二つの大陸の反乱
一方マーグ大陸南、ナーダ大陸には狂気の集団とも呼べるそれが存在した。
現地民はシノビカンパニーと呼ぶその大陸は、里と呼ばれる行政区分で細かく分けられていた。
国民は男女問わず全身装束に身を包み、独特な言葉遣いは誰もが一度は不審に思う。
国民皆戦闘員であり暗殺者、彼らは忍者と言った。
「切腹! 切腹! 切腹! …………」
常軌を逸した切腹コール。
オンミツの里と呼ばれる最大級の里から、一人の指導者が自刃を強制されていた。
「む、無念でござる。このような暴挙を止められぬとは……」
「師匠、ユーの時代はジエンドでござる。これより里はビッグシノビエンパイアへと名前を変え、忍術と体術でワールドを席巻するでござる」
正座した元指導者を見おろすのは、この国の君号であるシノビエンペラーの称号を持つハンゾである。
「無念」
切っ先が肉に食い込み、元忍者王クシカツは息を引き取った。
「皆の衆、これよりミーがシノビエンペラーでござる!!」
城は歓喜の叫びに包まれた。これがナーダ大陸オンミツの里もとい、ビッグシノビエンパイアの様相である。
科学技術とは無縁で過ごしていたが、アナザーに対する解釈はマーグ大陸のそれよりずっと優しく、差別も迫害もない。
案外、こういう国の方が平和なのかもしれない。
マーグ大陸のプライムユニオンに話は移る。
帝国はところどころ戦火が広がり煙が上がる。廃墟同然となった町もいくらかある。
だが、それを主導していたニッケルという男は焦りに焦っていた。
(うおお、ちくしょう、もうもたん)
元々保身ばかり考えていた執務官である彼だが、突如として皇帝がアナザーを容認し、新たにアナザーを皇帝に新たな帝国を作ると言い出したため行動せざるをえなかった。
なぜなら彼はアナザーをそれなりに迫害してきた人物、皇帝がアナザーになると自分はどうなってしまうのか。
恐らく今の安定した職を追いやられ、最悪牢に繋がれ獄死する可能性が高いだろう。
生まれは最高位に属する貴族である彼にとって、安全と楽は絶対必要なもので、そのためにはどんなえげつないことだってやってきた。
今回も兵力は勝っていたし、武器や補給の面でもアナザーより優れていた。
が、いかんせん帝国に住んでいるため彼はアナザーの能力の真なる強さに気付けなかった。
それがいかに強力かは、教養深く知識の豊富なニッケルの知るところであるが、それが実際の戦争にどれほど影響を与えるかは未経験であり気付くことができなかった。
各地で起きた反乱は瞬く間に鎮圧され、自身の軍も敗北寸前である。
しかしなかなかどうして、このニッケルという男はとてもとても優秀なのだ。
最高位の貴族ながら、性格は最低位の貴族のように姑息でズル賢い。必要ないほど念入れをし必要以上に保身に走る。
知識は豊富で、内政のみならず戦争においても、個人の武勇はないものの部下や敵を扇動する術に長けていた。
そのため
(駄目だ駄目だ逃げたい死ぬ死ぬ死にたくない!!)
などと思っていても。
「諸君、時期に援軍は来る! 密集陣形を構築した後、西南西にゆっくりと退陣、のちに後尾軍と合流する!!」
などと――既に後尾軍は失われているにも関わらず――部下の指揮を上げるためにも決して負けを悟らせないように尽力した。
(くっそあのワンベルの野郎! 一度殺しておけばよかった、絶対殺しておけばよかったのに!!)
ちなみに、この頃そのワンベルは忍者が反乱をおこす気配を察知し、ナーダ大陸を出るくらいである。
結局ニッケルのおこした反乱は、数週間と経たず鎮圧された。新政権プライムユニオンの初の戦功は目覚しいものとなった。
帝国一の内政家、元執務官にして反逆者ニッケルは皇帝アークス、参謀次官ソワル、そして相談役ゴラプスの三人の前に、手錠に繋がれ、首に鎖が巻かれた状態で謁見した。
「君がニッケルか、へえ、意外と若いな」
「アークス、若いからといって油断しないで。彼は帝国全土にも広がる戦乱を起こした張本人なのよ」
気楽そうなアークスを戒めるようにソワルは睨んだ。今回の戦いで失われたものは命だけではない、文化的歴史的な建造物のいくらかも彼らの手によって失われた。
ゴラプスは二人に構わず、ニッケルに向き合った。
「なあニッケルよ、いったいなぜこのような戦乱を起こした?」
「なぜ、ですと?」
ここでニッケルは悩んだ。一体なんと答えれば自分の命は助かるのか。
正直な気持ちは、自己保身。
でもそれをぶつけては、あなたって本当に最低の屑だわっ、などとソワルに言われ殺されることは間違いない。
何か綺麗事飾り立てよう、とニッケルは考え口に出した。
「私は、このような専制的支配を起こす帝国にいい加減嫌気が差したのです」
「つまり皇帝の独裁に異論があると?」
「はいっ、ゴラプス殿も分かっておられるはずです。独裁の体制が長引き、後に暗君が現れればこの国は破滅の一途を辿る、と」
「ならお前、なぜワンベル様や我々が遠征している途中に反乱をおこさなかった?」
穴が一つ見つかった。だがそれを許容するほどニッケルは馬鹿ではない。
「えっ、えっとそれは、その時はワンベル様が勇敢にも戦に出陣し、私を信じ国を任せてくださった状況、国民は優秀なワンベル様に反旗を翻すことなど考えもせず、無論私もそうでしたので」
「なるほど、独裁は止めたいがワンベル様に反旗を翻すことはできなかった、と」
「その通りです」
これで大丈夫だろうか、不安に飲まれつつニッケルはその青い瞳をゴラプスに向けた。
するとゴラプスはくっくと笑い出した。
「どうですかアークス殿、この男は」
「うん、面白そうだ。採用」
ソワルだけは厳しい視線で二人を見つめるも、結局諦めて溜息をつき、そのままニッケルに言った。
「それでは、国家反逆者ニッケルを、これよりプライムユニオン参謀官に任命します」
夢のような話であるが、事実である。
「そ、それはいったいどういうことで!?」
「お前がどんなことを考えてこんなことをしたのかは俺は知らん。けれどお前が優秀で、保身に走るのが好きだというのならこの帝国で良い身分におけば問題はない。精々自分の身を守るため一所懸命働いてくれ!」
そしてアークスはかっかと笑った。




