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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
防戦・ナーダ大陸!
22/38

それぞれの動向

 アークス達の状況把握は速かった。

 殺したと思った敵が、より多くの敵を連れてきた。それだけで大体の予想はできる。

「すぐ帝国全土に敵襲の報を伝えろ! それと軍隊も動かせ!」

 帝都ルサングルはきりきり舞いの事態である。突如現れた忍者の数は視認した限りでは五十に満たない。

 だが、そんな少数とわかってわざわざ送りつけてきたのだから、一人一人が強いアナザーと考えるのが必然。

「ニッケル、そもそもあの忍者軍団についての詳しい説明が欲しい!」

「はっ、わかりました!」

(つっても国変わったんだよなぁ……)

 政権が変わった程度なら大した変化はないだろうが、情報は少し心もとない。

 それで責任を問われるのは勘弁して欲しい、というのがニッケルの本音である。

 細かな命令などの煩わしい仕事はゴラプスやソワルに任せ、アークスはニッケルの説明を聞いた。

「オンミツの里は元々我らがマーグ大陸の先祖の一部が移住しできた国だといわれています。独立を象徴すべくとってつけたような言語改造や文化造営に勤しんでいたようです。

 元皇帝エルガイムの権力が及ばずアナザーに対して全く嫌悪、厭忌することがなく平和が続いたため、我々のような煩わしい仲違いはないでしょう。そのため個々の強いアナザーが権力を持つようになり、国の中に里というコミュニティが形成されたのです。恐らく奴らは、この帝国の動乱に乗じ、里同士の大きな同盟が成立しこのマーグを奪おうとしていると思われます」

「アナザーって言うのはやめろ。それで、これからどうしたら良いと思う?」

「えっ?」

 ニッケルは責任を取りたがらない性格である。上司でも部下でも責任を押し付けることは可能だが、皇帝に責任を押し付けるなど不可能、よって言葉を濁した。

「それは、政治を行う大執政である私めが決めることではございませんし、軍事などという俗世の事柄に深く関わることはストランダ帝国憲法にも……」

 アークスの目が光った。

「お前はもう参謀官だし、ストランダなどという国はもうない。それではニッケル、これよりこの戦争の全責任をお前に任せる」

「はぁ!?」

 ニッケルの言葉も表情も皇帝に向けるようなものではない、が仕方ないとも思える。

「責任は逃れるものではなく引き受けるものだ。今作戦においてお前に皇帝ほどの権限を与える。精々国を平和にまとめて見せろ」

 言い終わってどこかに行こうとするアークスをニッケルは止めた。

「あなたはどこに行くんですか!?」

「忍者探しだ。敵の一人や二人、俺ならすぐに倒せる」

 自信満々に言い切ったアークスはどんな言葉を受けてもオーラを使い空を飛び、南へと飛んだ忍者を探しに行った。

 ニッケルは、それはもう筆舌しがたいほどの不安に駆られた。

 もし戦争で負けたら、いや負けずとも地域の住人から文句が出れば、また皇帝アークスが敵との戦いで討ち死にしたら、何があっても責任は全てニッケルが負うことになったのだ。

「……………………………………………………」

 長い間無言で冷や汗を流し続けた。

 いっそ国家反逆罪で死刑になった方がマシだったかもしれない、とさえ思った。

 だが、彼は覚醒した。

「死ぬ気で……ではないな。既に自分が死んだと思うんだ。俺はもう死んだぁ!!」

 大声で叫んだ後、彼は動いた。



「では所定通り赤組は南、青組は東、緑組は中央、黒組は北、黄組は西でござるな」

 シノビエンペラーであるハンゾが誰もいない町の裏路地でそのように言うと、どこからともなく返事が返ってきた。

『無事割り振られたようでござる。然れどカラクサがしくじったようで予定の半分ほども到着しなかったでござる』

 忍者一人一人はプライムユニオンのアナザーより肉体は精強であるが、無双とはいかない。五十人程度で敵うほど余裕はない。

 だが、ハンゾは不適な笑みを浮かべている。

「構わぬ、エネミーに打撃を与えるだけでナウは充分。それにミーだけで幹部のみ暗殺すれば、それでウィンでござる」

 忍者とは情報収集と暗殺が専門の、まさしく忍ぶ者。こと暗殺にかけては横に並ぶものは居らず、国民全て忍者であるビッグシノビエンパイアにおいては実際最強の暗殺者である。

 アークスが創神クレアトを圧倒したように、最強と呼べるアナザー一人で戦況を引っくり返すことは可能なのだ。

『そう仰るが、純忍がエンペラーを含めて三人しかいないでござる。これには拙者、驚きを隠せないでござるよ』

 色忍というチームの区別があり、それぞれの頭領が純忍である。

 その色忍は今回の戦において急遽特設された区分けである。

 敵と味方の区別をつけるためには、古来から色が用いられてきた。

 ある時は眉を赤く塗り、ある時は黄色の頭巾を被り、ある時は大きな旗に色を掲げた。

 この忍者達は敵味方の区別と班分けまで色で区別した。それら班長を務めるのが純色の忍者、通称純忍である。

 今回の作戦はカラクサの口寄せにより強力な能力持ちの戦士を敵の本土に送り、一気に制圧するというものである。

 元々は東西南北中央に加えこのエンペラー計六人の純忍が訪れる予定であったが、風船蛙の『膨らみながら上昇し、一定の高度で破裂』という性質をアークスが気付かずに上に打ち上げたために早期に破裂し、予定の人員が送られなかったのだ。

 頭領を失った班が四つ、とても作戦が上手くいくとは思えない。

 だが、いまハンゾが話している相手がいるためにその作戦は上手くいくのだ。

 ハンゾは、話を変えた。

「この国には『電話』というものがあり、顔を合わさずとも会話ができるというでござる」

『線と電気がないとできないなんて、拙者の下位互換でござるよ』

 ここよりはるか南のナーダ大陸から、彼女、薄卵のヒマワリは自信を持って言う。

 ハンゾも同調するように、口角を吊り上げた。

『作戦指揮は拙者にお任せを』

「便りにしているでござる、それではニンニン!」

『ニンニンでござる!』

 ニンニンは出会いでも別れでも使える万能の挨拶である。

 白のハンゾはどこかの機械から流れる警告と注意を促す声を煩わしく聞きながら、しかし心地よく震えた。

 装束に隠れた口元はいっそう吊りあがり、目は緩み、しかし身のこなしに隙はない。

 純忍のいない東か西か北か中央に行けば少人数といえど兵は勇気付けられ戦いを厭わなくなるだろう。

 尤も、それだけが目的ではないのだが。


 前回のリドック半島の戦争から今回の戦争は少し期間が短かった。

 いまだ官職にいくらかの空きがあり、武器や兵の補充も完全には済んでいない。

 挙句、どの地域にどの人物がいるかの確認すら取れていなかった。

 それを望んで忍者は戦争を起こしたのだが、その策は想像以上に効力を発揮した。

 エクシェルは中央にいるというのにサイガードのメンバーはほとんどが修築されたクレムルームに戻っていた。

 マーグ大陸最東、クレムルーム内にて。

「なあエヅ、今この国で戦争が起こっているらしいぜ?」

 アンリアルがにやにや笑いながら右手をエヅの首の後ろに回し、そのまま手の先で頬を撫でた。

「見りゃわかりますよ……ていうか、やめてくださいよ……」

 ぶっちゃけアンリアルはエヅに性的な愛まで持っていた。だがエヅにそのケはない。

 だからエヅは友人としてアンリアルに親しくしながらも、決して心を許さないようにしていたのだが、今回はエヅ個人ではいかんともしがたい状況になってしまっている。

 ニッケルの反乱と別に起こる大陸中央の煙、海外からの侵略を示す赤い狼煙、新たな戦争としか考えられない。

 エヅの思考は、戦争が起きる、死にたくない、アンリアルに体を渡す、の三段階である。少し短絡的に思えるが、大体間違ってはいない。

 エヅは女に体を……など考えたくもないし、男にもそれほどの興味はない。そもそもエヅは人間という事態が嫌いで、彼女の理論では人間はあらゆる人間が嫌いなものであるという。

 例えばエクシェルのような道徳的にも倫理的にも素晴らしい人物がいれば、自分と比較して嫉妬することになる。

 かといってアンリアルのような下衆は、素直に軽蔑し侮蔑し唾棄すべきものとして切り捨てる。

 そうして他人にはマイナスの感情しか持てなくなる。

 そう考える自身すら嫌悪の対象。

 自分も他人も大嫌い。

 けれど、矛盾することだが、エヅは自分という奴をどうにも甘やかす、一人ツンデレ状態なのだ。

 だから思う、こんなに可愛い自分をアンリアルのような女の皮を被った野獣に渡していいわけがない、と。

 けどやっぱり死にたくはない。アイロニーともいう感情にエヅの眼鏡の奥の瞳は濁る。

「真剣な話、これから俺達はどうすりゃいいんだ?」

 アンリアルが真面目に、かつ隈が少し減った顔を間近に尋ねた。

「これからですか……、このクレムルームを拠点にして中央の援軍を待つっていうのが一番でしょうね。でもアンリアルは強いですから一人で中央に向かい直接皇帝の指示を仰ぐのが」

「やだ、離れたくないよー」

(可愛くねぇよ。うぜぇなぁ……)

 エヅは間近のアンリアルにも聞かれないほど小さな舌打ちをした。

 そこでエヅは一挙両得の妙案を思い浮かぶ。

 赤い狼煙の示す敵は外大陸のもの、ならば十中八九海からの襲撃、空から来るとしても真っ先に攻撃されるのは四方の海岸のどこかであろう。

 つまり大陸の外縁に位置するクレムルームはいつ攻撃を受けるか分からない。

 また、中央に向かえばアンリアル以外に、例えばエクシェルなどが自分を助けてくれるだろうから、アンリアルとも離れることができる。

 つまり、あえて自分達はクレムルームを離れることでエヅは安全が手に入ると思ったのだ。

 現在中央が襲われているとしても、アンリアル達を引き連れて援軍に向かえば戦況はよくなり、しかも他の味方とも合流できる。まさしく妙案。

 忍者が中央から攻めてきているということを省けば、完璧な計画である。

 忍者の宣戦が早かったこと、エヅの決断が早かったことが全くついていない。

「このクレムルームに大量の兵を残し、私はルサングルに向かいます。そこで直接情報を知り、また適切な命令を皆に下す。そのために安全が必要ですので、アンリアルも一緒に来てください」

 正式には、皇帝にアンリアルへ別の命令を出してもらうため直接居合わせようと思っていた。

 だがアンリアルは自分が必要にされていると感じて喜び、それを了承した。

 千人超の能力者がいるクレムルームから選び抜かれた、エヅとアンリアルを含めた六人のパーティは、次の町へ行く分だけの食料を持ち歩を進めた。



 一方、アグジスとエクシェルはたまたま同じ場所にいた。

 エクシェルもクレムルームに戻る予定だったのだが、その千人超が同時に行っては中央ががら空きになってしまう、ので仕方なく長官として中央に待機し、暇つぶしに仕事帰りのアグジスに絡んでいた。

「何はともあれ平和でよかったわねぇ」

 しみじみと真横を歩くエクシェルを、アグジスは心底うっとうしそうに見た。

「なんで来るんだよ」

「来ちゃ悪いの?」

「悪い」

「黙れ」

 突然冷たくなる言葉に、結局アグジスが折れた。

 二人が喫茶店に向かい、喫茶しようとしたところで、それが空に浮かんでいたのだ。

 破裂する蛙と、飛び出す忍者。

 そして今に至った。

 飛び出た忍者達は不自然な動きで浮遊し色ごとに各方向に向かい、緑色を基調とした集団はそのまま降り立ち、目を覆いたくなるほどの残虐を尽くしている。

「アグジス、止めるわよ」

「言われなくとも」

 二人ともオーラを身に纏い、人力では不可能な速度で移動をし、まず一人巨漢の忍者をその目に捉えた。

「あれはアグジスに任せるわ」

「あっ、おい!!」

 エクシェルが忍者を軽々と飛び越えるとそのまま見えなくなってしまった。

 そして忍者はエクシェルに気がつき、同時にアグジスを見つけた。

 忍者は鈍間でも力強い動きで、地上のアグジスの方に向かった。

「ニンニン、貴様は何者でござるか?」

 たとえどれだけふざけた喋り方でも、この忍者の緑色の装束は血に赤く染まり、今もなお一人の頭を握っている。

「アグジス。貴様を殺す者の名だ、覚えておけ」

 エクシェルと談笑していたことなど、既にアグジスは忘れていた。罪無き同胞を無碍に殺された怒りを晴らすべく、彼は黒きオーラを身に纏う。

「拙者は青丹のモミジでござる。尋常に抹殺!」

 跳躍したモミジは掴んでいた人間を放しアグジスに手を差し伸べたが、すぐに彼の腕はなくなった。

 アグジスの侵食にかかれば、最初の数秒痛みはない。そのために何が起こっているか気付かない。

 肩近くまで失ってようやくモミジは異変に気付き腕を引っ込めようとしたが、もう引っ込める腕もなかった。

「なあああっ!? なっ! なっ!」

「愚か過ぎて何も言えん……」

 溜息をついたアグジスは、そのままオーラでモミジの一切を包み、その後には何もなくなっていた。

 モミジが落とした人間に近づき見ると、怪我はしているがまだ息はある。手当てを済ませればなんとかなりそうだし、最悪死んでもエクシェルなら治せる。

「少し待っとけ」

 意識はなかったが、アグジスはそう言ってエクシェルの方を見た。

 ピンクのオーラは鋭い針のようになり、見れば忍者は串刺しになっていた。

「さよなら、ニンニン。なんちゃって」

 血を浴びながらほくそ笑むエクシェルに、アグジスは怖気を感じた。

「あら、もう倒してたの? やっぱ戦いじゃアグジスには敵わないわ」

 その後、エクシェルとは様々な相談をして、エクシェルが北へ、アグジスが西へ向かうことになった。

 だがアグジスは血に濡れたエクシェルの印象しか残っていない。

 少し余計な話になるかもしれないが、アグジスという男は、かつてインヴェーダという残虐な組織の首領を務め、新帝国の中でも危険人物と噂され警戒されていた。

 けれど彼は自身のことを、どこにでもいる男だと悟っている。

 能力の削り取るオーラは、血を見ることなく敵を倒すことが可能な、臆病者の能力である、と彼は判断した。

 もう一つの理由が、インヴェーダとして暴虐の限りを尽くしたことにある。

 アナザーと呼ばれ迫害されたら誰だって怒り狂い暴虐の限りを尽くしたくなるだろう、つまり彼は自分が普通の、脆弱な精神の持ち主ゆえの暴虐だと判断した。

 臆病な普通の人間だと考えているのだ。

 いつも比べる対象はエクシェルとアークス。

 自分がアナザーであると知って、真っ先に相談したのは犬猿の仲だったエクシェル、アグジスは自分がアナザーだから『リベレーター』に入り地位を向上させることは当然。

 けれどその時のエクシェルは自分がアナザーであると知らず、ただの人間ながら世間に疑問を抱き、自分に付いてリベレーターに参加してくれた。

 迫害する立場の存在が、自分の良心のために迫害される側にまわって戦おうとしたのだ、その心の強さは尋常ではない。

 その当時からアークスはリベレーターの幹部だった。けれど創神クレアトとの戦いでいやというほどに思い知らされた。あの人はぬきんでていると。

 数え切れないほどの命を奪い、エクシェルがいなければ今この国はなかっただろうというほど数々の人を殺した神さえ、事情をよく知らぬアークスが主導して倒したのだ。

 茫然自失、そんな状態でアグジスは西へ西へと歩いた。

「ニンニン、拙者は梔子のハナゾノ、尋常に……」

 女性の忍者がアグジスの前に立ちはだかった。

「尋常に、なんだ?」

 尋常とは、ナーダでは自然、当然、普通などの意味があり、尋常に抹殺とは所謂天誅という言葉に近い意味がある。

 ハナゾノが押し黙ったのは別にアグジスに強い力を感じたわけではない。

 先ほどまで連絡を取り合っていたヒマワリの言葉が、あからさまに突然途絶えたのだ。

「一時休戦でござる、それではニンニン!」

 ハナゾノはアグジスから逃げるように、北へ去った。


「ニンニン、ヒマワリ? ニンニン、ヒマワリ!?」

 ヒマワリは電話を、線がないと使えない役立たずと罵ったが、実際この忍者達もヒマワリがいなければ通信手段が鳥しかいない貧相な文化しか持っていなかった。

「うろたえるのはみっともないでござる」

 七人組の青い装束の忍者、場を鎮めるのは純忍である青のウミ。

「町を一つ制圧、敵は殺すか捕虜か、今は充分順調でござる。本土の情報はここから集めればいいでござる。拙者達は忍者でござるよ?」

 しかし、別の忍者が言う。

「しかしウミ殿! ヒマワリ殿に何かあったとしたら……」

「彼女も忍者でござる、命の覚悟は出来てござろう」

 しばらく沈黙が場を支配したが、すぐにウミが言う。

「目視したところ、東の果てに大きな要塞があるでござる。それを攻め落としたところで拙者達は再び中央にあいまみえよう」

「はっ!!」

 潔く了承の言葉を発し、忍者は命令を待つ。

「ワナゾラとウミワタリは直進、レックウは南から、拙者は北から回りこむでござる。ムラクモとセンプウは先ほどの町で味方と合流し援軍と情報を伝達、カイはこの町を支配するでござる」

「了解でござる!」

「ウミ殿、拙者は町の支配など……」

「カイ、迅速な攻撃が今重要でござる。お主の防御的能力はここで使うべきでござる」

 猶も不服そうであったが、カイは結局言葉を呑んだ。

「それでは皆、健闘を祈るでござる。ではニンニン!!」

「ニンニン!!」

 そしてその場にカイを残し、皆一斉に駆けた。

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