アンリアルVS青のウミ
大陸全土に広がった戦乱のうち、一つが今終わろうとしている。
中央に向かうアンリアルとエヅはいまだレップウを殺した街でこれからどうすべきかを悩み居座っていた。
作戦を考えるのはエヅであるが、そのエヅが敵に萎縮し、挙句アンリアルにまで萎縮して行動をとれずにいるためである。
頭が良く、考えを纏めることができる彼女であるが、能力は戦闘向けではないし、根が暗く卑屈な思考をする彼女は、恐怖には従順。
よっていまは何もする気がない。
「エヅ、やっぱここで時間を食うのはまずいと思うぞ?」
ここに泊まろうと先に言っていたアンリアルがそれを言う。
「そうは言いますがね、アンリアル、私達が倒した三人の忍者だけでフローレン達を全員倒すのは物理的に不可能です。最初の二人と遭遇した時に四人は襲われていたでしょうし、後の風に乗ってる人は無傷でしたし」
といってもレップウが無傷で二人を倒したことをエヅ達は知らない。
それでもエヅは自分の意見を懇々と述べた。
「どこかにもう二組以上は敵が潜んでいるんです。それを迎え撃つためにもここで待機をすべきでしょう」
「ここで待機、か。普通に考えたらもうこの町を過ぎて中央に向かっているんじゃないか?」
東のクレムルームを通り過ぎ、ジッカ達を殺して過ぎ去った。
エヅ達は四人の死体の確認をしたため、十中八九忍者達は過ぎ去っているだろう。東から来ていれば、の話だが。
エヅは言葉を濁しつつ説明を続ける。
「いいですか? 敵がどこから攻めてくるか、というのは思い込んではいけないのです。この町より先に中央へはいくらか町がありますが、分岐しているから敵と遭遇できるかは微妙。もしかしたら敵はまだそこらにのさばっているかもしれない、クレムルームとルサングルを結ぶ唯一の要地にして絶対のルートがここ、だからここで待ち望むのがもっとも確実なのです」
詭弁というかごまかしというか、言うまでもなくアンリアルは争いが終わるまで戦わずに済ませたいだけである。
そもそも、前日と、前日というには短すぎる時間前、ウミワタリ、ワナゾラ、レップウの三人と交戦したことすら計算外なのだ。
ビビリのエヅが臆病になるのは道理である。
「それじゃお前の言う通り、迎え撃つことになっちまうぞ? 本当は敵と会わずに中央に向かうのが一番なんじゃないか?」
アンリアルの言う通り。敵が居ようと居まいと、ともかくアンリアルから離れ、より頼りがいのあるエクシェル達と再会するのがエヅの目的である。
しかし。アンリアルは、まるで東から敵がこちらに向かうような言い方をした。
「なんでですか? どうして敵がここにくるんですか?」
確かに敵襲来の狼煙は中央であがったが、中央の敵は倒したに違いないし、大陸へ上陸する敵はますます増えると考えるのが普通。
その普通を無視して、アンリアルは言う。
「敵がこの街を支配してからこっちに来たっていう可能性も充分あるんじゃないか?」
つまり、中央、帝都ルサングルを征服してから東に出陣してきた、と言っているのである。
外国から来た敵が西や北や南の端の海から大陸通って来た、言っているのだ。
「はは、そんな馬鹿な。ルサングルにはアークス皇帝やエクシェル様がいるんですよ?」
中央にいた二人が、東から来たエヅ達より早く交戦するはずである。
「それもそうか。でもなぁ……」
「なんですか?」
「俺の強者に対する勘が言っているんだ。敵は東にいると。そしてこっちに向かっていると」
エヅはこれまで見せたことのないような笑いをこらえる顔でアンリアルを一瞬だけ見て、すぐ顔をそらした。
「そっそそそうですか、強者に対する勘ですかぷーっくくくくく!」
こう露骨に馬鹿にされてはたとえ愛しくてもアンリアルは苦い顔しかできない。
だが、愛しいからこそこの妙に不安な気持ちを抑えることができない。
「とにかく!」
大きな声で殺されるかと思ったエヅはすぐ真面目な顔で向き直った。
「ここはなんか危険だ。神にもアグジスにもアークスにも何も感じなかった俺がこんなにヤバイって思っているんだ、絶対ここはヤバイ!」
ヤバイとか勘などと曖昧な言葉に従うほどエヅはセンチではない。
しかしアンリアルに対する恐怖に加え、やはりただ留まるだけでは戦略的に無意味だと悟っている。
「そ……そうですね。敵がどこにいるか分からない以上、クレムルームに戻るか、帝都に向かうかどっちかを選ばなくっちゃ……うう、辛い」
「クレムルームにどれだけのアナザーがいると思ってんだ? ここは一刻も早く情報を帝都に送るべきだろう?」
アンリアルの言う通りである。
クレムルームは全滅しているのだが。
「そうですね、よし! 私も腹を決めましたよ!」
エヅが腹を決めたところで宿を出る。
だが、そこで純忍が一人青のウミと遭遇した。
「エヅ、走れるか?」
「ゲゲーッ!! 忍者なんでここに!?」
「む?」
ウミからすれば、有象無象の女二人、しかし二人の反応が気にかかった。
アンリアルの呼びかけに返事すらせず走り出そうとするエヅを、水が囲んだ。
「エヅ! こっちへ!!」
急速転換、エヅはすぐアンリアルに飛びついた。
「まさかとは、まさかとは思うが……ワナゾラ、レップウ、ウミワタリ、カイの四人に何かしたでござるか?」
「俺が殺したのは三人だけだぜ?」
カイはそれぞれの町の青忍者と合流し中央の援軍に向かったのだが、彼はこの街にカイがいないことを深読みしてしまった。
ちなみにであるが、結局ウミワタリがワナゾラに殺されたと思い込んで辻褄まで合った。ワナゾラが不憫なだけであるが。
アンリアルは返事をしてすぐエヅを左腕で抱き寄せつつ右手でナイフを放った。
が、ウミの水の防壁に遮られ、斥力の勢いも失われた。
「水を操るのか? 随分強そうな能力だな」
「実際強い。試すでござるか?」
水が球状に二人を囲む。アンリアルはすぐ斥力でそれを跳ね除けようとしたが、水はゆらめくのみで形すら変えない。
「放置しても酸欠、しかしそれで終わらぬのが拙者の水操術!」
水で出来たドームの内側へ、水で出来た槍が次々に二人を襲う。
アンリアルは斥力を発生させ水槍だけでも弾こうとするが、それをすると一緒にいるエヅまで離れそうになる。
アンリアルは斥力に負けないほど強くエヅを抱きしめた。
近づけば強まるアンリアルの斥力で、なんとか水槍は二人の間近で弾かれていく。
だが、一切油断なら無い状況に、アンリアルすら狼狽した。
「これはやば! ……あ、あの、無益な戦いはこれ以上」
「無益だと? 拙者の仲間を殺生しておきながら!」
水槍の勢いと数が少し増した。アンリアルのとってつけた穏やか作戦はやはり全く意味を成さない。
数と威力の増す水槍を防ぐべく斥力を強めねばならない、しかしそうなるとエヅも同じほどの力で離れようとする。それを留めるのはアンリアルの腕力のみ。
「アンリアル、絶対離さないでね! 絶対離さないでね!!」
分かってはいるが、アンリアルの腕は既に震えるほどに限界が近づいている。
斥力を最大限に使いこの水のドームからエヅだけでも抜けさせるという方法を考えた。
しかし水槍の猛攻は衰えずその一瞬の間にアンリアルかエヅのどちらかが串刺しになることは間違いない。
一体どうすればよいのか、体力の限界が近づく中、アンリアルは冷や汗を流しながら考えた。
「死ぬぅ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……」
目の前の秀才はこういう危機的状況に限って役に立たなくなる。そこが好きなところでもあるのだが。
とにもかくにもアンリアルは一つの手を講じた。
エヅを押し倒し自分もそれに覆いかぶさったのだ。
「なにをしてるの!?」
あまりの驚きでエヅの発音は滅茶苦茶になっているが、アンリアルはそれも気にせず抱きしめた。
地面を背にすれば斥力はエヅが苦しむだけでアンリアルの腕への負担はなくなる。
また、上からの水槍も自分が盾になることでエヅを助けることができる。
二人同時にやられなければ、もしかしたらエヅの口車で生き残れるかもしれない。
地面に押し付けられるエヅは苦しそうな表情だが、それでも死ぬほどではない。
体勢は楽で防御も出来る、そしてエヅを抱きしめることもできる、完璧な姿勢に思えた。
しかし。
「うぐっ! 痛い、アンリアル、痛い……」
「耐えろ、何か策を練らないと……」
「あっ、ああっ、あぐ」
エヅの瞳からじんわりと涙が零れ、ようやくアンリアルは気付いた。
地面から水が出ていた。
「エヅ!?」
気付いた瞬間、気が緩み斥力が弱まる。
エヅの体から飛び出た水槍がそのままアンリアルをも貫いた。
足の先から胸元まで、計十五箇所に風穴があいた。
そしてアンリアルは、またこんな死に方か、などと風情を感じて叫んだ。
「んのやろぉ……」
体をなんとか上げて、後ろにいるウミに左手を伸ばした。
それすら貫かれたが、その時既にアンリアルの意識はなかった。
「戦士よ、ニンニン」
それは別れと追悼の意味である。
そしてウミは中央に向かった。




