始まりの深緑・忍者開戦
六元帥と謳われた帝国最強のメンバーは、ダグラスを除き一線から退いていた。
ゴードは死に、ゴラプスは実際何もできなかったことに無力感を感じ、他の者は熾烈を極めた戦に嫌気が差したという。
栄えある帝国元帥のくせに、熾烈を極めたから嫌気が差して退任、など全くふざけた話にも聞こえるが、シルテファシスは新たな夢のため、ケイネはゴードの遺志に影響を受け、ベルモンドは元々性に合わなかったとそれぞれ理由がある。
いま新たに六人元帥が置かれた。ダグラスは前の方が良かったと嘆いていたが、実力についての言及は、良し悪し関係なく、一切なかった。
だが追加された点で、異兵が正式に採用されたために七元帥制になった。
異元帥の席を誰が座るか、ということはアナザーの中で随分議論され噂されたが、欠番ということになった。
エクシェルやアグジス、アンリアルは既に座るべき席があり、かつそのような人材が断った元帥の地位を部下であったものがおいそれと頂くわけにはいかないからである。
もしデッドマンが生きていれば、などと何度も呟かれたが、死人は帰って来ない。
とにもかくにも国が整いつつある今、新たな問題は外海よりやってきた。
「ニンニン、拙者はオンミツの里もとい、ビッグシノビエンパイアから参上したでござる」
全身深緑の装束を纏ったそれは、まさしく忍者だった。
「アークス、ナーダ大陸のオンミツの里っていうところが滅んで新政権ができたらしいわ。その使者が来てるんだけど……」
と、ソワルと一緒に行ってみれば、そこにいたのはまさしく忍者。
「忍者? 忍者なんで?」
「なんでって言われても、政権が変わったんだから同盟とか貿易をしている以上報告ぐらいするんじゃない?」
「ニンニン、拙者は深緑のカラクサでござる」
「こ、こんにちは?」
新皇帝初の外交、外交官もいまだ立てられていないためにアークス自ら恐る恐る挨拶を返したが、カラクサの反応はなく、首を傾けたことだけ判断できる。
とそこで後ろから大慌てでニッケルが現れた。
「アークス様、ここは私にお任せください!!」
そして、カラクサに対面して言う。
「ニンニン、拙者はニッケルでござる」
「伝染した! おいソワル伝染したぞ!?」
無論、伝染ではなく言葉が違うのである。
マーグ大陸とナーダ大陸の言語は非常に似通っている、というか元々は同じだった。それを忍者達が国として独立すべく差異を作り出すために挨拶や文・会話の終了に特定の言葉を加えるなどして言語を無理矢理改造したのだ。
最近はどんどん新しい言葉に挿げ替えていき、専門家や外交官も本土の人間も単語で同じような間違いをするという。
また、忍者にも帝国から移住した者が多いので普通の言葉も案外通用する。要はアメリカ英語とイギリス英語程度の差でしかない。
アークスが頭を抱えながらソワルとゴラプスの三人で待っていると、やがてニッケルが戻ってきた。
「アークス様、大変な事態にてございます」
「これ以上大変なことがあるのか?」
ニッケルは息を呑んでから言った。
「我々の同胞であるオンミツの里は武力によるクーデタで滅ぼされ、かの忍者カラクサは我々に宣戦布告をしに参上したのです」
アークス以外は驚き言葉を失い、それでも事実確認や悲哀の言葉を発しようとしたが、すぐアークスが立ち上がりカラクサの元に行こうとしているのを諌めることになった。
「あの忍者、ぶっ飛ばしてやる」
「アークス! 相手は外交使節よ、そんな愚かな真似はしないで」
「けど、腹が立たないか? あんなギャグみたいな存在に宣戦布告されるのって……」
「皇帝なんだから、腹立つ腹立たないで決めないの。まず話を聞きましょう」
そして、改めて皇帝自らが対面した。
それが敵と分かった以上、ゴラプスやニッケルに任せるべき仕事であるが、アークスは前に出たがる性質を持っていた。
無論、それを諌めるべく、また皇帝を守るためにソワル、ゴラプス、ニッケルの三人が傍に控える形である。
「それでカラクサさん、宣戦布告しにきたって?」
「無条件降伏するか、さもないと即時戦闘でござる。二者択一にてござる」
まだ戦いが始まってもいないのに、負けを認めることになにかの条件もつけさせないなど、馬鹿にするという程度の話ではない。
アークスは激怒した。
「だったら即時戦闘だ! 俺が直接相手になってやる!」
穏やかで温厚なアークスは、やはり負けず嫌いだった。
しかしその性分は一軍を率いる将軍には向いているかもしれないが、一国を率いる皇帝としてはあまりに致命的。
「口寄せ・風船蛙でござる」
言葉と同時にカラクサの忍者装束の腹部が大きく膨らんだかと思いきや、そこから緑色の大きなかえるが出現した。
「これが忍術か!?」
「違うっ能力っ!」
背後に控えていたニッケルが有無を言わさず、ワンベルより譲り受けた回転式拳銃を四発カラクサの脳天に撃ち込んだ。
ちなみに、この拳銃は前皇帝ワンベルが唯一ニッケルに残した物で、新政権を樹立させる前にこれを渡して彼女はとっとと旅立ったのである。ニッケルはワンベルが戦争から帰ってきてからこの銃をくれたことしか覚えていないほどである。
と、つまり、それで使者を突然ぶっ殺したのである。
「おまっ!」
一応外交使節であり、それをいきなり殺すのはどうか。
ぶっ飛ばすと明言したアークスすら驚きはするが、それを咎めるものはいなかった。何よりカラクサが息絶えても風船蛙は膨らみ続けている。
「爆発するんじゃ……?」
ソワルが言って、アークスはすぐオーラを出現させそれを天高く放り投げた。
だが、違った。
天井をつきぬけ飛んでいった蛙が限界を超え破裂すると、中から無数のカラフルな装束を纏った忍者達が各地へ飛び、一斉にマーグ大陸に降り立った。




