エピローグ1:世にも奇しき戦終わりて
この世界より追い出された神、それによる被害は甚大だった。
未開の地であるリドック半島はすっかり焦土と化した。
木々は燃え、人は死に、三つの組織全てが壊滅したように思えた。
しかし。
「本当に、本当に治せるのか!?」
シルテファシスの右足を持ったワンベルは食い入るようにエクシェルに近づいた。
エクシェルは疲れ果て、目の下には隈があるがそれでもしっかり答えた。
「はい、体の一部分でもあれば、私はその人をよみがえらせることができます」
エクシェル自身いつ倒れるか分からないほど疲弊している。
神のレーザーは太く無造作に人を攻撃した。そのため体の大部分を失うが、逆に言えばすっぽりとレーザーを浴びないと体の一部分は残るのだ。
首を失ったダグラスや、近距離レーザーで八つ裂きにされたアンリアルなどは既に息を吹き返している。
そしてその情報を知った者は、森に残っている遺体の一部を捜索に半島中駈けずり廻った。
仲間を、恋人を、友人を、少しでも多くの命を救うために。
しかし、当然完全に体を失ったものもいる。
個性豊かな帝国元帥達は、全員大きな問題を持っていた。
ワンベルはリドック半島の生き残ったアナザー達を皆連れて来、その後日にアナザーを人間として扱う旨を全国民に伝えた。
それと同時に国民の不満が爆発する、更に同時にワンベルは皇帝の座までアナザーのとある人物に渡してしまったので、有力貴族、執政官ニッケルなどは兵を興した。
その新たな戦いはここでは記さず、これまで出た帝国軍の皆の後日談を記す。
首を失ったダグラス、両足を失ったケイネ、逃げ帰ったベルモンド、足首が残っていたシルテファシス、そして普通に生き残ったゴラプスは今も生きているが、一人死んだ者がいる。
特に有力な貴族で、貴族らしい貴族でもあった彼がただ一人死んだことも、高位貴族のバッシングの的になってしまったのである。
そして、ゴードが死に辛い想いをしたのはケイネも同じであると思われた。
「ケイネさんは、本当に軍を辞めるんですか?」
ダグラスが答えると、水色の髪が伸び始めたケイネは平然と答える。
「私はもうこの軍に必要とされていないらしいです」
身近な部下は、皆ケイネの人となりに信頼を寄せるが、他の兵科の者や部外者である貴族は下級貴族のケイネを疎ましく思い、軍に必要がないと判断する。
「でもケイネさん、辞めれてよかったって顔をしてますよ?」
「そうですか? ……なんと申しましょうか、すっかり戦意を失ってしまいまして」
「ケイネさんほどの武人が、これまた何があったんですか?」
「さあ。ただ、私は所詮女性でしかなかったのかもしれませんね」
言ってからケイネは少し笑って、軽蔑し唾棄すべきと切り捨てた男のことを思い出した。
結婚の話は突如ゴードが言っただけで、誰も、ケイネ自身もそれを周りに広めなかった。
二人の関わりは、もう昔の同僚であったということしかない。ケイネ自身吊り橋効果という奴だったのか、ゴードに対する執着は見せていない。
ただ、彼女は軍を辞めた。
一方のダグラスはこれまで通り騎兵として帝国に従い、今も反発を起こす貴族達との戦いに華を咲かせる。
ダグラスもクレアトにより命を失った後エクシェルに助けられたと公表されたが、それを信じない者が半数、ダグラスは人間だったのかと安心する者が半数ほどと、いまだ彼を神聖視する者は多い。
リドックを襲った神を倒したのはダグラスではないか、という議論が大真面目に開かれるほどであった。
シルテファシスは元帥を辞め、科学技術部長という、戦わない役職に就いた。
元々身分の低い彼女はケイネ同様に外部からバッシングを受けその退陣を余儀なくされた。
しかしシル三号をあれだけ充分に扱い、それでも勝てなかった神の存在から、彼女はますます狂気じみた兵器を作ることに心酔していく。
尤も、予算はゴラプスなどにより相当限られるが。
そんなシルテファシスを助けるように、ベルモンドは銃兵顧問として一線を退いた。
言うまでもなく彼もバッシングの対象になったのだが、彼自身前線で戦うことに悩みを抱いていたらしい。
今回の戦争、彼は何もしなかったといっていい。仲間が傷つき倒れる様を見ていくだけで、その苦痛は筆舌しがたかった。
そんな彼も先見性はあり、満足な銃があれば敵に殺されることはないと考え、そういった兵器の開発に尽力することにしたのだ。
ゴラプスは帝国の相談役を務めながら、暇があれば兵に兵法や戦術のいろはを叩き込んでいる。
失われるも同然の命が助かったことで、限界を感じたらしく若い力の育成に力を尽くしている。
今の仕事は反発貴族の説得と殲滅であるが、新皇帝に状況や国家経営の基礎も叩き込んでいる、教育役も買って出ている。
最後に前皇帝であったワンベルは、全ての些事を放り投げ外海に旅立った。
時折新帝国『プライム・ユニオン』の各地で発見が報告されるがどれも不確かである。
シルテファシスもゴラプスも彼女を心配しているが、彼女は改めて皇帝の責任の重さを感じ、自由の方が体にあっていると判断したのであろう。
帝国はすっかり様相を変えたが、それでも根っこの部分は変わらない、皇帝の独裁であった。




