型のものより小型で威力は小さいが、普通の人間に当てる分にはそれで充分。

 しかし青のウミは、普通の人間ではない。

 分厚い水の壁に加え、ウミはそれを渦潮のように超高速回転させていた。

 砲弾はピンボールが壁に沿って動くように、渦潮に巻き込まれる。

「水なんて……これでどうだ!?」

 何も考えないシルテファシスは数撃てば渦潮が破れるのではないかと次弾を発射する。

 計四発、渦潮の中に砲弾が飲み込まれた。

 そしてその三発が、回転の中からシルテファシスの方に跳んだ。

 二発はちょうど彼女の小型大砲を、一発はその小さな胸をとらえた。

 砲弾は、筒から発射された時よりも勢いを増し、めきめきと骨が押し潰れる音が聞こえた。

 噛み締めた口から血が漏れ、目が飛び出さんばかりにその光景を見つめていた。

 声を上げるもなくシルテファシスは倒れた。かませ犬としかいいようがないやられぶりである。

 尤もナガイモは彼女がどんな立場の存在か知らないため、変な奴が出てやられたとしか思わず、かませ犬としての役割すら果たしていない。

 強いて言うなら、改めてウミの能力の強さを知った。

 どうすればナガイモの能力『体中から溢れる白いドロドロした液体』で彼を倒すことができるのか。

 否、倒せない。

 ウミのように自由自在に操ることはできず、防御も攻撃もない。

 なぜこの場所に連れて来られたかというのも、高い統率力とほどほどの戦闘力。

 このような一対一の戦いではまるで勝ち目はない。

 それ以前にナガイモは、いまだウミが出した渦潮に囚われている一発の砲弾の対処法すら検討つかない。

 顔を合わせたまま、ナガイモは後退を始めた。

 敵わないのなら戦わなければ良い、それが最善最良の策。逃げる結果になろうとも、無駄死にに比べればマシである。

 だが、世にはどんな策でも敵わない相手がいる。

 それが逃げの策でも降伏の策でも。

 ウミは砲弾と共に無数の水槍を放った。

 自分に纏わせるように巨大な水の球体を作り、そこから放たれる水槍は数十を超える小さな剣のようで、意志が介せられていないようにも見えた。

 炸裂する水滴のように無作為な攻撃、ナガイモのクナイで弾ききれるものではない。しかし大砲の弾だけは確実に避けた。

 これ以上は限界、ナガイモがそう思った時である。

 またも大きな爆発音が響き、ウミが爆発した。

「……死んだ?」

 ネクロワリーナは、この町の中でずっと潜んでいたらしく、手紙に目も通していた。

 ウミはもう脳漿臓物肉片を残すばかりで、抵抗はできない。

「さ、サンキュー、助かったでござる」

「そう思うなら、私のために働きなさい」

 ネクロワリーナは当然のように言って、そしてナガイモを無視してどこかへ去った。

 それを茫然と、ナガイモは見つめていた。

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