サイガードVS青忍軍
アンリアルとエヅ中心のプライムリザルツ部隊と、ウミが率いる忍者部隊、最初に接触したのは純忍青のウミとサイガードのレーナとエメラウネである。
「なんかさぁ、戦いって感じしないよね?」
「そうね、敵の姿は確認できていないし、そもそも敵から逃げる形になっているもの」
金色の長い髪をたなびかせるレーナと、緑色の短い髪を纏めたエメラウネは、性格も体格も対照的ながら仲は良かった。
漠然と適当に物事を言うレーナは、詳細に考えるエメラウネと組ませることで結局は正しい答えを導き出す、互いが互いを支えあう関係とも言えた。
「でも早く帝都に戻りたいよね! 何食べよっかな~」
「もう、レーナは食べ物のことばっかり……」
エメラウネは視線を鋭くし上方を見た。
何もない風に見えるが、エメラウネは違和感を持った。
「レーナ、戦闘準備を」
「マジ?」
アンリアル達サイガード部隊は、既に一つの町の住宅街に入っており、目前には高層の建物、周りには普通の舗装された石畳の道が広がるのみである。
「何にもないよ?」
「いいから!」
言われて、仕方なくレーナは自分の能力である『五感を共有できるハエ』を出現させた。
ハエは自身で調達せねばならないうえ五匹まで、しかし動きを操作できるので情報収集にはうってつけである。
一方のエメラウネも『自分の身を守る鉄壁の盾』を鎧のように全身に纏った。これは防御のみならずタックルなどの打撃にも使うことができる。
しかし彼女達は所詮一兵に過ぎない。能力は長所短所がはっきり分かれ、状況によっては全く使い物にならない。
なので、頭領を務めるような存在には手も足もでないといっていい。
「! エメラウネ、青い忍者が……」
蝿が視認した忍者は建物の中にいるが、様子がおかしい。
窓がぴしぴしと音を立てる、何かと思えば、中から割られようとしているのだ。
だが忍者は部屋の中心ほどにいる。窓まで数メートル、一体どうやって窓が割られようとしているのか。
「レーナ、私の後ろに……」
窓が割れた瞬間、水が噴き出た。
ハエが飛ぼうが盾で防ごうが、圧倒的物量の水に囲まれてしまっては誰だって窒息するだろう。
幸い水はただ流れるだけで窒息はないが、ガラスの破片や机などの家具が大量に流され、ハエを使役するしか能がないものはすぐに体が潰された。
綺麗ともいえぬ水に浸されたエメラウネは、無残な仲間だったものを見て激情に駆られたが、それでも上からやってきた忍者にいきなり飛び掛る愚かな真似はしなかった。
「あなたが、敵……!」
「ニンニン、拙者は青のウミでござる。それでは、尋常に抹殺」
盾の隙間に水の槍が入ったのは、挨拶とほぼ同時だった。
かろうじて倒れる瞬間エメラウネは腕を伸ばすことをした、それだけだった。
「二人とも、ニンニン」
そのニンニンは別れの挨拶である。
ジッカとフローレンの歩く南だけはギリギリ街道をそれて、森になっていた。
「もう歩きたくない、面倒くさい」
「フローレン、弱音ばかり吐いているとエクシェル様に怒られるよ! そうでなくてもアンリアル様に何をされるか……」
レーナとエメラウネが親友のようであるならば、この二人は親子のようである。
フローレンはウェーブがかった薄紫の髪を豊かに揺らしながら、今にも倒れてしまいそうな姿勢で歩く。
それを軽度の念力が使えるジッカが支えるのだ。
「あとどれくらい歩けばいいの~?」
「ん~、一端戻ってエヅ様達にこの町で休息してもいいかなって聞きましょうか?」
「さんせー!」
親と子のような、教師と生徒のような、二人の穏やかさはここで終わった。
「ニンニン、二人とも只者ではないと見たでござる」
声はすれども姿は見えず、身持ちの柔らかそうな男の声だけが聞こえた。
「今の声ジッカ?」
「そんなわけないでしょ! 恐らく、敵……しかも、南の大陸の忍者みたいね。同盟してたと思うけど」
「ご名答でござる、我々にも色々あって……ともかく、尋常に投降するか、尋常に切腹するか、選ぶでござる」
いまだ姿の見えないレップウは物騒な物言いを続けるが、サイガードのアナザーは女性でも強い。
「なら尋常にぶっ殺す。ジッカ、サポートよろしく」
「オッケーフローレン、いつでもやって!」
眠そうに瞳を擦り、そしてフローレンはしゃっきりと目を開いた。
「カモン!」
緑色の拳サイズのタコが四匹、彼女の周りを飛行している。
「デビルフィッシュ!? なんと邪悪な」
「クッツー、敵はどこ?」
それらは浮いたタコに向けられた言葉。返事はなくとも、タコの鋭い眼孔は一心に一箇所を見つめている。
「ジッカ!」
「了解!」
ただ浮遊するだけのタコは近づくものを噛み殺す、タコとは思えぬほど頑丈でなかなか死なず、かつとんでもない量を食い散らかす、本来はフローレンを守る存在である。それをジッカの能力で動かし敵にぶつけることで能動的に攻撃を行うのだ。
が、ジッカは焦りのあまり、タコを全てはなってしまう。
フローレンがそれに驚きの表情を浮かべた。
「ベリースウィート、激甘でござる!」
タコをあっという間に避けたレップウはそう言って、全く無防備なフローレンの喉笛を掻っ切った。
「フローレン!」
「ジ……カ……」
血が噴き出て、そのままの姿勢でフローレンは仰向けに倒れる。その瞳はジッカを見つめていた。
自分の身を守って、というフローレンの想いを、ジッカは恨めしそうに自分の名前を呼んでいると誤解してしまったため、狼狽は甚だしい。
「忍誅!」
結局二人とも殺された。
ウミは実力がずば抜けていたため仕方ないと言い訳できるが、この戦いはジッカのミスといわざるを得ない。
それでも忍者の高い実力は充分証明できたかのように思える。
科学技術などは全くと言っていいほど持たず、馬すら食用。
だがその分彼らは肉体を鍛え上げており、現にレップウは能力を使用することなくただ一本の忍者刀でのみアナザーを二人倒す快挙を成し遂げた。
して中央、街を横切るエヅとアンリアルもまた敵と遭遇しようとしていた。
「全く、エヅは怖がりだなぁ」
べたべたと手を繋いだり、頬を撫でたり、頭を撫でたり、あらぬ場所をまさぐっているのは全てアンリアルの勝手でありエヅの意志は介していない。
「……」
エヅは怒りが頂点に達する直前ではあるが、それでもやっぱり命が惜しい。
「ふふ、この街に泊まっていかないか? 元々物資もここで買い集める算段だったし、皆を呼び集めて、安く済ませるために部屋を二人で一つ借りるんだ。な、いいだろ?」
(忍者早く来てくれー)
エヅは無言ながら表情を固くしている、そして言葉どおりの事になった。
「ニンニン、尋常に不意討ち!!」
真上から降ってきたワナゾラは既に忍者刀を振りかざし二人の頭を狙っている。
エヅは何のことか分からずただ驚愕したが、流石にアンリアルは対応が早い。
斥力をワナゾラとエヅ達の間に発生させ、自分達はしゃがみこみ、敵は空へ押し上げた。
「むぬぅ!? なになになになに死にたくない!!」
「なんでござるかー!?」
二人が突然の追いやる力に驚き、アンリアルだけが冷静に状況を判断できる。
「ちっ」
しゃがむ、という姿勢及びその行動は、次の動きを鈍らせ非常によくない。
けれど斥力で自分の体を意のままに動かせるアンリアルにとってその姿勢にデメリットはない。
「ニンニン、尋常に不意討ちでござる!」
二人の左方よりウミワタリがホースを持ち現れた。
『液体に反発するアメンボのような体』を能力として得た彼は、そこらじゅうを水浸しにすることで自由自在な動きをすることができる。
今は亡きデッドマンの能力を水限定にしたような能力だが、時と場合によれば強い。
どこぞの民家からかっぱらったホースから水が出たものの、アンリアルの斥力のため思うようには広がらず、むしろ自分に水がかかってしまう体たらく。
「ワナゾラ殿! こやつは念動力の類の能力者でござる!!」
「む、むぉおお知ってるでござるぅ!」
空より不意討ちしてきたワナゾラは、いまだ地上に降り立てない。
「あ」
とエヅが呟いた。
その言葉に反応する前に、アンリアルはドレスの下のナイフを一本、斥力を用いた尋常ならざる速さで打ち出し、ワナゾラの脳天を砕いた。
「どうしたエヅ?」
「いやなんでもない」
「わっ、ワナゾラ殿!!」
ワナゾラは頭を貫いたナイフはそのまま脊髄、骨盤まで通り挙句貫通した。
水の使えないウミワタリはただの頑丈な人間、逃げることさえ視野に入れた。
しかし、都合の良いことが一つ。
アンリアルはワナゾラの死体からあふれ出た血を拭おうとも弾こうともしない。彼女らは血で真っ赤に濡れている。
それでウミワタリは思ったのだ。これはワナゾラが自分のために残してくれたのだと。元々この色分け班のメンバーはほとんどが初対面で、ワナゾラとウミワタリもその例に漏れなかったのだが、ウミワタリはなかなかの人情家らしく、彼はワナゾラの血で濡れる二人を見て感動すら覚えた。
「行くでござるよ!!」
右手にホースを、左手にクナイを持ちウミワタリは突進した。
アンリアルがナイフを数本打ち出したが、ウミワタリは油を塗りたくった以上に滑り、全く傷つかない。
「なにぃ!?」
ホースの水で自身をびしょびしょに濡らしたウミワタリ、肌に触れるナイフは全てその水によって濡れる。
つまり彼に触れる物は皆濡れる状況、濡れたものを弾く能力。
ならば自分が濡れている限りあらゆる物質の運動を摩擦ゼロにしてダメージを防ぐことができるのだ。
「アンリアル、アンリアル」
「なんだよ!?」
「あいつの能力、水を利用しているみたい。今私達が血で濡れているのも危険っぽい」
ウミワタリ自身が濡れている場合、ウミワタリは無敵になれる。
しかしそれだけでは敵を倒すことができないのだ。
だが、もし対象が濡れている場合、ウミワタリは触れているほとんどのものを自由自在に自分の体に滑らせ操ることができる。
そうなれば合気道のように人を操り、骨や関節などを極めることができるのだ。
それを聞き把握して、アンリアルは黙って考える。
その間にエヅの能力について説明する。
一を見て十を知る、書類などでしか使えない能力がワナゾラとウミワタリとの戦闘においてなぜか敵の能力まで察知した。
一度死んでしまったために覚醒したのか、エクシェルに治された時不十分な能力が補填されたのか、理由は分からないができるようになったものは都合よく利用すべきである。
色々考えた結果アンリアルは、エヅを思い切り抱きしめた。
「心中はやだよ!?」
「死ぬのは俺だっていやだ。いや、でもお前となら……」
などとふざけているともうウミワタリはすぐそこである。
「離せ! 放して放してってば!!」
「こんなこというのもなんだけど、愛していたぜ」
心底性質の悪いジョークであった。エヅは半分泣いている。
直後、三人の体は天高く舞い上がった。
「なにごと!?」
「うぎゃあああ!!」
一応、上がウミワタリで下がエヅの言葉である。
何が起こったのかはウミワタリにもエヅにもわからない。
が、アンリアルの考えは明瞭である。
空に上げてしまえば太陽のために水はすぐ乾く。それがなくても高度が高くなるとびしょ濡れのウミワタリの体はすぐに冷え、疲労は大きくなる。
そして、この世界に太陽のようなものはある。
「なあエヅ、アークスの野郎は巨人を宇宙まで吹っ飛ばしたって言うじゃねえか?」
アンリアルの能力は近い方が融通が利く。だから三人一緒に飛んだのだろう。
にやりと笑うアンリアル、いまだエヅもウミワタリも状況が読めない。
宙ぶらりんで浮く三人、エヅとアンリアルはウミワタリの影に隠れ、エヅまでついに気付き始める。
ウミワタリもようやく状況を気付き、唾液を使ったり自ら出血して時間を稼いだが、意味はないに等しかった。
そうしてウミワタリは水が乾き、彼自身がすっかり乾いた後、地面に猛突させられて絶命した。




