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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
防戦・ナーダ大陸!
34/38

七人の純忍 中篇


 二人の人間が、二人の純忍の気を大きく鈍らせることとなった。

 一軒一軒投降を求め、ビッグシノビエンパイアの旗を掲げさせる作業に入った緑忍者達、根強い抵抗に遭い現在は三人になってしまったが、ブドウは少し大きなお屋敷に入った。

「ニンニン、誰かいるでござるか?」

 広い屋敷であるが、召使や従者の類は誰もいないらしく、しばらく時間が経ってから其の人が来た。

 深窓の令嬢と呼ぶには肉体は武術により洗練され、しかし軍人と言うにはその水色の短髪は美しすぎた。

「にんにん? なんだそれは? 貴様は誰だ?」

 訝しげな視線を送るケイネに、ブドウは心臓を鷲掴みにされたのだ。

「せ、拙者は緑のブドウと申すでござる! なんと可憐な……この出会いは尋常だったのかもしれないでござる……」

 貧乏貴族の元兵士にして、現在跡取り令嬢であるケイネには意味が全く分からない。

 だが、ニッケルから敵が来たという連絡は来ていたので何となく察した。

「広い土地も持たない下級貴族の元に、何をしに来た?」

 元帥だった頃は少し帝都から離れるがそれなりの領地を持っていたケイネのキューブ家であるが、後任のシューペルドが就くとすぐ皇帝のお膝元に置かれ領地を失った。

 シルテファシスなどがすぐ会えるように計らったものだが、彼女は誇りを少し傷つけられたとして快く思っていない。

 それは別の話で、今はブドウのことを快く思っていない。

 ブドウ達はウミと合流し、帝国の一つ一つの家に投降を求め、完全征服を目指しているのだ。

 おかしな手段であるが、小さな里ごとを生活単位としていたナーダ大陸ではそれが普通の手段なのだ。

「随分血で汚れているな。何人殺した?」

「拙者は純忍、色忍の頭領でござる。それを覚えることは尋常ではない」

「……同意する。私としたことが、馬鹿なことを聞いたものだ」

 くすっ、とケイネが笑うと、またまたブドウの心臓は射抜かれた。

「で、何をしに来たんだ?」

「せ、拙者は、拙者は……」

 ブドウは一瞬言葉に詰まったが、すぐに言った。

「貴女に、我らがエンパイアに下って欲しいでござる。この帝国は今まさに滅び、我らがビッグシノビエンパイアの指揮権に入るでござる」

「ふ・ざ・け・る・な、以上だ」

 きつく睨むケイネに挫けずブドウは言う。

「そうは言っても、既に帝都は墜ち、数々の宮廷も侵略したでござる! 今反攻すれば、その命、失うことに……」

「命を惜しむと思うか? 将のくせに矮小な脅し文句を使うのだな。底が知れるぞ?」

 今度こそブドウは言葉に詰まった、そして行動すら失われた。

「まだ此処にいるのか? 早く殺すか退散しろ」

「なるほど……」

 ブドウは様々な考えを巡らし、決めた。

「拙者、貴女を攫うでござる」

「なに?」

 ブドウはまたも尋常ならざる動きでケイネを捕えると、すぐに失神させ、言葉通りに攫った。


 帝都はわずか四人の忍者に支配されている。

 三人の緑忍者とウミであるが、実質は純忍の二人である。

 そのうち青のウミは帝都の城や宮殿などの重要な機関を潰しつつそこを捕虜収容所にして見張りなどをしている。

 そんな場所の一つ、旧クロムウェル家の大宮殿でとある事が起こった。

 城も近く、シルテファシスやゴラプスなど投降した元帥もこの場に集まっているのだが、特に縛られる様子もなく普通に集まっている。

 むしろ、場所がよく、それなりのメンバーも揃っているため、ちょっとした宴会場のようになっている。

 不用意に出歩くことは禁じられているが、実際禁を破り外に出ても忍者は彼らを再び捕まえるだけでなんらかの罰を与えることはない。

 それほどに忍者は人手不足なのだ。

 捕虜と呼ばれるが、実際はクロムウェル家の備蓄食料やワインなどを食しあう会場のようにすらなっていた。

 そのように放置しているのも、抵抗されないという予想の上で敵を舐め切った作戦であるが、今殺せるならいつでも殺せるという邪悪な考えの下での作戦でもあった。

 そのため、手痛い反撃に遭うなど微塵も考えていなかった。

 捕虜となった人を連れてきたウミが、再び夜の街へ繰り出そうという時だった。

「む?」

「ニンニン、ウミさん、ネクロワリーナです」

「ニンニン、青のウミでござる。それより、どうしてこのような場所に?」

 成人もしていなさそうな女性が礼儀正しく挨拶する様は奇妙であり、それが敵だとは誰も思わない。

 ネクロワリーナは何も言わず髪を梳きながら、突如腕を猛然と振り下ろした。

 暗い廊下で、ウミは何が起きたか分からなかったが、本能的にか、それとも戦士としての経験からか、水の防壁で身を守った。

 だが爆発した。

 廊下いっぱいに煙が立ち、衝撃はクロムウェル家宮殿を揺るがす。

 そしてウミは自分の脚が吹き飛んでいることに気付く。

 水を操って移動したり戦闘ができるため、常人の生活を送ることは出来る。

 だが、それ以上に許せないのは自身の不覚。

 不意討ち、暗殺、潜入を得意とする忍者が、敵の不意討ちで体を欠損したなど恥。

 それが純忍ならば尚更、最低の汚点である。

「ッこの女ァ!!」

 煙の中、既にネクロワリーナの姿はない。

「どこだァ!? どこに行きやがったァ!?」

 装束ははだけ、露になったその顔はもはや悪鬼としか言いようがない。

 滅茶苦茶に放たれた水の槍は、その場所から宮殿の外まで貫かれた。

 その途中で、プライムユニオンの捕虜になった重役たちを傷つけた。


 帝国を支配する四人の忍者、うち一人、青のウミは発狂した。

 更に、緑のブドウはたかが一人の下級貴族を攫い、正式に籍を入れるために南のナーダに戻ろうとまでしている。


 エクシェルが北端の港町クラークに着き、純忍黒のトコヤミもまたそこに辿り着いた。

「マジかぁ、女一人に皆やられたかぁ」

 敵を制圧し、既にお祭り気分の町の中で、漆黒の忍者の姿は皆を驚愕させた。

「あら、まだ生き残りがいたのね?」

「穏やかじゃないなぁ、俺、こういう女超嫌い」

 エクシェルは眉を顰めた。この忍者は言葉使いも態度もまるで今までと違う。やる気がなければ忠誠も誠実さもないような、無能そうな風体だった。

「やるの?」

 とエクシェルがオーラを滲ませ言うと。

「……やめとこっか?」

 トコヤミは首を回し、周りを確認した。味方が一人もいない。

「黒っぽい忍者って、何人ぐらい殺した?」

「覚えてないけど沢山よ」

「ふーん。じゃ、もういいや。今夜はゴチになります」

 堂々とトコヤミは市民から堂々とジョッキを奪い取ると、一杯煽った。

「ぶはぁ、上手い。本当に聞いてくれよ、俺さ、一晩ずっと能力使って飛びっ放しでさ、疲れて疲れて……」

 エクシェルは警戒し続けたが、挙句トコヤミは装束まで脱ぎ捨て自由に楽しんでいた。


 して、西。

 黄のマジナイはアグジスと出会う前に、その連絡を受け取ってしまった。

『紫のシャクド死亡、ビッグシノビエンパイア継続の危機、遺言によりて帝国と連携せしめよ』

「もう、もう、もう、もう……もぉぉぉぉぉぉぉうっ!!」

 誰もいない海沿いで、彼女は叫んだ。

「わっけわかんないんだけど!? あぁ!? ごらぁ!!」

 使役してきた鳥を散々に踏み潰し、鳴き声をあげ、血を吐き、泡を吐いても踏み続けた。

「なんなの? なんでシャクド死んでまうのん? シャクド死ぬくらいなら他の誰か死ねよ。くっそ、貴重な元帝国組なのに……死ねくそ、死ね死ね……」

 どれだけ一人で呪詛の言葉を吐いたところで、問題は解決しない。

 マジナイは手紙を書き、能力も付与し、ぶつくさ文句も含めたが、それを多数の鳥達にばら撒かせた。


 南へ向かうケイネを背負ったブドウが、たまたまソワルと出会った。

「あ、忍者。随分景気の良い体してるわね」

 血まみれの服装に、女を攫う様子はまさしく戦争を食い物にする屑の姿であった。

「む、ソワル殿! 気をつけて下さい、こいつは変人且つ狂人、しかし強い!」

「大丈夫、そんな奴の相手は散々してきたつもりよ? それにしても、前元帥に手をかけるなんて大した……本当に大それているわ」

 ソワルは溜息をつきつつ、氷を生成し始めた。

「ケイネ、そいつの能力は分かる?」

 氷は縦に長い一メートルほどの直方体が、それぞれの腕の前に一つずつ。

 攻撃、防御の両方に使える程度のそれを見てか、それともソワルの言葉を聞いてか、ブドウはケイネを担いだままソワルに突進した。

「ソワル殿っ! 恐らく身体強化かと!!」

 その動きを見れば分かる。ソワルは少し呆れながら、それでも驚異的なブドウの動きを見つめながら冷静に氷壁を作り出した。

 神には通用しなかった『絶対氷壁』、人間相手には破られた事はない。

 天を衝く氷壁が出現する前に、手持ち無沙汰になるであろう直方体の氷をブドウに放った。

 氷壁で見づらかったが、ブドウはそれをただ走りぶつかることで粉々に砕いた。

 巨大な氷壁が出現しソワルを守る……はずが壮絶な音を立ててヒビが入る。

 氷の壁といえど、あの猛烈な勢いでぶつかっては頭をかち割られて死ぬ。

 たとえ拳や蹴りで攻撃したとしても、これほどの衝撃があってただではすまない。

 それでもソワルは嫌な予感がした。地面を凍らせると同時に自身の靴の底に刃を出現させ、その切っ先を滑らせて後ろに移動する。いわゆるスケート靴である。

 後ろ向きに滑りながら氷壁の様子を見る。

 二度、三度、先ほどのような衝撃が走り、氷は崩れ始めた。

「あら、あらららららら……」

 言葉は柔らかいが、ソワルの顔は真っ青になってしまった。

 絶対の自信があって、一度作ったらアグジスのような能力がなければ相当な時間をかけないと消えないので、あんまり使うなとすら命令された技。

 神ならまだしも、敵軍の忍者にすら壊されてしまうとは。

 激しい土煙と冷気の白い空気で周りが見えない中、ソワルは再び直方体を二つ出現させ敵の出方を見た。

 煙が霧払いされた。

 ただ走るだけ、ブドウはその単純な動きで煙を払ったのだ。

「どのくらい持つかしら!?」

 敵がケイネを人質にするとしても、ソワルは手を抜く事をしなかった。

 むしろ崩れ落ちる絶対氷壁の中にケイネが無傷でいるのだから、相手は何かしら目的を持ってケイネを運んでいるとすらソワルには考えられた。

 だから、むしろ積極的にケイネを狙ってもよいとすら考えた。

 そうすればブドウは無理矢理にでもケイネを守ろうとして、傷を負うかもしれない。

 直方体の氷、それですらただ走るという運動で粉々に砕かれたので、先の鋭い円錐の氷を放った。それですら、ブドウの体には刺さらない。

「どんな化け物……よっ!」

 今度は、絶対氷壁クラスの超巨大な氷塊を落とした。

 モノリスのようなそれは、高層ビルが一つ空から落ちるのに等しい。

 さすがのブドウも足を止め、ケイネを地面に寝かせた。

 慈しむように、泣きつかれて寝た子供をベッドに転がすように、ケイネを労る。

 そして上を見た。

 巨大な氷塊を天に仰ぎながら、ブドウはケイネを跨ぎ、両拳を天に掲げた。

 そして放ったのは、拳、パンチ、ジャブ、掌底、殴打……言葉はなんでもいい。

 ただ巨大な氷塊に対し、右の手と左の手を交互に、高速で、打ち続けた。

 目にもとまらぬ速さ、目にも映らぬ速さ、感じ取る事ができないほどに速く、もはや速いとは何かと疑問視するような、夢を見ているのではないかと思うような光景。

 ソワルは目の前に神がいるのかと疑った。そして、あの神を名乗る者が実は人間だったのだという結論に至った。

 アナザーは化け物だ、などと言われては反抗してきたソワルも、今この状況においてはその言葉に賛同せざるを得ない。

 割れた氷から冷気が出て、その光景はどんどんと目に入らなくなっていく。

 ソワルは脱力し、ただ立っているだけになった。

 身体能力強化というのなら、怪我をしないのはどういうことか。

 怪我をしないほど強化されるのか、怪我を治すことまで強化に含まれるのか。

 考えをやめた。どちらにしろ、ソワルではあれには勝てない。

「アグジスくんか、アークスじゃないと……」

 あのタイプにはその二人しかない。たとえデッドマンが生きていたとしても、あくまで格闘術に従事する彼には絶対に勝てない。

 達磨落としのように氷が砕け散り、最後にはブドウが立っていた。

 既にケイネを背負い、こちらを睥睨していた。

「ニンニン、拙者は緑のブドウでござる」

「そう……」

 殺気を全身で感じながら、それでもソワルは逃げる手段を講じた。

 速度は凄まじいが、逃げと防御に徹すればどうとでもなる、そう考えた。

 それに、いかに無敵と思われるブドウでも人質を抱えている以上実力を出し切れない。

 直進するブドウに対し、ソワルは自分の足元から氷の柱を作り出した。

 細長い氷柱は頼りないが、ソワル一人を支えるにはちょうどよい。

 高度はかなりのものなのでブドウに折られて崩れては無事ではすまないだろう。

 だがソワルはその十メートルほどの高さから更に氷の長槍を生み出し、遠くブドウの向こう側の地面に突き刺し、それを伝った。

 氷は滑る、滑車を滑るようにソワルは滑って敵の上方を通り後ろに回ろうとしたのだ。

 そこでソワルは敵の位置を確認すべく後ろを見た。

 そこにはブドウがいた、高さは十メートルほどあるはずなのに。

 跳躍したのだ、十数メートル。

 そのままブドウは空中で、拳を槍に見立ててソワルの背中に突き刺し、腹まで貫いた。

 力をなくし、ソワルは血を吐くと同時に墜ちた。

「ニンニン」

 ただ一言残し、ブドウは再び走り去った。


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