七人の純忍 前編
「ダグラス閣下、そろそろ南に向かいましょう」
「その呼び方は……まあいいです。そうですね、あとはゴラプスさんに任せましょうか」
既に日は沈み始めている。夕方のうちに街一つ分進み早く全ての大陸を手中に収めなおした方がいいだろう。
様子から見て敵は少数、ここで全軍を割き続けるのは得策とは思えない。
兵の分散、出し惜しみは禁じ手となるほどの悪手であるが、このまま忍者を放置しておけば四方を囲まれた状態になってしまう。クレムルームなどの要塞まで敵の手に墜ちるなら、どっちみち破滅なのだ。
「それでは、ニッケル殿を呼びに行ってくれますか?」
「はっ!」
命令を受けた兵はすぐ馬を走らせ去っていく。
「ニンニン」
その後、緑の装束の忍者がダグラスの前に現れた。
「おや、こんにちは。随分余裕ですね、一人で、真正面から現れるとは」
ダグラスの周りには武器を持った兵が、銃兵も騎兵も歩兵もいる。
「拙者は緑のブドウ、一切の余裕はござらん。が、この場を制圧する程度なら可能」
そう言って走り出したブドウを止められる者は誰もいなかった。
どんな格闘技でも使わないような奇妙な回避であらゆる槍も銃も避け、目前に迫った腕より太いダグラスの槍をその細い腕で押し返す。
その姿は荒ぶる鬼神と言ってもいい。
ブドウはそのままダグラスの乗った馬の頭を握り潰し、暴れる馬から落馬したダグラスに襲い掛かった。
その間ブドウにいくらかの槍が当たったが、金属音はならないもののカイのように弾かれる。
「あなた、何なんですか?」
倒れた状態から、なんとか槍を握りなおしつつ、呑気な声でダグラスは尋ねた。
「緑のブドウ、ニンニン」
ブドウは指を伸ばし、五指をもってダグラスを鎧ごと貫いた。
胸を貫かれたダグラスは最期に共に落ちた槍で顔を攻撃したが、ブドウをのけぞらせるだけに過ぎなかった。
「ダグラスかっ……」
閣下、の一単語を言う暇すらブドウは与えない。
その場には血肉しか残らなかったという。
夜になった。
鳥で移動するトコヤミは、保護色のおかげで悠々と上空から帝都の様子を見た。
一切武器を使わずとも、ブドウは誰にも負けなかった。
(だからあいつ一人でいいって言ったのに)
北までの道は長い。
一方、黄のマジナイもようやく鳥を操って飛行して、今ようやく大陸に辿り着いたところである。
「ちっ、くそ死ぬかと思った……」
大きな海獣に襲われ漂流していた経験は、苦すぎる。
改めて。
「くっそ~くっそ~」
やり場のない怒りに震えながら、町の様子を窺った。
鎮まりかえった港街はどうやらいまだ戦火に当たらず最後の平和を満喫しているらしい。
奇しくもブドウとトコヤミが先に上陸した南の港、マジナイの目的地は西であるため、北西にもっと進まねばならない。
マジナイが一人ここを攻める、という選択肢はない。
女性であるマジナイの体術はただでさえ男性の者より劣り、更に能力のためぐうたらしていたマジナイは一際非力。
「また鳥でも捕まえるか……」
病んだような瞳を覗かせながら、マジナイは海沿いに西まで行く作戦を取ることにした。
そして、中央に戻る。
ブドウが帝国兵を倒し続ける。
「緑のブドウだな!? 一異兵にどれだけ皆恐れているのだ! 俺が力を見せてやる!」
ニッケルは銃を構え、ブドウにむける。
撃つ、が、弾丸はでこぴんで弾かれる。
「え?」
「そんな小さな鉄の塊で何が出来ると思ったでござるか?」
「いや、いやいや」
革命が失敗した程度では、ニッケルはアナザーの恐ろしさを学ぶことはできなかった。
「み、皆の衆! 一斉射撃!!」
周りの被害を恐れない滅茶苦茶な威圧射撃が始まるが、ブドウは防御の姿勢すらとらず悠々と歩いて近づく。
装束のみが少しだけ剥れたりするが、血の一滴も流さない。
「ほ、歩兵! 前に出ろ!」
銃兵に近づく敵を歩兵で守る、それが戦術の常識である。
であるが、銃弾を指で弾く相手にそれを命令するのは酷だろう。
(いやいやいやいや、マジか? マジなのか!? 銃弾を弾くってどんな化け物だよ!?)
どのような能力か、それすら分からない。
だが、ブドウは弾いた銃弾の一つを拾い上げ、同じくでこぴんの要領で弾いた。
手を撃たれ? ともかく弾丸は手を貫通しニッケルは銃を落とした。
そして気付いたことは、ブドウがただの馬鹿力の持ち主であるということだ。
「ぜ、全軍中央にまで一時撤退! 今この兵力ではまずい!!」
自分より南に居るダグラスは既にやられてしまったと、ニッケルは容易に想像した。
単純、ゆえに最強ということもあるのだ。人間離れした力を賢い人間が持っていてはそりゃ強い。その上、銃でも死なないのだからゴリラや熊よりも強靭ということだ。
ニッケル達は背を向けて走り出した。だが、大将首とは必ず討たれるものである。
全軍の指揮を任され、責任重大な彼は自分の保身を考えてばかりだった。
クビは勘弁、そんな風に考えていたニッケルのクビが敵に飛ばされるというのも、皮肉な話である。
既にニッケルも討たれ、命令系統は混乱、軍は滅びつつあった。
その上、アンリアル達を倒した青のウミまで合流。手のつけられない事態になってしまった。
アナザーは強い。それはアグジスやエクシェルが無傷無敗のまま忍者を倒すことと同様に、ブドウやウミも怪我の心配なく一般兵を虐殺できるのだ。
中央では無抵抗の人間が投降し、抵抗する兵は殺される。
北に向かおうとしていたシューペルドは、西に向かい、ウミに殺されたマクレガーを見た。
「マクレガー元帥!?」
どれほどの武勇と筋肉をもってしても、究極の柔とも呼べる水を操るウミには敵わない。
まして、アンリアルの下位互換といえる強弓を放つだけのシューペルドに何ができるのか。
マクレガーや新弓元帥のシューペルドは抵抗し殺され、他の元帥すら投降をするほど戦場は惨烈を極めた。




