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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
防戦・ナーダ大陸!
19/38

全く関係ないプロローグ・元皇帝の放浪日誌

 マーグ大陸より遥か北に、シーベという大陸がある。

 年がら年中雪が降り積もり、四季や気温の変化がほとんどないため暦など一般的な技術が廃れ気味だが、超能力者と科学技術の発展はマーグより優れている

 が、暦とは一般的に、農耕民族にとって必須とも言える存在である。

 例えばお米、田植えの時期、収穫の時期、そのどれもが暦に拠る、正確な暦なくして安定した生活を送ることはできない。

 太陽の動きを暦は記すが、この世界も太陽に似た天球があり、それの動きをしっかりと把握することで民草は安定した暮らしを送ることができる。

 だが、こと冬国の帝国ミレは一年中が冬。

 植物はほとんど育たず、動物もただいるものを狩るだけで、後は大体魚に頼っているために天文学が発達しなかった。

 普通魚も獣も季節、暦によって考えられるべきものであるが、シーベ大陸の人間はなかなか肝っ玉が座っているのかもしれない。

 そしてその帝国の実態、ミレ帝国は傀儡政権が百年以上も続く国家である。

 城下町のカフェで、厚着をしたワンベルが待っていた少女は、彼女より少し色が暗い赤毛の少女である。

 サングラスをかけ、帽子を目深に被っているものの、そのしなやかで綺麗な長髪は見る者が見れば誰か一目瞭然である。

「サカス、久しぶりだな」

「ワンこそ、いったいどうしたの? 護衛もつけず一人で来いだなんて……」

 ワンベルは以前サカスが見た時より、服は磨耗し見て分かるほど疲労も激しい。

 尋常ならざる事態を警戒しサカスは内心冷や汗をかくが、ワンベルが軽く笑った。

「そう神経をすり減らすな。ただ――皇帝が変わっただけだ」

「え?」

 喫茶店で、輸入した豆を挽いたコーヒーを飲みながらワンベルは一部始終を全て話した。

 アナザーと人の争い、神の出現、仲間が死んだり生き返ったり。

 かつて彼女のマーグ大陸を巡る戦乱は、超能力者『アナザー』を中心に巡り巡っていた。逆にワンベルのような普通の人間にとっては混乱と動揺が激しすぎて気が違うほどの思いもした。

 サカスは途中からコーヒーの一口も飲むことなく、それを真剣に聞き入った。

 全て話し終えると、サカスはようやく訊ねた。

「それで、これからどうするの?」

「旅を続けようと思う。ここから国交のあるオンミツの里とスタライト民主共和国には既に行ったが、他にエルドラもあるし、未開の大陸も沢山あるからな」

「援助は……」

「馬鹿やめろ。一人で自由に行動してこそ冒険家なのだ。君のような、ミレ帝国皇帝の援助があってはどのような行動をとっても政治的な意味が生まれてしまう。それは私の望むところではない」

 なおもサカスは旧知の友人に言葉をかけようとしたが、ワンベルの方がただ一言言ってその場を強引に纏めた。

「ここのお代を払ってくれればいい。それじゃあな」

 会って話すほど重要ではなかったが、シルテファシスなどの友人と暫く会っていないため彼女も寂しくなったのだ。

 冒険家はいつ死ぬか分からない、こういった友人と会っておくことは、孤独に堪えられないワンベルには必須も同然である。


 サカスと別れた帰路の途中、ワンベルは後を付けられていることに気付き罠を張る。

 ひとけのなくなった曲がり角で突如走り出し、積もった雪の中に隠れた。

 無論雪国暮らしの暗殺者相手ならそんなものはすぐにばれる。けれど相手はそこに隠れたと確認し油断をする、そこにつけいるのが罠である。

 案の定、全身白い服を着た、この国の暗殺者『雪解』はその雪の塊を見て安心し、次の瞬間には二発の鉛玉を食らった。

 煙が出る雪から、ゆっくりとワンベルは震える体を起こし、その遺体を見た。

 胸に二発、たび重なる冒険でワンベルの実力は確実に上がっていた。

「やれやれ、友人に会うのも考えものだな」

 貴重な弾の浪費も、アナザーの雪解を倒したことで自信が生まれ、ないようなものに思える。

 血が雪を赤く染めていく。それをワンベルは無視して立ち去った。

 次に向かうのは、いったいどの大陸なのか、それはワンベルにもわからない。

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