二人の作戦会議室
兵舎を歩き続けるワンベルは出会う兵全てに挨拶をした。
「おーっす! 国のため尽力するように!」
主に士気を上げるためと自分の地位を守るためであるが、その評価は高くない。
真後ろに控える老齢の男性は軍事の最高官である大元帥ゴラプスである。
現在はその他の雑務や皇帝の従者的な役割も受け持ち、本来の工元帥の役割をほとんど失っている。
「ワンベル様、あまりに突然な進撃。外海で何かありましたか?」
この皇帝はなんと自らの国を放り出しマーグ大陸の外へ旅行に行っていた。
そこから帰って開口一番『半島も統一しよう』である。何かないかと疑うのが当然だ。
「国を守るためさ。今どき一つの大陸も統一できていない帝国なんて、わたしゃ恥ずかしくてもう外海にいけないね!」
軽く笑いながら二人は作戦会議のための小部屋に入った。
十人も入れなさそうな小さな部屋、灯りになるものは油の入った小皿だけ。
先ほどのような立派な作戦会議室があるのだが、ワンベルとゴラプスが二人になるときはいつもそこであった。
「それでどうやって攻めたらいいと思う?」
ワンベルのぶしつけな質問にもゴラプスは真摯に考える。
「大まかな流れは、サイガードと手を組んだフリをしてリドック半島の端へインヴェーダを押しやる。両者が疲弊した後に二軍まとめて叩き潰す。というのはどうでしょう」
「明瞭明瞭! 馬鹿でも分かる単純で素敵な手だ」
効率はよくとも盟約などを堂々と反故にする策であり普通なら咎められる。しかしこの国の人にとってアナザーとの約束など何の意味も持たないのだ。
「問題は厄介な能力者がたくさんいる事。そしてエクシェルの頭が切れることだな。インヴェーダとの共闘はしないまでも、二方面作戦ぐらいなら強引に押し通すだろう」
「兵站はこちらが勝っております。いざとなれば奴ら全員リドックに押し留めるだけで勝利は時間の問題かと」
リドック半島は未開の地が多く、海に大きく接しており食用の木の実などもたくさんあるが、住居など文明的なものはほとんどない。
ゲリラ戦のような真似をされると危険だが、基本的にインヴェーダのような荒くれ者にしか生きていけない空間になっているのだ。
「時間の問題、か……」
呟き、苦い顔をしてワンベルは向き直った。
「やなんだよね、あいつらに実力で勝てないってのは。どうにかならんか?」
「ここにワンベル様しかいないので申しますが。個々人の戦闘力では我々が劣っています。たとえサイガードが最後まで騙されたとしても被害は少なく済みますまい」
「やっぱり楽には勝てないか……」
「楽には行きません。けれど、必ず勝てます」
力強く言い切る姿に、ワンベルははにかんだ。
先々代皇帝の時からワンベルの家庭教師をしていたゴラプスはワンベルの人間性も思考も分かっているつもりであり、何としても国を確実なものにしたいという強い想いに答えてやりたいのだ。
「……そうだね、こっちには兵器がある。銃と砲がある。蛮族同然のアナザーには負けるわけがない。負けるわけにはいかないんだ」
そう言い、ワンベルは義手に仕込んだ銃をいとおしそうに撫でた。




