アンリアルVSレップウ
無事送り出された純忍に加え、マーグより遥か南、シーベ大陸にいた純忍たちも類稀なる力を持ってしてマーグ大陸に向かっている。
しかし彼らは本土に凶悪な神が来襲していることを知らない。
エクシェルとアグジスはそれぞれ北と西の忍者を鎮圧しつつ、その際ハナゾノが寝返る。
南ではアークスがガンリキ達を屠ったが、いまだ赤忍者の進撃は止まらない。
中央では覚醒しつつあるダグラスと執務のニッケルが急ぎ動き元元帥まで活用するが、緑忍者の進軍に遅れてしまった。
そして東。
真夜中、なんとか取り戻した街でアンリアルとエヅは宿をとった。
「なあエヅ、いいだろ……」
どれだけ罵倒の言葉を思いついても、エヅが真っ先に思いついた言葉は『冗談じゃない』であるが、アンリアルの態度は、事実冗談ではなさそうだ。
命か貞操か、性的な意味以前にエヅは人としての道を守りたい気持ちがある。
が、いかんせんエヅにとっての全ては命で、そのためには人道など二番目だと考えていた。
だがしかし、死んだところでエクシェルなら治すことができる。
どうするべきか、悩んだ末にエヅは立ち上がった。
「ちょっと、夜風に当たってきます」
「待て、俺も行こう」
エヅは聞こえないように舌打ちをして、外に出た。
既に街は暗く、外灯の光りしかなかった。
「どこに行くんだよ、エヅ!」
アンリアルのいない場所ならどこでもいい気がした。
この大陸には太陽なるものがあっても、月なるものはない。
なので夜の闇は暗く、エヅが離れていくたびにアンリアルは見失いそうになる。
「待てって、そんなに俺のことが嫌いなのか?」
「別に、そんなことはありませんよ」
良い笑顔で嘘をついた。
先に先にと歩くエヅは、はるか高きに忍者が控えていることに気付かなかった。
情報収集が取柄で『風に乗ることのできる』レップウはクレムルームまで行き敵の情報を得ることなど造作もない。
更にその素早さで数人のアナザーを殺し、ここまで逃亡することも出来て、それをした。
その情報で、クレムルームにはウミが向かい、この街にはレップウとカイが控えている。
そして、レップウが一人で敵を見つけ出したのだ。
夜目が利く忍者に、二人の顔を確認することは造作もない。
(ウミワタリとワナゾラを倒した相手、強敵でござろう)
その自覚はあるものの、それでも彼はウミに残党狩りの、クレムルーム強襲をさせた。
そうまでして戦うのは、かつて同じ里で戦ったワナゾラの敵討ちである。
「ニンニン、大幹部エヅ覚悟!」
空より滑り落ちるような動きはまさしく滝の如く、エヅはその存在にまるで気づけなかった。
それでも、急に弾け飛んだように吹き飛び、こと無きを得た。
「シット!? 何が起きたでござるか!」
アンリアルの斥力でエヅが押し出されただけである。
続いてエヅの斥力でレップウとアンリアルが激しく引き合う。
(これは……風ではない!)
即座にクナイを構えるレップウ、向かいのアンリアルは既に両手に短剣を携えている。
アンリアルは自分で能力を制御しているために超高速で走っているようにしか見えない。
一方のレップウは自身の能力を使っても軌道修正をするのが手一杯で、突風に吹き飛んだチラシのような状態。
「カラクリ回転縦横陣!」
最大限能力を応用し、風と軌道をあわせ、なんとかレップウは態勢を整えた。ちなみに技名は彼の適当である。
なんとかまともに向き合う形になり、改めてアンリアルの攻撃が始まった。
不意討ちに、まずアンリアルの口の中から短剣が飛び出した。
これは能力でも何でもない。ただ口に入るようなサイズの短剣を押し込んで隠しただけである。
それを驚愕しつつレップウはクナイで弾く、しかし続いてアンリアルの両手に持った短剣が射出された。
左手の方はなんとか避けたが、右手の方はレップウの左肩を掠る。
だが掠っただけ、アンリアルは丸腰になってしまいレップウの有利に変わった。
「ニンニン、大幹部アンリアル!」
レップウが勝利を確信したが、アンリアルは先ほどまで二人の後ろで加速させていた斥力を止め、新たに二人の間に発生させる。
吸引から反発、急停止して、二人は対面した。
「アンリアル、ワナゾラの仇を討たせてもらうでござる」
「おお、そういう熱い奴は嫌いだが、強い奴は好きだぜ」
ドレススカートの中からアンリアルはまた短剣を二本取り出す。
だがそれより先にレップウがクナイを持った。
「お命もらったでござる!!」
「いや無理だろ」
アンリアルの自信は、彼女が新たに考え出した必殺技によるものである。
風に乗り尋常ではない速度で動きクナイを数本放つレップウ、だがアンリアルは斥力でクナイをそらし、かつ彼が射程範囲に入るまで待った。
「雑魚は死ね」
アンリアルの言葉の後、レップウの動きが完全に止まった。
「な!? 動けん、動けんでござる!!」
動きが止まったのではない、何かに押さえつけられるような感覚がして体を、戦闘態勢を保つことで精一杯なのだ。
そこにアンリアルは短剣を一本、無慈悲に放ちレップウの頭を射抜いた。
レップウもまた、命を落とした。死の直前に考えたことはカイとウミへの謝罪であるが、毛ほどの役にも立たない。
アンリアルの秘策である必殺技、それは敵にもよるが絶大な強さを誇る。
近づいた敵の全方位に強い斥力を発生させることで完全に動きを封じてしまうのだ。
それはぎりぎりしまる万力のようで、自力で脱出する以前にその状態で平静を保つことすら難しい。
しかも、アンリアルはその状態で普通に攻撃が可能、自分が攻撃する場所だけその瞬間斥力を解除すれば良いのだ。
そして実際、今、それをお見舞いした。
「エヅ、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ! たんこぶできちゃいましたよ!!」
石畳に派手に転んだわりには、眼鏡も平気そうである。
「あっはっはっはっは! 眼鏡よりデコの方が前に出てたのか!? 本当にデコ眼鏡なんだな」
「んなわけないでしょ!! めがねがこう……こう押し込まれて」
赤くなったおでこを抑えながらエヅは涙と苦痛に堪えた。
その一部始終をカイは見つめていた。
『全身に甲殻をつける』ことしかできない彼は、体術を組み合わせ格闘において横に立つものがいないとさえ言われたこともある。他の忍者に体術で負けて、あっさりその評価を撤回したが、それでも定評はある。
だが、強くとも動きを封じられて一体何が出来るのか。
「レップウ殿、ニンニンでござる。後はウミ殿に任せるでござるよ」
そしてカイは西へ、中央へと逃げた。
一方、クレムルームは完全に水没。生存者はただ一人。
「…………」
あまりにも呆気ない戦闘、数々の能力者がいながら、碌に統率もできていない軍団。
様子を見ると頭領もいなければ幹部も少ない、烏合の衆であることに間違いは無かった。
自ら残党狩りを申し出たレップウの言葉に嘘はなかったか? 今考えれば答えはすぐ出る。
確信は持てないが、恐らくレップウはワナゾラの失態を自分で償おうとしている。
部下の裏切り、嘘、これほど自分が頭領として、純忍として役を成しえないのかと、いくらか悩んだ。
だが、今はもう良い。
彼とて元は一人の戦闘員、たまたま実力があったから純忍として白羽の矢が立っただけ、これだけの、クレムルーム約千人の命分の戦果があれば誰も文句はあるまい。
彼はその日、死体の山の中で寝た。




